第58話 ボルボン魔水浴場と女将
魔水浴場に浸かることになったが問題は一つある。当たり前だが、みんな全裸になってしまうという事だ。
確かに俺の身体は完全な美少女だから、バレることは絶対に無い。
しかし、いつかは本当の事を話したいと思っているから、ここで裸を見てしまっては流石に不味い。
だから、俺は遅れて一人で入ろうと思う。それにこの宿の人間を信用したわけじゃないし、もし何かあった時に、俺が対応出来た方が安全だろう。
そして、俺達は宿の中に入り、フロントのロビーの前で出迎えてくれたのは、質素な浴衣ぽいものを着た、とても落ち着いた感じの女将だった。
でも、よく見ると女将の肩の上には、インコみたいにカラフルな鳥がいた。
「いらっしゃいませ、ようこそお越し下さいました。私、女将のヨセノと申します」
「こちらこそ、お招きどうも」
(やっと来やがったか、このメスガキども)
「あれ? もの凄く汚い言葉が聞こえたけど、なんだ?」
女将が挨拶をしたあとに、どこからともなく罵るような声が聞こえた。しかも、その声はみんなにも聞こえており、テレパシーみたいなものでは無かった。
俺達が少し動揺したのを悟ったのか、女将が苦笑した。
「おほほほ、すみません、お客様。この声は私が飼っているトモ吉でございます。私の言ったことの反対を口にするみたいで、不快な思いをさせてしまってすみません」
「こいつが喋っていたのか? でも、口が悪いな」
(うるせい、この小便臭せーガキが)
「今、俺の問いに答え無かったか? こいつ」
「おほほほ、そんな事はありません。それより、今日はゆっくりとおくつろぎ下さい」
(とっととクタバレ、メスガキども)
「……」
この鳥なんか腹が立つぞ!
「さぁ、お客様。お疲れでしょうから、お先に魔水浴場に入られたらどうでしょうか? 当宿の自慢の魔水浴でございます」
(さっさと行きやがれ、メスガキども)
「……これ女将の本心じゃあないだろうな?」
「おほほほほ、またご冗談を」
( ごちゃごちゃうるせーんだよ、メスガキがっ)
女将の丁重なおもてなしと、鳥のとも吉による悪口でどう対応していいのか、分からなくなってきた。もちろん、ミルネやアルシアもそうだろう。
しかし、一人だけ興味深々なやつがいた。
そう、ミリちゃんだ。
「真由ちゃん、あの鳥欲しい」
「いやいや、あれは流石にいらないだろ! ストレス溜まるわ!」
ミリちゃんが鳥のとも吉を指を指しながら、興味を示すと女将は慌てた態度を見せた。
「おほほほほほほ、またまたご冗談を」
(すみません、ミリちゃんそれはご勘弁を)
「あれ? 急に態度が変わったぞ」
あの鳥の友吉もミリちゃんを知っているのか? それとも危険なオーラを感じたのか? 態度が180度変わってしまった。
しかし、あの鳥は女将の反対のことしか言わないんだよな?
「おほほほほほほほ、そ、それよりもお客様、仲居が案内しますので浴場にどうぞ。おほほほほほ」
(…………)
「なんか言え! 鳥!」
すると女将は逃げるようにフロントの奥に立ち去り、入れ替わるように仲居さんが現れた。
仲居さんは、これといった特徴は無く、学生さんのバイトみたいな感じの女性だった。
しかし、このまま一緒に魔水浴場に入るのは不味いので、みんなが仲居さんについて行こうとしても、俺はそのまま立ち止まった。
「俺は後にするよ。だからみんな先に入って」
「どうしてマユリン、一緒に入ろうよ」
「真由ちゃんと入りたい」
ミルネとミリちゃんは俺の手を引っ張った。でも、裸を見てしまうのはやっぱり気が引けてしまうし、この2人に何をされるか分からない恐怖もある。
「真由、どうしたの?」
「ここはもう管轄区域外だよ。もし、敵や荷物泥棒に遭ってしまったら、不味いだろ?」
我ながらもっともらしい言い訳が出来た。アルシアも納得してくれそうな雰囲気だ。
「えー、大丈夫だよ。マユリンも入ろうよ」
「いや、いいよ。まぁ、そういう事だから、俺は見廻りしてからにするよ。おほほほ」
俺はポンタを抱いて、女将のようにその場を逃げるように去った。
そして、そのまま廊下を突き進んで、角を曲がってアルシア達の姿が見えなる所まで小走りで移動した。
どうやら追って来ないようだ。
しばらく、廊下をうろうろしていると、二階へ行く階段を見つけたので上がろうとしたら、さっきの仲居さんが声をかけてくれた。
「もしかして、お部屋をお探しですか?」
「いや、あ、そうです」
適当にうろうろしようかと思ったが、それほど大きな宿でもないし、範囲も限られるだろうから部屋でゆっくりするのも悪くない。
俺は仲居さんの案内で、部屋に行くことにした。部屋は階段を登って、廊下の奥にあった。
「こちらになります」
案内された部屋は結構広く、10人ぐらいは泊まれそうだ。
「では、ごゆっくりどうぞ」
よし、ベッドはちゃんと人数分あるな。久しぶりに1人で広々と寝れそうだ。
俺は、座椅子で寛ぐことにした。
すると、ポンタが俺の方に話しかけて来た。
「元主よ、なぜ皆様と御一緒に行かなかったんですか? 守り役なら吾輩が承ります」
「いや、まぁ、女の子には色々あるんだよ」
色々ってなんだよ! って自分で思ったが、とっさに言い訳が思い付かなかった。
でも、ポンタもこれ以上聞いてこないから、別にいいだろう。
うーん、それにしても静かだ……。
この宿も、木の素材を魔法でデザインして建てたんだろうな。学園もそうだが、基本的にみんな同じような建物になっている。
この部屋は、ロッジみたいな感じだが、俺がもし高度のデザイン魔法が使えたら、和室に変えたり出来るのかなぁ。
あ―、少し眠くなってきた……。
こんなに落ち着いて、ウトウトしたのは久しぶりだな……。
俺は、そのまま眠ってしまった。
そして……。
バァ――――――――ン!!
突然の大きな音に、俺は飛び起きて、寝起きだったので全く状況が分からなった。
「うわ―――!! なんだ!?」
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