第51話 仕事をする人、しない人
「吾輩、我が主ミリちゃんの魔法『アニマ』によって、命を与えられたポンタでございます」
「ミリちゃん、ついに『アニマ』を使ったのぉ!?」
「驚いたわ、でも良かったのかしら?」
朝からいきなりポンタの自己紹介だが、俺はポンタが動いたり、喋ったりする方に驚かされたが、ミルネとアルシアは、ミリちゃんが魔法『アニマ』を使ったことの方が気になっているようだ。
今まで封印して魔法を使ったという事は、俺が昨夜一人で出で行ったことを心配してくれたということなのかなぁ……。
でもこれって、この討伐隊の戦力が結構上がったのでは。魔法で言えばポンタはかなりの実力だし、判断力もありそうだ。
――そして俺達は、アルシアが用意してくれた携帯用のジュレで朝食を取り、出発する準備を終えた。
今日はアルシアによれば、ネスタリア区域内を進むらしいが、一応ベルリア方面に向いているみたいだ。
それにしても昨日の夕食もそうだが、食事はアルシアが用意してくれて、道順などの段取りをみんなやってくれている。
うーん、アルシア一人に任せっきりなのは、良くないと思いながらも何をしていいのか分からない。
けど、何かやらなければ……。
一応、俺は先頭に立っているが、ネスタリア区域の間は一本道で行けるらしい。
そして、アルシアがけつもちで、ミルネは基本俺の後ろにいるが、ミリちゃんが自由気ままに動くから、順番が良く変動する。ちなみにポンタはミリちゃんが抱いてる。
しばらく道を歩いていると、昨日俺が魔王軍と戦った場所にやって来た。すると、昨日の晩にはバーみたいな建物があったのに、今はボロ小屋の廃墟しか無い。
おかしいな、昨日は確かにもっと立派な建物だったのに……。
これは魔法で一時的にデザインでそうしていただけかもしれない。いや、案外夢だったりして
俺がしばらく立ち尽くしていると、様子が気になったのかアルシアが話かけてきた。
「真由、どうしたの? 気になることでもあるのかしら」
「いや、何でもないよ。立ち止まって悪い。先に進もう」
この事は今は内緒にしておきたいし、不審な行動は避けるべきだろう。俺は先を進もうとした時、アルシアは何かを見つけたのか俺を呼び止めた。
「真由、ちょっと待って! これを見て!」
「これってどれ?」
「この足跡よ。大きさや形からして、これはゴブリン。しかもいっぱいあるわ」
うーん、不味いなぁ。
「ゴブリンの足跡がそんなに珍しいの?」
「単体なら問題無いわ。でもこんなに複数あるということは……」
アルシアは小屋の方に向かい、地面を見ながら何かを探してように見えた。そして、少し歩いた所で立ち止まり、驚いた表情で俺に話かけた。
「真由、これはまずいわ。最近ここに魔王軍が来た痕跡があるわ」
「えっ!? なんで分かるの?」
「オーガの足跡がここにあるもの。でも、どうしてこんなネスタリア街の近くに魔王軍が来るの……」
もしかして、昨日ここで魔王軍幹部と戦っていた事を信じてくれるかもしれないな。
「魔王軍って幹部とか?」
「それは絶対に無いわ。幹部の指示で偵察に来たのかもしれない」
やっぱり、信じてくれなさそうだ。
「真由、討伐隊本部に報告しておくから、少し待ってね」
「ああ、でも報告ってどうやるの?」
「転移系の魔法で情報だけ転移させるの。Aランク以上ならみんな使えるわ」
「へぇー、そうなんだ」
「ネスタリア区域内なら魔力を発しても問題無いわ」
魔王軍の情報を、転移させる魔法で討伐隊本部に連絡するらしいが、その討伐隊の長がダンロッパだけど、いいのかな。
それにしてもアルシアは真面目だな。それにひきかえ、この二人は……。
「マユリン、終わった?」
「真由ちゃん、暇。ミリと遊んで」
「お前ら……せめて仕事をしているふりぐらいはしろ!」
まぁ、人のことは言えないが……。
「お待たせしてごめんね。終わったから行きましょう」
「ありがとう、アルシア」
結局、アルシアの話だと残っていたのは足跡ぐらいだったみたいで、魔王軍はちゃんとお片付けをして帰ったみたいだ。
今は内輪もめの解決に力を注ぎたいから、魔王軍が放ってくれたら方が助かるんだが。もし、これでベルリア学園も敵だったら、終了だな。
――こうして、俺達はボルボン山脈の洞窟を目指して、ネスタリア区域内に道を歩いて進むことにした。
……。
歩き続けて、数時間は経過しただろうか、ちょうどお昼ぐらいになるだろう。
旅は順調で、トラブルも無く、途中でミリちゃんが何処かに行く事もなかった。
但し一つを除いて。
そう問題は俺自身の調子がヤバいという事だ。
やっぱりずっと歩いていると冷や汗が出てきて、痛みがまた復活し始め、そのせいで俺の歩くペースは徐々に落ちて行き、かなり厳しい状況になってきた。
そこで俺はこの辺りで休憩を提案しようと考えていたが、一歩言うのが遅かった。
「真由、ネスタリア区域内だったら魔力を使っても大丈夫よ。もっとペースを上げないと到着が遅れるわよ」
「いや……あの……」
「そうだよマユリン、警戒し過ぎだよ」
「いや……そうなんだけど……」
俺以外の3人は、魔力を補助して歩いているから楽かもしれないが、この身体でさらにペースを上げられたら、堪ったもんじゃない。
「真由ちゃん、なんか変、どうしたの?」
「うーん、昨日の転んだ時の怪我まだ治っていなくて……」
俺がそう言うと、ミリちゃんは首を傾げながら、俺の方に寄って来た。
「そんなはずはない。もう治ってる」
「えー、なんでそう言い切れるんだよ!」
ミリちゃんが何を根拠に治っているとか言っているのか、全く分からない。
それとも、こいつは昨日俺に何かしたのかな?
「あっ、元主よ! 吾輩が運びま――」
「駄目、ミリがやるの」
「うわ!」
今何が起きたかと言うと、この状況を察したポンタが俺を運ぼうとした時に、ミリちゃんがやりたかったのか急に割り込み、俺をまたお姫様抱っこしたのだ。
「ふん」
こいつは俺を抱きながら、何か得意げな表情をしているな。
「ミリちゃん、あたしもマユリンを抱っこしたいよ」
「ミルネちゃん、あとで代わってあげる」
「やったー!」
「えぇぇぇー、あのミリちゃんが代わってあげれるのー!?」
「では、吾輩は元主の鞄を持ちましょう」
こうして、ゴスロリの美少女が、ゴスロリの美少女をお姫様抱っこして、その様子をよだれを垂らしながら見る美少女と、その後ろで苦笑している美少女。
傍から見れば討伐隊に見えないのは間違いないだろう……。
お読み頂き、ありがとうございます。
気に入って頂ければ、ブックマークや↓の☆をクリックしてくれますと、モチベーションが上がります!