第7話 起きたら隣に美少女が!?
目の前に女の子がいる!? 驚いた俺は再び目を閉じた。
相手の顔の距離が数センチしかない。だから、ダイレクトに寝息が口に当たる。
ど、ど、どういう事だ!? 初日からトラブルはご免だぞ、おい!
部屋を間違えたか? いや、確かに408号だったよなぁ。
と、とにかく冷静になろう。また忘れていたが俺も女の子だ。だから、そんな大きな問題にならないはず。それに部屋を間違えていないはずだから、俺が「キャー!」と叫んでもいいぐらいだ。
もし、部屋を間違えたとしても、それは知らずにやってしまった。つまり、これは『善意』だ。そして、面談で言われた通りに408号室に入ったので、俺の過失は無いと言える。
よって、俺は『善意』『無過失』になるので、責任は問えないということだ。
よーし、恐れることは何も無い! ここは堂々と対応しよう。
俺は再び目を開けると、彼女の目は開けていた。お互い抱きながら、見つめ合っている状況だ。
なにー!! どういう状況だよ!!
俺は見つめ合ったまま、彼女の第一声を待つことにした。すると……。
「おはよう」
「あ、おはよう」
意外にも普通に挨拶だった。とっさに俺も挨拶をしてしまったが、この状況に気付いていないのか?
いや、そんな筈は無いと思うが……。
「あたしは去年入学した『Bランク』のミルネ。君は?」
「お、俺じゃなく、昨日入学した『Cランク』の真由です」
「じゃあマユリンだね」
「あ、よろしくお願いします」
依然、抱き合ったままで、もう少しでキスしてしまいそうな距離だ。こんな近くで、自己紹介をしたのは生まれて初めてだ。
このミルネさんは、この状況を何も思わないのかな? この世界では、普通の事なんだろうか?
「あのー、ミルネさん。そろそろ起きませんか?」
「寒いからもう少しだけ……ね? さん付けなんてしなくていいよ。あたし偉くないから。ミルネでいいよ」
「分かった」
『Bランク』だから、敬語を使った方がいいのかと思ったが、そうでもないようだ。というか、こいつはこの状態を、いつまで続ける気だ。
「あー、マユリン柔らかくて、暖かーい。頬ずりしたくなる」
「いや、もうやってるじゃないか!」
「あははは、ごめんごめん。マユリン可愛いから、つい」
こいつは、あいみと同じ匂いがするが、決定的に違うことがある。それは、嫌がるとやめてくれるところだ。
いや、別に嫌というわけではないが、可愛がられると恥ずかしい。
「すぅーすぅー」
あれ、もう二度寝してやがる。
「すぅーすぅ……マユリンもっとこっち」
「起きろ! 頭突き!」
「あいた! 痛いよマユリン……」
「正当防衛というやつだ」
頭突きが効いたのか、ようやくミルネは起きた。
これで抱き合っていた異様な状況から、脱する事が出来た。
「うう……まだ痛いよ……」
「そんな強くしたはずは無いんだが……ゴメン」
よーく見ると、ミルネのおでこは赤くなっていた。
俺は加減したつもりだが、つい力が入ってしまったか。でも、これで起きただろう。
さっきは顔が近すぎて、よく分からなかったが、髪型は明るい茶色のショートで、目がクリっとした、小柄な美少女だ。
身長は俺より少しあるかもしれないな。
服装は白いシャツにショートパンツとかなり質素だ。
そんな格好だと寒かったはずだ。
「マユリンの石頭! こんな可愛い顔してるのに……」
「悪かったよ。それより、ここは408号室で合っているよな?」
「408号室で合ってるよ。それがどうしたの?」
部屋は間違っていないし、向こうも408号室と認識している。
「いや、それじゃあ、ここって2人部屋?」
「昔は3人部屋だったけど、今は2人部屋だよ。1人部屋は『Aランク』以上じゃないと」
いや、この部屋で3人は無理だろ!
「でもベッドは1つだぞ」
「それがどうかしたの?」
この世界の人は抱き合って寝るのか? いやいやいや、男だったらどうするよ。
「それじゃあ、B、Cランクの男達も抱いて寝るのか?」
「あははは、マユリン面白いね。男の子は寝袋で寝ているみたい。女の子同士でも嫌がる子はいるみたいだけど……も、もしかして、マユリンは苦手なの!? 駄目なの!? ね!?」
凄い勢いで俺の所まで寄って来て、俺の両手を持ち、不安そうな目をしていた。
真近でそんな顔されて言われたら、断れないだろう。
まぁ、断るつもりはないけど、俺が男だとバレた時に、彼女を傷つけてしまうから、あんまりそういう事はしない方がいいんだが……。
「ミルネがそうしたいのなら……」
「良かった。今晩も一緒に寝ようね」
今は、仕方が無い。
「ミルネはなんで、一緒に寝たいの?」
「だって寒いし、それにあたし暗い所とか苦手で、一緒に寝てくれた方が安心する」
「じゃあ『お化け』とか苦手じゃあ……あっ」
『お化け』と言ってしまったが、この世界にもお化けという概念はあるのだろうか?
「お化けとか超ムリ!」
あったようだ。
カーン、コーン、キーン
いきなり、リズム感も音程も無い、鐘の音が無造作に鳴った。
「何この適当な鐘は?」
「朝食のチャイムだよ。早く制服に『デザイン』して食べに行こう」
「これがチャイムかよ。そういえば、昨日からろくなもの食べてないから、お腹空いたよ」
さっき、「制服にデザインして」と聞こえたような気がするが……まぁいいか。
俺は制服を鞄から出して、着替えようとした。すると、ミルネが驚いた様子で見ていた。
「その制服、マユリンがデザインしたの?」
「デザイン?」
さっきもそうだし『デザイン』って言ったな。この世界は自分で制服のデザインするのか?
それとも、この制服が間違っているのか。
「い、いや、この制服は『ネスタリア学園』の指定のものだと思うのだが……。違うの?」
「うん?」
「へ?」
会話がお亡くなりになりました。今の会話に何かおかしい所あるか?
それとも、この世界の常識からすれば、相当アホな回答を俺はしてしまったのか?
そもそも『デザイン』って何だ!? 他に意味があるのか?
「マユリン、何か勘違いしているでしょう。魔法の『デザイン』だよ」
「ああ、ま、ま、魔法のやつね……。はっはっは……。」
知ったかをしてしまったが、そうしないとまずいような気がした。
やばい、全然分からない。特に魔法なんて……。
「でも、マユリンその制服初めから『デザイン』されてたよね? 制服用に持ってるの?」
「制服用? いや、あの、その、人それぞれですからね……ははは」
困った時の回答は『人それぞれだから』に限る。
「いいなぁ、あたし貧乏だし『魔力コイン』に回す魔力も余裕がないんだよ」
「そうなんだー、へぇー」
制服に制服用ってどういう事だよ! 魔力コインとかもう分からん。ここは話題を変えた方が良さそうだ。
「それよりミルネ! 朝食に行こう! 腹減り過ぎて死にそうだわ」
「そうだね。あたしも腹ペコ」
俺は急いで制服に着替えた。
そして、ミルネの方に見ると……いや、覗く目的ではなない。
人差し指を立てて、何やら集中し始めたからだ。今着ている服に指をあてると、ミルネはこう言った。
「制服にデザイン!」
すると、指先から白い光が、波紋のよう服の隅々まで行き渡り、あの質素な服が制服に変わったのであった。
その光景を見て俺は理解した。『デザイン』とは何かに変える魔法の事だろう。
そう考えれば、さっきの会話でミルネの言ったことは理解できる。
ミルネは1着で、魔法を使って色々変化させているから、2着持っている俺にそんな事を聞いてきたんだろう。
「マユリンお待たせ」
「おお、いつの間にか髪も綺麗にセットされている」
「ネスタリア市街のお店でデザインしてもらったんだ。可愛いでしょう?」
「いいね」
寝癖が直っているのはもちろん、綺麗なストレートの髪で、右目の上辺りに、ピンで留めてあった。
これも魔法なんだろうか? それになぜか20㎝程の木の枝を、侍のように腰に携えているが、この世界のファッションか……? 謎だ。
「行こう! マユリン。食堂は1階だから」
「あっ」
ミルネは俺の手を引っ張るようにして、食堂へと連れて行ってくれた。
俺はこの世界の『食』に興味があった。
一体、どんな料理が出てくるのだろう?
朝食だからパンなのか? 米なのか? それとも魔法世界ならではのものか?
どちらにしろ、ガッツリ食べたいな。
そして、食堂に着いて、テーブルの上に並べてあるものを見て、俺は愕然とした。
「ゼリーだけかよ!」
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