第59話 疲れる温泉
何か大きな音がしたと思って焦っていたら、アルシアとミルネとミリちゃんが帰って来ただけだった。
忘れていたが、ミリちゃんのドアの開け方はいつもこうだった。
てか、ミリちゃんにドアを開けさせるな!
「あ!! マユリンも部屋で休んでいる!」
「真由、体調でも悪いの?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
なんか普通に心配されたなぁ。
それにしても、3人とも身体をポカポカさせている。
やっぱり、普通に温泉って考えた方がいいだろう。格好は制服にデザインしたままになって、なんか暑そうだけど、ここはやっぱり浴衣の方がいいな。
「じゃあ、俺も温泉……じゃあなくて魔水浴場に入ろうかな」
「魔水浴場はロビーから行けるけど……本当に大丈夫?」
「マユリン、なんか怪しい」
「だ、大丈夫だから心配しないで。おほほほほ」
俺は、また女将のようにその場を逃げるように出た。
ふぅ―、なんか怪しまれていたけど、仕方ないよな。
俺は、いずれあの3人には本当のことを話そうと思っている。俺の居た世界の話や、ここに来た目的そして、俺が実は男だという事も。
しかし、異世界からの来たことは受け止めてくれると思うが、男という話は正直分からない。だから、ここで裸まで見てしまったら、許してくれないような気がしてならない。
そして、俺はロビーに着くと、ちょうど仲居さんがフロントに居たので案内してもらった。
案内された脱衣所は、普通の宿にあるものと同じで、棚があって、そこにタオルが入った籠が置いてあるだけで、他には何もない。
ここはただ脱ぐだけの場所なんだろう。だから、このタオルも身体を洗うものではなく、恐らく魔水浴場という所まで身体を隠すためのものだろう。
俺は、魔法のクリーンを服の上から自分にかけた。これだけで、俺の身体と服の汚れは綺麗になるみたい。本当便利だよなぁ。
東京で独り暮らしの時、この魔法があれば重宝になったのは間違いないだろう。
ゆっくりしたいが、早く済ませよう。遅くなったらまた何を言われるか分からない。
俺は服を脱いだ。
しかし、脱いだゴスロリの服を見ると、よくこんなものを着ていたなぁと思ってしまう。またこれが似合ってしまう真由は、やっぱり可愛いんだろうな。
そして、俺は全裸になった。
こっちの世界に来てからは、ミルネがいたりミリちゃんと一緒だったりで、また、魔法で着替える必要が無かったから、裸になるのは本当に久しぶりだ。
改めて見るととても綺麗で、きゃしゃな身体をしていたんだなぁ。
あ―、なんかずっと、見ていられる……。
いかん、いかん、こんな事をしていたら遅くなってしまう。早く魔水浴場に行って、そこでゆっくりしよう。
俺は、魔水浴場に通じる扉を開けた。すると、思っていた以上に広く、湯気が立ち上る露天風呂みたいだ。
おお! これはもう温泉だな。
ほんのり温かい石畳と、地面に埋め込まれた4人ぐらいは入れる木の浴槽が4つあった。
しかも、誰もいない! 貸切状態だ。これならタオルを身体に巻かなくても大丈夫そうだな。
俺はタオルを腕に掛け、どの浴槽に入るか考えた。多分、どれも同じような気がするが、もしかしたら、魔力が高い順になっているかもしれない。
ま、適当でいいか! とにかく入って疲れを癒そう!
俺が湯船に入ろうとした瞬間、またもや、大きな音がした。
「な、なんだ!?」
音のする方を振り返ると、なんと! 全裸のミルネとミリちゃんがそこにいた。
あの大きな音は、勢いよくドアを開ける音だった。
俺は反射的にタオルで胸から下を隠し、身体をねじるようにして自分の身を守った。
う―ん、俺も大分女らしい行動が出来るようになったんじゃないか?
それに比べて、あいつらはタオルも使わず、全裸じゃないか! 湯気であんまり見えないけど。
「なんでまた入って来るんだよ!!」
「マユリン、さっき怪しかったし、何か隠しているでしょう?」
「真由ちゃん、さっきタオルで何か隠した」
ミリちゃんは俺の身体の方に指を差した。俺が何か隠していると疑って、ここに来たのか?
「い、いや何も隠してないよ」
「隠してないなら、そのタオル取ってよ」
「これは大事な所を隠しているわけであって、決して怪しいものではない」
「真由ちゃんが怪しい」
ミルネとミリちゃんの疑いの眼差しが向けられた。
そして、じわじわと俺の方に近づいて来た。
「何をする気だ?」
「こうなったら実力行使だよ」
「なに――!!」
ミルネとミリちゃんは、俺のタオルを引っ張り、剥がそうとしてきた!
もちろん、俺も手で押させて、それを阻止した。
「やめろ! この変態!」
「マユリンの馬鹿力!」
単純に腕力だけなら、この2人に負ける気がしない。これならなんとか死守出来るか?
「ミルネちゃん、ミリに任して」
「げっ!? まさか、こ、これは例の魔法ですか!?」
「ふんっ」
俺の予想は的中で、両手を魔法で拘束されてしまい、身動きが取れなくなってしまった。
「ミリちゃん、凄い!」
「おい! やめろ! こんな状況で、それはアカーン!!」
ミルネとミリちゃんは、ニヤニヤしながら、俺に手をかけてきた。
「マユリン、何を隠しているのか、じっくり調べさせてもらうよ」
「お――」
「だ、誰か助けて!! 襲われる!」
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