第63話 トバコだよ
突然、部屋の外から女の子の声が聞こえたと思ったら、得意げな表情で入って来た。
「トバコだよ」
「誰だよ! いきなり名乗られても困る」
なんかこの女の子は、馬鹿な気がするぞ。タイプ的にはミルネみたいだが、髪型がアフロだ。
「このゲームはトバコが持って来たんだよ」
「お前は一体何者だ?」
「トバコだよ」
はい、アホ確定。
「トバコの勝ちだよ」
「何がだよ」
「真由、ごめんなさい。拘束系の魔法にかかってしまったわ」
「え?」
俺以外は、みんな拘束魔法を掛けられたみたいだ。
「お前、何をした!?」
「このゲームの駒に自分をデザインすると、簡単に魔力解析が出来るように魔法を仕掛けてあるんだよ」
簡単に言えば『フィッシング詐欺』だな。メールで偽公式サイトを装って、パスワードを入力させるやつ。
俺は、この駒にデザイン出来なかったから解析されず、拘束系の魔法にかからなかったんだろう。
「全員、トバコが倒したよ。ゲームで遊ぶとみんな油断するんだよ」
全員? このトバコという女の子は、俺がまだ掛ってない事を知らないようだな。
それならばここは掛ったフリをして、隙を突いて倒してやるか。
しかし、俺がそう考えていたら、ミルネがドヤ顔で思わぬ事を口走った。
「ふふん! 甘いよ、マユリンはまだ魔法に掛ってないよ!」
「何で言うねーん!!!」
俺のとっさのツッコミが部屋中に響き渡り、周りが沈黙してしまった。
黙っていればいいものを、なぜ敵に有利な情報をわざわざ提供するんだよ!
「そんなぁ! それじゃあトバコ勝てないよ! トバコは戦闘出来ない」
「お前も何で言うねーん!!」
どうやらトバコは戦闘は出来ないみたいだ。というかこいつはバカ正直か?
「マユリンはゲームを始める前に分かっていたよ、だから渋っていたんだね」
「そ、そうだよ」
なんか都合良く勘違いしてくれたようで助かった。
もしあの時「魔力を使い果たした」とか言わず「罠があるかもしれない」とか言っておけば良かったんだな。
「そうさ、俺はこのゲームが部屋の前にあった時点で、怪しいと思っていたんだ。だから、用心して俺だけでもやらずにいたわけだ」
それっぽく言ってみたが、怪しいと思っていたのは事実だからな。
「さぁ、どうする? トバコっと言ったか? みんなに掛けた魔法を解除するか? それとも俺と戦うか?」
「トバコだよ。トバコでは勝てないから、みんなを解放するよ」
トバコがそう言うと、素直にみんなに掛けられた魔法を解除した。
「マユリン、凄ーい」
「ほーう」
「流石ね、真由。私は全然気づけなかったわ」
どこかくだらない戦いだったが、3人に称賛されたぞ。でも、俺も普通に魔法が使えたら、一網打尽にされていたわけだから、くだらない事はないか。
でも、ミリちゃんなら何とかしそうだが。
「なぁ、トバコ。お前は何者なんだ? なぜ俺達を狙った?」
「トバコはトバコだよ」
「もうその返しいいわ! お前もマジックテックなのか?」
「そうだよ」
こいつも風呂場にいたやつと同じ仲間ということは、ベルリア学園は俺達に宣戦布告をしているのか?
「じゃあ、なぜ俺達を狙った?」
「知らないよ。誰も教えてくれないから」
確かに、こいつに任務の内容を話したら、べらべら喋りそうだから、教えなかったというのは物凄く納得出来る。
そして、俺が色々と質問をしていると、女将が一声をかけて食事を持って入って来た。
「お食事をご用意しました」
「女将、またマジックテックに襲われたんだが」
「おほほほ、それは大変でしたね。お怪我はございませんか? この者は私が引き受けます」
(そのままくたばれば良かったのに、このメスガキ)
「相変わらず、口の悪い鳥だな」
女将は何事も無かったように、普通にテーブルに食事……毎度同じみのジュレをテーブルに用意して、トバコの手を持ち、部屋を出ようとした。
「それでは、どうぞごゆっくり」
「ちょっと待った! 女将もマジックテックの関係者じゃないだろうな?」
「おほほほほ、またご冗談を」
(そんなわけ無いだろ! ばーか!)
女将は笑いながら、逃げるようにドアを閉めて出て行った。
「アルシア、どう思う? あの女将」
「うーん、分からないわ。でも、警戒はした方がいいかもね」
でも俺は、さっきの女将の行動で、マジックテックの関係者だと確信した。
なぜなら女将は、トバコを手際よく連れて行ったけどオヨシの時と違って、トバコには拘束魔法も何も掛けていない状態だったからだ。
もし、女将が関係者では無かったら、只者では無いだろう。でも、普通に考えたら、宿の女将が引き取るというのはおかしいだろう。
「マユリン、早く食べよう。このジュレは大丈夫だよ」
「なぜ、そう思う?」
「ミリちゃんがもう食べたから」
「……」
こいつはいつの間に食べた?
「真由、このジュレには特別な魔法は掛ってないみたい。味付けはしてあるみたいだけど」
「もう毒見をしたやつがいるから安全だろう」
「マユリン、これ美味しいよ」
「はぁ、どうせならこんなゼリーじゃなくて、和食が食べたかったなぁ」
「和食?」
こんな旅館に泊まって、夕食がゼリーだけなのは本当辛い。腹は満たされてるかもしれないが、心は全然満たされない。
さて、あとは寝るだけになるが、これまで正々堂々では無く、油断しそうな時を狙って来ているから、次は寝込みを襲ってくるんじゃないか。
お読み頂き、ありがとうございます。
気に入って頂ければ、ブックマークや↓の☆をクリックしてくれますと、モチベーションが上がります!