第64話 交代で見張り
そろそろ就寝したいとこだが、マジックテックの襲撃も考えて、交代で見張り役を一人立てようと思う。
見張りの順番は、ミルネとミリちゃんが眠たそうだったので、先にアルシアと俺がやることになった。
2人が俺と一緒に寝たいと駄々をこねるから、アルシアが先で、俺、ミリちゃん、ミルネの順だ。
この2人がちゃんと見張り役として務まるかどうかは、疑問だが……。
「じゃあ、アルシア任せるけど、どのタイミングで交代にするんだ?」
「それはこの『魔力感知炎』を使いましょう」
するとアルシアは天井に向かって、軽く人差し指を差すと、オレンジ色の火の玉のようなものが飛び出した。どうやら、火のように見えるが、燃えたりするようなものではないようだ。
「この魔力感知炎が部屋の天井をゆっくり、端から端へと移動するから、その時に交代しましょう。魔力を感知すると、この炎の色が青くなるから、注意して」
「おお、これなら分かりやすくていいな」
「マユリン、早く寝よ」
俺ら3人が先に寝る為、部屋の明かりを少し暗くした。そのせいで、魔力感知炎が豆電球に見える。
「それじゃあ、すまんがアルシア頼む」
「うん、ゆっくり休んで」
「じゃあ、端で寝るするか」
この布団は、2枚の布団と合体していて、そこそこの大きさがあり、俺は端を選んだ。
「駄目! マユリンは真ん中で寝るの!」
「なんでだよ!」
「ミリちゃんとそう決めたから」
なんかもう勝手に決まってしまっている。しかも、拒否権も異議申し立てをする権利も無さそうだ。
「マユリンはあたしの隣で寝るの!」
「真由ちゃんはミリの隣」
「ほら、一致しているよ」
「お前ら2人だけだろうが!!」
しかし、こんな事でぐだぐだやって早く寝なかったら、アルシアに怒られそうだな。
どうせ逃れられない運命だったら、この2人を刺激せずに早く寝てもらうのが一番かもしれない。
「分かったから、大人しく寝ろよ」
「わーい、マユリンと一緒に寝るの久しぶりだから、嬉しい」
俺はミルネとミリちゃんに挟まれる感じで、寝ることになったが……。
「マユリン、こっち向いてよ」
「駄目、ミリの方に向いて」
「お、おい、顔を引っ張るな」
3人一緒に寝たのはいいが、今度は俺がどっちの方に向いて寝るのかを、ミルネとミリちゃんが揉め始めた。
仕方ないので、俺は上を向いて寝ることを提案して、なんとかその場を収めることが出来た。
本当、この2人からは緊張感が全く感じられない。
しかし、両サイドから絡んでくるから、俺は身動きが取れずマグロ状態で、ただ天井の魔力感知炎をずっと眺めていた。
「マユリン……好き」
「ぐえ、体重をかけるな! 苦しい」
「真由ちゃん」
「ぐぉお、口の中に指を入れるな!」
お、俺はこんな状態で寝れるのか? きっとアルシアは呆れた顔で、こっちを見ているんだろうなぁ。
俺はアルシアの方をそーと見ると、意外に羨ましそうな表情をしているように見えたが、まぁ、薄暗いし、俺の気のせいだろう。
――そして、どれぐらいの時間が過ぎただろう。
魔力感知炎が部屋の端まで移動し、交代の時間がやって来たが、俺はミルネとミリちゃんに挟まれた状況で、あまり眠れなかった。
だからと言って、交代しないわけにはいかない。
「アルシア、そろそろ交代しようか?」
「真由、起きていたの?」
アルシアは、俺が起きていた事を少し驚いていたようだ。
「交代して大丈夫? もう少し寝る?」
「いや、大丈夫だ。それより、俺にしがみついているこの2人を外すのを、手伝ってくれないか?」
「ふふふ、分かったわ。真由も大変ね」
アルシアに俺の苦労が分かってくれたのかなぁ。
アルシアは一つ一つ俺に絡まった物を丁寧に外して、俺と入れ替わった。
「アルシア、そこは色々と危ないぞ! 端で寝た方がいいぞ」
「大丈夫よ」
アルシアがそう言うと、ミルネとミリちゃんの頭を優しく撫でた。
すると、2人は俺の時みたいに無理に絡むことは無く、寄り添うようにアルシアにくっつき、それは天使のような寝顔だった。
「お前らどういう仕組みやねん!」
「真由、大きな声を出したら起きてしまうわ」
「あ、ごめん」
「真由、あとは任せるわね」
アルシアは仰向けになり、二人を両手で抱えるような体勢で眠った。今日は運動量が激しかったから特に疲れたであろう。
俺も今日は疲れたから、ぐっすりと眠りたいが、あの魔力感知炎が端に行くまでの辛抱だな。
それまで暇だから、今日実戦で使ったアグリケーション バージョン2の反省でもするか。
MPCシステムで殴って、拳が当たる瞬間にMPCシステムで魔力も集中させる方法は、少し無理があった。
魔力のタイミングを合わせようとすると、つい力が入ってしまい、魔力のコントロールが出来ずに一気に暴発してしまった。
これはもっと練習をすれば改善出来るかもしれないが、そんな余裕は無い。だから、もう少しやり方を変える方がいいだろう。
タイミングを合わせるのは難しいから、今まで通りに一度MPCシステムで殴ってしまう。そして、その後に魔力を集中して、魔力を爆発させる。
一回でパンチが2回当たるような感じになるが、今日みたいな失敗はしないだろう。
この二段構えの技を『アグリケーション バージョン3』にしよう。
これなら出来そうな気がするぞ。
ふぅー。
……。
さてと、感覚的に30分ぐらいは経った気がするが、魔力感知炎はまだ1/4ぐらいしか移動していない。ということは、大体あと90分ぐらいは起きていないといけないのか……。
あの炎を見ていると眠気が来るから、あまり見ないようにしていたが、流石に眠たくなってきたな。
でも、耐えないと……。
……。
あと半分……。
……。
……。
あともう少し……。
ここまで来ると眠気マックスになってきたが、俺は気持ちを奮い立たせて、なんとか魔力感知炎が端に行くまで耐えた。
残り30分ぐらいが危なかったが、ようやく交代出来るぞ。
次はミリちゃんだけど……大丈夫かな?
俺は、アルシアに寄り添うように寝ているミリちゃんの傍に行って、ミリちゃんの肩を撫でて起こそうとした。
すると、ミリちゃんは目を閉じたまま顔をゆっくりと上げた。
な、なんだよ。凄い怖いんだけど……。
「ミリちゃん、交代の時間だよ」
俺がそう呼びかけると、ミリちゃんのまぶたが少し開いたと思ったら、白目を俺の方に向けてきた。
これはやばい。なんか凄いやばい気がする。しかも、魔力感知炎が青色に変わった!
「ミリちゃん、あの……ん? うわ!」
突然ミリちゃんから、魔力弾? みたいなものが俺の方に飛んで来た。
俺は間一髪でかわす事が出来たが、これ以上ミリちゃんを起こすのは危険と判断して、起こすのを諦めた。時には諦める勇気も必要だろう。
もしかしたら、これは敵から身を守る為の防衛システムかもしれない。一応、ミリちゃんなりに警戒しているのかもしれないが、俺に攻撃する事はないだろ!
でも、次の交代まであと2時間あるって事だよな?