第71話 ダンロッパの罠? キメラ討伐
「来るわよ!」
キメラは強靭な脚を、地面が割れそうな力で蹴り上げ、暴れ牛が突進するような勢いで突っ込んできた。
こんな攻撃するのが分かりやすいのにS級なのか? この魔物は。
アルシアはギリギリまで待ってから、ライオンみたいな顔にめがけて、魔動砲を一発放った。
しかし、キメラの翼が羽ばたき、かわされてしまった。そして、キメラが目前に迫った。
俺はこいつの顔面を殴るチャンスだと思い、拳を振り上げようとしたが、キメラの尻尾が伸びてきて俺に襲いかかろうとするのが見えた。
そう、こいつの尻尾は蛇だ。この蛇は、まるで本体とは別の意志を持っているように、動きが違う。
俺は反射的に振り上げた拳を、自分の身を守る方を意識してしまい、殴るタイミングを失ってしまった。
これはやばい!
「真由!」
すると、アルシアはその蛇の攻撃を魔動拳を打つために魔力を纏った右手の拳で、蛇からの攻撃を守った。
そして、キメラは勢いのまま、通り過ぎるように反対側に離れた。
「アルシア、大丈夫か!? 今、噛まれたように見えたけど」
「だ、大丈夫よ。魔力でガードしていたから」
もしかして、魔動拳って殴るだけの技じゃなくて、ガードすることも出来るのか?
それだったら、俺の技ももっとバリエーションが増えそうだ。
「なぁ、アルシア……あ」
俺はもっと詳しく聞こうと思ったら、アルシアは左肩を手で押さえ、服が破けた所から血が滲み出ていた。
「その傷はどうした? 大丈夫か?」
「擦り傷だから大丈夫よ」
でも、いつやられたんだ? 全部かわしていたと思っていたけど。
俺はキメラの方に目をやると……。
「なにー!! こいつライオンの顔の後ろに、もう一つ鳥みたいな顔があるぞ! まさか、こいつが攻撃したのか!?」
擦り傷とは言え、アルシアに攻撃したのは鋭いくちばしを持った、猛禽類のような顔した鳥で、本体の顔の後ろに隠れていた。
つまりこのキメラは、ライオン、鳥、蛇を合体したもので、一度の攻撃で3体分が出来るということだ。
「また来るわ!」
キメラは俺とアルシアに休む間も与えず、またさっきみたいに突進を繰り返した。
アルシアは魔動砲を、前回より早いタイミングで打ったが、翼を巧みに使ってかわされてしまい、接近を許してしまった。
そして、魔動拳を喰らわしたいところだが、3方向から来る攻撃をガードするのに精一杯で、このまま続けば守るだけの戦いになってしまう。
そうなれば、勝ち目は無い。
なんとか状況を打開しなければ……。
でもこのキメラにも弱点がありそうだ。こいつの戦闘スタイルは『攻撃こそ最大の防御』で、攻撃させる隙を与えない。
なら、こっちからしかければ、一方向にしか反撃出来ないだろう。
つまり、今まではキメラが通り過ぎる事で、頭から尻尾まで攻撃出来たが、こっちが後ろから攻撃すれば、前のメインであるライオンは何も出来ないという事だ。
「アルシア、次キメラが突っ込んできたら、俺は一瞬離れるけど大丈夫か?」
「何をするの?」
「今度はこっちから攻撃をする。出来れば蛇の気を逸らしてくれると助かるんだけど」
「分かったわ。今度は蛇に魔動砲を打つわ」
相変わらずキメラは突進して反対側に来ると、また向きを変えて突っ込んで来るを繰り返している。
そして、キメラがこちらに突進しようと低姿勢に入った時、俺もMPCシステムの準備に入った。
するとキメラがこちらに向かって突進を開始したが、アルシアは攻撃をせずに、接近するまで待った。
俺はMPCシステムで横に逸れる形でダッシュをすると、それに気を取られたのか、ライオンの方は目線が俺の方に向き、アルシアに攻撃が出来なかった。
1つ攻撃が無かった分余裕が生まれ、アルシアは蛇に向かって魔動砲を放ち、鳥の攻撃をかわした。
すると、キメラの動きは乱れた。そして、その隙を突いた俺は、MPCシステムで今度はキメラに向かって、ダッシュをして接近した。
「行くぞ!! これがアグリケーション!!」
ボゴォーーーーーン!!!
MPCシステムによって、いつも通りに強力な物理的な打撃を与えた後に!
ここから魔力も拳に一気に集中させ、爆発させる!
「バージョン3だぁぁぁーー!!」
バーーーーーーーン!!!
キメラは胴体が破れるように裂かれ、血をまき散らしながら吹っ飛んでいった。
ただの魔動拳ならこうはならないが、打撃を与えた箇所なら効果絶大だ。
殴ってから魔力を爆発させる時差攻撃『アグリケーション バージョン3』は成功したぞ。今後はこのバージョンで完成度を上げていこう。
うーん、アルシアは何が起きたのか分からない感じだな。
「真由、今何したの? 凄い破壊力だったわ」
「タイミング外れているけど、魔動ショットさ」
「本当に?」
「本当だよ」
MPCシステムで殴ったことと、魔力を集中させたところ以外は一緒だ。
「でも、凄いわ。S級を倒してしまうなんて」
「いや、俺一人なら無理だから」
なんか以前ほどS級が凄いと思わなくなったな。
多分、魔王軍と一人で戦ったせいだろう。あの状況に比べれば、S級のキメラなんて普通に思えるし、今回はアルシアもいる。
「じゃあ、私は本部にキメラ討伐の事を報告するね」
「それはちょっと待って!」
「どうしたの?」
どうせこれもダンロッパの罠だろう。二手に分かれさせて、すぐにS級の魔物に遭遇するなんて都合良過ぎる。ここは区域外だから、S級もいるかもしれない事を差し引いてもだ。
だから、報告してしまうとダンロッパはまた次の手を打って来るだろうから、ここは黙っていた方がいいだろう。
とりあえずこれで、少し時間稼ぎが出来るかもしれない。
――――こうして、俺とアルシアは、道なりを歩き続けたが、すっかり辺りは真っ暗になった。
相変わらず、森の中の道を進んで来たが、ようやく道先が明るくなっているのが見え、森を抜けられそうだ。
「真由、この森を抜けたら第一中継ポイントがあるわ」
森を抜けるとそこは、遠くまで見渡せる草原の広い丘で、魔力の発光で幻想的な光景を作り出していた。
「綺麗だな。この丘に小屋があるのか」
「あそこにポツンと木があるでしょう」
アルシアが指を差した方向には、確かに一本だけ木があり、その横に小屋があるのが見えた。しかもこの道を辿って行けば簡単に着きそうだ。
小屋の周囲も遠くまで見渡せるから、敵を発見しやすいだろう。
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