第56話 ミリちゃんのチート技
少し変わった雰囲気だが、俺達は突き進むにした。
「ここからは念のため、魔法を使わず歩いて行こう」
「そうね、これだけ天井が高いと上からの襲撃にも備えないと」
「こんな壁初めてみたよー」
「ほーう」
とりあえずこの2人はこの黒い壁に興味を持ったみたいで、仲良く手を繋いで興味津々で壁を触っていた。
そして、この道は少しずつ左に曲がっていて、もしかするとこの空洞の中心に向かって行くのかもしれない。
そこにスネークドラゴンがいるかもしれないから、警戒しといた方がいいな。
「なぁ、ポンタ。荷物は俺が持つから天井からの襲撃に対応しといてくれないか?」
「分かりました。元主を」
「俺とアルシアで前方後方に注意しておこう」
「分かったわ。遠距離攻撃は任せて」
流石ポンタとアルシアは頼りになる。残りの2人にも一応……。
「ミリちゃん、これ素材に使えそうだよ」
「もう少し、丸い方がいい」
「じゃあこれなら!」
うーん、この2人は大人しくしてくれるだけで十分のような気がする。
「アルシア、この黒い壁何だと思う?」
「うーん、分からないわ。でも魔力を感じるわね。この魔力の鉱石なら発光しても可笑しくないのに」
「……なんか引っかかるよな?」
うーん、これってもしかして……。
いやいや、そんな事はないよね?
まさかね……。
……。
やばい、俺分かったかもしれない……。
あまりにもこの黒い壁がでか過ぎて、砂も被っているから、分かりづらかったが、この黒い壁こそがあのスネークドラゴンじゃないのか?
この広い空間に、スネークドラゴンがとぐろを巻いて、その外側を俺達が今歩いているんじゃないのか?
そう考えれば、なんか段々そういう風に見えてきた。
もしそうだとしたら、この大きさの蛇を倒すなんて絶対無理だろ。ここは静かに退散する方が得策だと思う。
まぁ、冷静に考えているけど、俺は内心すごく焦っている。
もし、ここで誰かがパニックになって悲鳴でも上げられたら、こいつが起きるかもしれないからな。
まずこのことをみんなに教えて撤退したいところだが、まずは一人づつ伝えた方がいいだろう。
人というものは集団になる程、危機的な状況を伝えるとパニックに陥る可能性が高くなるが、一人なら結構受け入れてくれる。
そして俺は小声でアルシアにこの事を伝えることにした。
(アルシア、ちょっといいか? 声を出さずに聞いてくれ)
(ど、どうしたの?)
(この黒い壁が……スネークドラゴン)
(うん、え?)
(すぐ横におるやつこそが……スネークドラゴン)
(嘘でしょう)
アルシアは驚いた表情は見せたが、大きな声は出さず冷静な対応を見せた。
流石、討伐隊経験者は違う。俺はこの調子でポンタにも状況を伝えた。ポンタもアルシアと同様、冷静に受け止めてくれた。
問題は残りの2人だ。
ミルネはでかい声でリアクションしそうだし、ミリちゃんは予測不能な行動を取ってやらかしそうな気がしてならない。
くそー、オチが分かっていても、対処が分からない!
どうする? このまま真実を言わずに撤退した方が、案外上手く行くかもしれない。
「よし、今日はここまでにしよう」
「マユリン、もう帰るの?」
「うん、なるべく静かに、決して黒い壁には近づかないようにね。ミリちゃんもいいね?」
「分かった」
おお、意外にすんなりいけたぞ!
ここを出るまで安心は出来ないが、とりあえず良かった。
あんな巨大な蛇と戦っても勝ち目は無いし、倒したからと言ってメリットも無さそうだ。
もし、こいつが村や町を襲うことがあれば、その時に全討伐隊で対処するればいいだろう。
「じゃあ、帰ろう。あ、あれ!? ミリちゃんがいない!?」
しまった! 油断してしまった!!
「マユリン、ミリちゃんならあっちの壁側にいるよ」
「げっ!!」
ミリちゃんはスネークドラゴンの方をじっと見ていた。そして! 魔力を使って、スネークドラゴンの皮をビリビリと剥ぎ取った!!
「何しとんねーーーん!!!」
「真由ちゃん、これスネークドラゴン」
「確信犯かい!」
「素材に使う」
その時、地鳴り音と伴に地面が揺れ、とぐろを巻いている中心からコブラみたいに、ドラゴンのような頭が勢いよく起き上がり、天井にぶつかった。
そして、大きな爆発音が響くと同時に、天井が崩れ始め、大きな岩が至る所で落下し始めた。
「やばい!! 天井が崩れるぞ!! みんな急いで外に出るぞ!」
ド―ーーーン!!!
あろうことか、とても大きな岩が落下し、帰り道を塞いでしまった。しかもこの大きさだと破壊するのに時間がかかりそうだ。もちろん、そんな時間は無い。
「真由! この岩は壊せないわ!」
俺のフルパワーのMPCでもこれは無理だ。他のルートを探した方がいいのか!?
しかし! 考える間もなく、今度は同サイズの岩が俺たちの周囲に落下し始めた。いや、もう天井が崩壊したと言った方がいいか。
「駄目だ! もう避けるの無理だ!」
「吾輩の結界でもこれは……」
もう諦めかけた瞬間、ミリちゃんが進路を塞いでいた大きな岩に魔法を掛けた。すると、その岩がゴーレムのような姿に変化した。
「ミリ達を守って」
ミリちゃんがそう言うと、その岩のゴーレムは進路を空けて、岩の直撃を防ぐ為覆いかぶさった。
そのお蔭で、岩からは守られた。しかし、天井の崩壊は止まらず、岩のゴーレムも砕け散った。
それでも、ミリちゃんが次々と岩をゴーレムに変えて俺達を守ってくれた結果、直撃から免れ、無事にこの広い空間からは脱出することが出来た。
恐らくこの魔法は、前にポンタから聞いた『アニマ』というやつだろう。
でも、この魔法最強過ぎないか? 身の回りにある物が、自分の言う事を聞くロボットみたいになるのだからな。
ただ、やっぱり素材がただの岩だと、ポンタみたいに賢くないみたいだ。
そして、みんなは魔法で高速移動し、俺はMPCで移動してようやく外に出ることが出来た。もうその頃は、外はすっかり夕方になっていた。
「真由ちゃん、スネークドラゴン倒した。これ戦利品」
ミリちゃんは、そう言って俺にスネークドラゴンの皮を見せつけた。
こいつまさか、スネークドラゴンの皮を剥ぎ取れば、驚いて飛び上がって、頭をぶつけて天井の崩落を起こして倒し、あとはアルマの魔法を使って身を守るというのを計算でやったんじゃないだろうな?
「とりあえず、みんな大丈夫か?」
「マユリン、一体何が起きたの?」
うーん、ミルネはあれがスネークドラゴンだと気付いていないようだな。
「私はこの事を討伐隊本部に報告するわ」
「ああ」
結果的に言えば、ミリちゃんが討伐したことになるのかな?
でも、最初はスネークドラゴンに恐怖したが、今はミリちゃんの底知れぬ能力に恐怖する。
ミリちゃん一人で、この世界のパワーバランスも変えてしまうんじゃないのか?
そして、しばらくするとアルシアが連絡を終え、こちらに戻って来た。
「本部に連絡したわ」
「ありがとう。これで任務完了だから戻らないと行けないのかな?」
「いいえ、まだ他の任務があるから、今はこの辺りで待機だそうよ」
「えーー、まだあるの!?」
「大体、一度依頼があったら、そのまま何件もこなすのは普通よ」
まぁ、俺にはベルリア学園を味方につけたいという目的があるから、他の依頼なんてどうでもいいんだけどね。
でも、本部からの依頼をこなしながらだったら、いいカムフラージュになるかもしれないな。
「今日は依頼も達成したことだし、そろそろ寝床を探すか?」
「そうね、この辺りで探しましょう」
と、その時、道の方から一人こっちに近づいてくる男が見えた。
ただ通行人にも見えるが、その男はこちらに寄って来た。
「討伐隊の皆さん、宿はお決まりですか? もしよければ私の宿に無償で宿泊を提供しますが」
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