第61話 討伐隊マジックテック
俺とアルシアの前に現れた男は、20代半ばの色白の痩せ型であった。思った通りの展開になったのか、笑みを浮かべていた。もうすでに勝ち誇っている。
「ひゃっひゃあ! おい、そこのチビ! お前はもう俺の術中にはまってるんだよ! そして、残りのメンバーはこの俺に降伏するしか選択肢は無い!」
「誰だよこいつ? いきなり出てきてもう勝利宣言かよ」
「あひゃひゃあ、俺は討伐隊マジックテックのオヨシ様だ!!」
「吉沢田?」
「違う!! オ・ヨ・シ! !!」
ネスタリアに、こんな派遣会社みたいな名前の討伐隊無かったよな? もしかして、ベルリア学園の討伐隊か?
「お前はベルリア学園の討伐隊か?」
「いひゃっひゃっひゃあ! 当然だろ! 馬鹿者か! うっひゃあひゃあ!」
ネスタリアに存在しなかったら、ベルリアしかないってことか?
「あなた、真由にどんな魔法掛けたの? それにマジックテックなんて初めて聞いたわ」
「えっひゃっひゃあ! このオヨシ様が完璧に答えてやろう! よーく聞くがいい」
このオヨシ様の完璧な説明を要約すると、ネスタリア学園とベルリア学園は『総合魔法』によるランク付けされている。
総合魔法というのは簡単に言うと、自分の身体に魔力を纏う技を『魔動拳』。物に纏わせる技を『魔動転化』そして、魔力そのものを飛ばす技を『魔動砲』これら3つの魔法、魔動三原則をマスターして、戦うことだ。
そして、このマジックテックは、この魔動三原則にとらわれず、特殊魔法に特化して戦闘する討伐隊だ。
このオヨシ様はBランクらしいが、こいつが考えた特殊魔法のおかげで、主力メンバーの一人だそうだ。
そして、その魔法が『ウィズ』という名前で、この魔法にかかると術者のダメージが、かかった相手にも同様のダメージを喰らうというものらしい。
つまり、あいつに攻撃すると、俺も同様の攻撃を食らうことになる。だから、他のメンバーはあいつに手が出せないということだ。
しかも、解除するには魔力解析に時間がかかるらしいから、このオヨシ様はもう勝った気でいるわけだ。
「おっひゃっひゃっひゃあ! どうだ! 試に一発殴ってみようか!」
そう言うとオヨシは自分の腹を魔動拳で殴った。
「うごごぉ!! はぁ、はぁ、ぐっ、ど、どうだ? き、き、きいただろ?」
「いて」
オヨシが自分の腹を殴ったと同時に、俺の腹にも殴られたような衝撃があった。
しかし、このリアクションの差はなんだ? もしかして……。
「かっひゃっひゃ! 分かったか! お前みたいな抜けがいたおかげで助かったぜ! それにそんな格好じゃあ、まともに戦えないだろ!」
「な、なんて卑怯な人」
アルシアみたいに正義感が強い人間には、こういうタイプは許せないだろうな。
でも、これ以上こいつに調子に乗らせるのも腹が立つので、黙らせてやるか。
「いやー、本当、術にかかったのが俺で良かったよ」
「きひゃっひゃっひゃあ! ひゃあ?」
「聞くがお前、腕立て伏せは何回出来る?」
「くっひゃあ! ひゃっひゃあ! 腕立てがどうした!? そんなもの出来なくても、何にも問題無いだろ!」
「分からないなら、教えてやるよ! アルシア! こいつに魔動砲をかましてやれ!」
俺がそう言うと、アルシアは驚いて俺の方を振り返った。
そして、もっと驚いたのはオヨシで、俺の方を二度見、三度見、四度見、五度見……「何回振り返るねん!!」とツッコミたくなる程振り返った。
「真由、そんな事したら、あなたもダメージを受けるのよ!」
「大丈夫だ。最初は1/3ぐらいのパワーで打ってくれ」
「お、お、お、お、お前は、馬鹿なのかー!!!? 理解しているのか!!? お前もダメージを受けるんだぞ!!!」
「よーく理解しているよ」
オヨシは驚きの表情から徐々に怯え始めた。
「真由、本当に大丈夫なの?」
「ああ、打てば分かるさ」
「ちょ、ちょ、ちょっと待て!! 同じダメージでもこんな小さな女の子だったら、俺の方が耐えれるに決まっている!! だからやめておけ! なぁ?」
オヨシは怯えた表情から、徐々に泣き付くようになってきた。
「アルシア打て! 1/3だぞ」
「分かったわ」
アルシアは、オヨシの方を睨みつけ、手を伸ばし、魔動砲を打つ準備を始めた。
その真剣な眼つきにオヨシは圧倒されてしまい、今度はアルシアに懇願をした。
「おい、おい、本気で打つつもりか? 仲間が傷つくぞ! いいのか? いいのか? 降伏してくれればいいんだから! 打つのは止めような? おい? 聞いてる?」
アルシアは決心したのか、オヨシの言うことに全く耳を傾けない。そして、魔力が溜まり始めると俺の方を、少し心配そうな顔で見た。
俺は両手で自分の頰っぺたを叩き、気合を入れて、アルシアの方を向き、軽く頷いた。それを見たアルシアは少し表情をを和らげ、再びオヨシの方に視線をやり、真剣な表情で構えた。
「じゃあ行くよ! 真由! 魔動砲!」
「やめーーー!!」
アルシアの手のひらから、光の球のようなものが現れ、打ち放たれた。魔力の弾丸は、音速を超えたミサイルのように空気の波を起こし、一直線にオヨシに命中した。
「ぐわ!! がはっ! ば、馬鹿な……」
「ぐう……これで1/3のパワーか」
オヨシは完全に血を吹きながら吹っ飛ばされ、俺は膝をついてしまった。想像以上のパワーだ。そして、すぐにアルシアが心配そうに俺に駆け寄り、肩を貸してくれた。
「真由、大丈夫?」
「ああ、ちょっと予想超えたパワーだったけど、大丈夫だ。それより、あいつはどこまで吹っ飛んだ?」
「あ! 真由にかかっていた魔法効果が消えているわ」
オヨシを倒せたことで、魔法効果が消えたかもしれない。
しかし、俺の予定では、根競べの勝負に持ち込んで、魔法を解除してもらおうと思っていたんだが、オヨシは弱過ぎた。
それとも俺がタフ過ぎるのか?
「真由、あの人は討伐隊のメンバーみたいだから『降伏の魔力印』をしてもらわないと」
「降伏の魔力印?」
「そうよ、どうしたの?」
「いや、何でも無い」
何かを聞いたら、アホだと思われそうだから、やめておこう。確か学園同士の戦いは、魔王軍の関係で、殺したりしなかったはずだから、そういう降伏の印みたいなものがあるかもしれない。
「駄目だわ、気絶している」
オヨシは死んではいないものの、気を失っており、とりあえずアルシアは、拘束魔法をかけた。
「拘束魔法をかけているなら、女将に引き取ってもらうか?」
「そうね、監禁してもらいましょう。他のメンバーもいるみたいだから、注意しないと」
「それにしても、温泉なのに余計に疲れた……」
俺とアルシアは服に着て、浴場から出た。すると、慌てた様子で女将が駆け寄って来た。
「凄い音がしました。何かございましたでしょうか?」
「マジックテックのメンバーに襲われた。狙いは俺達だと思うけど、女将も気を付けた方がいい」
「それは大変でしたね。そこにいる方がそうですね。良ければ、こちらで監禁して、明日ベルリア学園に引き取ってもらいましょうか?」
この旅館自体も怪しいが、少なくともマジックテックは俺達に殺意は無かった。ベルリア学園も俺達を調査しているだけかもしれない。ここは女将に任しても大した問題は無いだろう。
こうして、女将に身柄を引き取ってもらい、明日、降伏の魔力印をさせることにした。
それから俺達はすぐさま部屋にいるミルネとミリちゃんに、マジックテックに狙われていることを告げる為に、急いで戻った
がっしかし!
「なにーー!! 部屋が燃えている!!」
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