第67話 ベルリア学園に向けて
ベルリア学園の討伐隊『マジックテック』の隊長である女将は、動き出したミリちゃんの調査を行う為、この辺りにあった建物を急遽、宿にデザインして、俺達を宿泊させて油断を誘う作戦だったらしい。
ところが、欲が出てしまったらしく、油断させれば『降伏の魔力印』を取れると思い、独断で行動に出たということだった。
あの女将、結構凄いな。
でもやっぱり、ベルリア学園にとってミリちゃんは、脅威的な存在なのかもしれない。
この『降伏の魔力印』があるとその討伐隊は、相手の学園に対して戦闘が出来なくなるみたいで、解除する為には別の討伐隊が勝って、お互い解除する交換条件にしたり、相手の要求を呑んだりする交渉材料になる。
アルシアよれば、この『降伏の魔力印』があると有利に話を進められるが、隊長の女将はAランクだから、そこまで価値が無いらしい。
その代わり、女将からベルリア学園のトップに「俺達に敵意は無いから友好的に話し合いがしたい」と、伝達をお願いした。
俺の目的はダンロッパの闇の粛正に協力してもらう事だから、交換条件でなく、自主的に協力してもらうのが好ましい。
――こうして、俺達はマジックテックから『降伏の魔力印』を取らずに宿を出た。
これから先は、討伐隊としての指示が入っても、俺はベルリア学園に向かおうと思っている。
だから、この事を話しておいた方がいいだろう。
俺はダンロッパの闇の粛正に、協力をお願いしにベルリア学園に向かっている事をミルネ、アルシア、ミリちゃんに説明した。
「マユリンがそう決めたなら、あたしはついて行くよ」
ミルネの反応は、俺の事を信頼してくれているのか即答で答えてくれた。
「……うん。真由の考えに私も賛成よ」
アルシアは少し考えてから、俺に同意してくれた。もし、俺の考えに疑問があれば言ってくれるだろうから、納得の上での賛成だと思う。
しかし、アルシアの場合はあのままダンロッパの討伐隊にいれば、Sランクは間違いなかったわけだし、俺と関わったせいでそれも厳しいだろう。
それどころか、ダンロッパを失墜出来なければネスタリアには居られないと思う。
だから、この計画は絶対に失敗させてはいけない。気合を入れないと。
あー、もう一人聞くのを忘れていた……。どうせ、聞いても回答になっているか疑問だが……。
「真由ちゃんはミリのもの」
うーん、相変わらず意味が分からない。とりあえず、俺の考えに特に異議無しという解釈でいいのかな?
あとは、女将が上手く報告してくれたらいいけど、もし失敗すればベルリア学園は、本気の討伐隊を仕向けて来るだろう。
そうなったら、俺の周りは敵だらけになってしまうな。
でも、マジックテックのメンバーは変なやつはいるけど、根はあんまり悪そうに見えなかったから、ベルリア学園に少し期待を持ってもいい気がする……。
――こうして、3人から同意を得られた俺は、ベルリア学園に向けて出発した。
俺達はベルリア学園に向けて進むわけだが、ベルリア学園は方角的には東の方になる。ちなみに魔王軍の本拠地は北の方らしい。
そして、この辺りはネスタリア区域でもベルリア区域でもない。どこも管轄していない区域だ。
この区域にも小さな村は存在するが、どちらも管轄外だから魔物が多いみたいで、危険な魔物が出現した時にこの区域の人々は、近い方の学園に討伐依頼をするそうだ。もちろん、ただではない。
とりあえずこの区域は結構広いみたいだから、早く抜けたいところだが、俺達は普通にゆっくり歩いて行く事にした。
なぜゆっくり歩くかというと、まだ討伐隊本部からの連絡が来ていないから、あまり遠くへ離れたくない。
一応まだ指示に従っていると思わせたい。それに次の指示がどんな内容かでダンロッパの動きが読めるかもしれないからな。
――そして、ベルリアに向けて獣道を突き進み、夜になった。
この間、弱い魔物にたまに遭遇したが、A級以上の魔物に遭遇することは無かった。
これまでは林の中の獣道だったが、これから先は登山になるので、この辺りで休むのがちょうどいいだろう。
しかし、まだ討伐隊本部から連絡は無い。山越えする前に次の指示を聞きたいところだが仕方が無い。
今夜は、獣道の脇に寝るだけの最低限のスペースで野営する事になり、食事はアルシアが持参していた。もちろん、代わり映えしないジュレだ。
そして、就寝する時間。
いつもならミリちゃんと寝るところだが、今回は違った。
「あたしもマユリンと一緒に寝袋で寝たい!」
「うん、分かった。ミリはアルシアちゃんと寝る」
またしても俺に何の決定権も無く、ミリちゃんの承諾だけで決まってしまった。
ミリちゃんにあっさりと承諾されるのも少し寂しくなる……いや、ならないか。
まぁ、ミリちゃんがアルシアに変な事をしなければいいけど。
「マユリン、早く寝ようよ」
「ああ、でもその前にあの2人の寝顔を見たくないか?」
「うん、見たい。マユリンも分かってきたね」
「違う! アルシアが心配なだけさ」
俺とミルネは寝袋に入り、少し時間を潰してから、アルシアとミリちゃんの寝袋の方に向かった。すると。
「何だこれは!?」
「マユリン、可愛い寝顔だね」
俺が驚いたのは、昨晩の宿の時のようにアルシアに寄り添って寝る可愛いミリちゃんだ。
俺の時のように拘束したり、口の中に指を突っ込んだりするような変な事をしそうな雰囲気は全く無い。
なんかアルシアは姉のように見える。
これだったら俺も一緒に寝てもいいのに。
「マユリン、アル姉に抱かれると、包容力で安心した気持ちになれるよ」
「ゴクリ」
もしアルシアだったら、今度は違う意味で寝られないだろう。
「よし、俺らも寝よう」
俺とミルネは寝袋に戻った。
ミルネは一緒に寝るのが嬉しいのか、少し顔がにやけていた。
「ねぇマユリン、寝る時に拘束魔法かけられるの好きなの?」
「危ない発言はやめなさい」
もしかして、この数日の間にミリちゃんから悪影響を受けてないだろうな?
「マユリン、指を入れるのが好きなんだよね?」
「コラー! 気を付けて発言しなさい!」
「ミリちゃんから聞いたよ。ほら」
ミルネはそう言うと、口を大きく開けた。
「そんなにやって欲しいなら、拳をやるよ」
「うごっ」
俺は指の代わりに、拳をミルネの口に突っ込んだ。
本当、何やってるんだろうな。
――――そして、起きる時間にはまだ少し早い、早朝にアルシアが慌てた様子で俺を起こした。
「真由、起きて! たった今、次の依頼が入ったわ!」
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