第57話 異常快楽の殺し屋ガムイ
突然現れた男は、質素な服装でこれと言った特徴もなく、若手の営業マンみたいな雰囲気だった。
しかし、いきなり現れて、無償で宿泊させてくれるという話を持ちかけて来たんだが、はっきり言って怪しい。そんな都合のいい話あるのか?
ここは少し探りを入れてみるか。
「えーと、あなたの名前と出身を教えてもらってもいいですか?」
「えっ!? な、名前と出身ですか.....いや、まぁ、そんな事はいいじゃないですか。ははは」
分かりやす過ぎるやろ!
「なんか言えない理由でもあるんですか? ちなみに俺は真由」
「理由といいますか……何と言うか、うーん、そう、名乗るほどでもないかなっと」
うーん、やましいことしている人ほど自分の情報を言いたがらないからな。
もう一押ししておくか。
「討伐隊の為に、無償で宿泊させてくれるんなら、堂々と名乗ってもいいと思うけど」
「はぁ、えーと、私の名前はイゴシと言います。ここで立ち話もなんですから、宿の方に行きませんか?」
イゴシは見るからに焦っているようだ。ここはまだ追求した方が良さそうだな。
「まだ聞きたいことはある。なんでここで討伐隊が活動しているのを知っていたんだ?」
「いやー、そのー、た、たまたまここを通ったら、いましたんで、えー、いつもお世話になっている討伐隊にお礼がしたくて、お声をかけさせて頂きました」
「たまたまって言う割には、真っ直ぐこっちに向かって来たよな? それによくこれが討伐隊って分かったな。すれ違う通行人は誰も分かってくれなかったのに」
「それは……」
イゴシと名乗るこの男は、冷や汗をかきながらかなり動揺している様子だった。
もうこれは完全に黒でしょう。
俺はこいつが何者か、もっと問い詰めようとしたら……。
「真由、せっかく親切にして下さっているのに、そんな言い方は良く無いわ」
「そうだよマユリン。タダで泊まれるんだよ」
「真由ちゃん、意地悪」
「いやいや明らかに怪しいだろ!」
俺以外の3人はこのイゴシという男を信じているようだ。あの2人はともかく、アルシアが言うなら大丈夫なのか? いやー、でもな……。
ここは異世界だし、俺の世界の常識で考えない方がいいのかな?
それにもし何か企みがあったとしても、その時に対処すれば何とかなるか……。
でも、念のため保険をかけておくか。あいつはポンタの事を知らないだろうからな。
「分かった。変な事聞いてすまんかったな」
「いえいえ、そんな事ありません。では、宿まで私が案内しますので付いて来てください」
この世界に来てから、ボロいベッドにミルネと一緒に寝て、外に出てからも一つの寝袋にミリちゃんと一緒だったから、久しぶりに広々と寝れるといいんだがな。
一応、楽しみにしておこう。
そして、イゴシの案内で宿に着いた。
その建物は木造の2階建てで、思っていたよりかは大きかった。大きいと言っても、この世界にしてはという条件が付く。
まぁ、10室ぐらいはあるのかなという感じだ。
「ここが私の宿『ボルボンの魔水浴場』でございます」
「わーい魔水浴場があるんだ!」
「魔水浴場?」
魔水浴場って、公衆浴場みたいなものか? ここは温泉があるということか?
麻酔浴ではなく、魔水浴だったかー。
いや、待て。その前にこの世界に風呂の概念は無かったはずだし、そのせいでミルネにアホ扱いされた経緯がある。
「おい、ミルネ、魔水浴場って風呂のことだよな?」
「風呂? またマユリン変なこと言ってる。湯に浸かって魔力を高めるんだよ」
「やっぱり湯に浸かるんだ」
この世界では、身体を魔法のクリーンで綺麗になるので、洗うという概念が無い。
しかも湯に浸かるのは魔力を高めるとされているから、俺の考える風呂とは別のものになるんだろう。
「食事を用意しますので、魔水浴場に浸かってはいかかでしょう?」
「ありがとう、そうさせてもらうわ」
ちょっと待て、魔水浴場に浸かるということは裸になるという事だよな……。
―――――場面変わって、ここはダンロッパの寮
ダンロッパの部屋は、会議やパーティーにも使用できる大きな会場があり、その奥にプライベートルームがある。
そして、そのプライベートルームにダンロッパとネスタリア学園の人間とは、明らかに違う風貌の男が怪しげに会話をしていた。
この男はガムイという殺人魔法の使い手で、ダンロッパと同期で高い実力の持ち主であった。しかし、禁止されている殺人魔法に興味を持ち、また女の子の顔を何度も踏みつけたりする異常な性格のため、3年前に追放されていた。
「久しぶりだな、ダンロッパ。お前も随分偉くなったもんだ」
「ああ、いよいよ君の力が必要になった」
「ベルリア学園の討伐隊の暗殺だろう? 任せておけ。その代わりいい女がいたら、好きにしてもいいよな?」
ガムイはニヤとした顔で答えた。
「あ、うん、好きにしろ。それよりもう一つ、殺しの依頼をしたいんだが、いいか?」
「可愛い女の子ならいいぜ」
「それはちょうど良かった」
「おお、いいね」
「ではこれを見てくれ。ビジョン」
ダンロッパは壁に魔法を掛け、映写機のようにアルシアと真由の映像を見せた。
「こいつがアルシアで、その横のちっこいのが真由だ」
「おお!!! アルシアちゃん可愛い!! この真由っていうのはお前の好みだろ? フラれたか?」
「ちっ、そんなじゃない! この2人をやって欲しい」
「あー、アルシアちゃん可愛いからグチャグチャにしてから殺してーな」
「……」
流石のダンロッパもガムイの発言には、少し引いたようだ。
「ダンロッパ、このアルシアちゃんはどんな女の子だ?」
「そうだな、とにかく真面目で正義感が強く、Sランクの魔法使いになりたがっていたな」
「いいね、いいね。こういう女は絶望させたら、いい顔するんだろうなー」
ガムイはアルシアのことが気に入ったみたいで、ニヤニヤさせながら映像を見ていた。
「でもアルシアは仕事が出来るから、殺すのは少し惜しい。寝返るんだったら生かせてやれ」
「えー!! マジかよ! 真由もか?」
「真由は問答無用で殺せ!!」
「おお、こわ」
真由に対するダンロッパの恨みは相当なものだったのか、興奮気味で答えた。
「でも、ダンロッパよ。ミリちゃんも一緒にいるんだろ? 流石の俺でも、ミリちゃん相手はご免だぞ」
「それは考えてあるから気にするな。とりあえず君は先にベルリアの方をやってくれ。そのあと指示する」
「分かったぜ。これが上手くいけば、お前が一番になって。思い通りになるんだよな?」
「ああ、その時はガムイにもいいポジションを用意しよう」
「俺は、気に入った女の子を好きにしても、口出ししなければそれでいいぞ」
「ふふふ、君は本当変わっているよ。ああ、もう一つ終わったらやっといて欲しい事があるんだ」
そして、ガムイは誰にも気づかれることもなく、静かにネスタリア学園を去った。
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