第49話 ミリちゃんの過去の悲劇
俺はポンタから2年前のマリとカリバーに起きた、魔王軍討伐の話を聞く事にしたが、ミリちゃんが知っている記憶だけの話になるらしい。
そして、ポンタから聞いた話を要約すると、マリさんの討伐隊のメンバーにミリちゃんが所属していたみたいで、当初はサポータとして参加していた。
マリとミリちゃんはとても仲が良かったみたいで、いつも一緒にいたらしい。
そして、ミリちゃんにはポンタと同じように、魔法『アニマ』によって命を与えられた猫のヌイグルミの『デイジー』というのがいた。
ある日、魔王ザイロンが率いる大群が、ベルリア地区に押し寄せて来たので、ベルリア学園から応援要請があった。
これにマリさんとカリバーの討伐隊が現地に派遣され、共闘で迎撃する事になったが、魔王軍の数の多かったことや、ザイロンが強かった事もあって、4つの討伐隊をもってしても苦戦を強いられた。
マリさんは危険が及ぶとして、ミリちゃんやサポータを撤退させることにしたが、ザイロンはそれを逃さず、大地も切り裂く強烈な魔法攻撃をミリちゃんに向かって放ち、誰もその攻撃を止めることが出来なかった。
そして、万事休すかと思われた時に、猫のヌイグルミのデイジーが身を投げ出して、全力でミリちゃんを守った。
しかし、ミリちゃんの目の前でデイジーは無残な姿となり、二度と喋ったりすることは無く、言わば死んでしまった。
それからミリちゃんは、その悲しみのせいか一度も『アニマ』を使ってないらしい。
そこから先、マリさんとカリバーはどうなったかは知らない。
俺が図書館で読んだ本には、カリバーが『ファイヤードラゴン』という大技で、魔王軍を追い返すことに成功し、帰還する際に遭難したという話だが、大分印象が違う。
うーん、ミリちゃんは2年前にデイジーを失い、姉は行方不明なって、想像絶する辛い経験をしていたんだな。そのせいで今まで討伐隊に参加するのを拒否していたんじゃないのか?
今回、よく俺の討伐隊に入ってくれたよな。しかも、俺の為に封印していた『アニマ』を使っているし、ミリちゃんなりに何か決心したことでもあったのかな。
「元主よ、魔王軍は追って来ないようですね。そろそろ戻りましょうか?」
「ああ、そうだな」
魔王軍が追って来ないのは気になるが、今は『よし!』としておくか。
「戻る前にこのボロボロになったこの服、何とかならないかな?」
「はい、素材の破損率が半分以内なら治せます。吾輩の見立てだとギリギリ治せそうですね」
「そんな制約があるのか……」
「はい、破損率が過半数を超える場合は、素材を魔力で修復してから、もう一度ミリちゃんにデザインしてもらう必要があります。」
いくら魔法でも簡単にいくわけではないのか。
「じゃあ、お前も破損したら同じようになるのか?」
「いいえ、吾輩の場合は破損率が過半数を超えれば、それまでです。素材を魔力で修復出来ても、それはもう別の物になってしまうからです。知識は多少共有出来るかもしれませんが、新たな人格になってしまうので、吾輩であって、吾輩でないのでございます。『アニマ』という魔法は、デザイン魔法を超越したものと考えられ、素材に半端な魔力が加わるとバランスが崩れてしまうとの事です」
「分かったような.....分からないような……。まぁいいか、とりあえず服が直せるなら、直してさっさと戻ろう」
「はい!元主!」
俺はポンタに『リペア』という魔法で、服を直してもらい、さらに『クリーン』で綺麗になった。
これならミリちゃんに怒られることは無いだろう。
「じゃあ、ポンタ戻るかっかぁうっ」
「元主! 大丈夫ですか!? 口から血が出てますよ!」
「あ、いや、大丈夫だ」
俺が歩きだそうとした瞬間に、急に痛みが復活したかと思えば、血を吐いてしまった。やはり、ダメージは受けているようだ。
しかし、この世界に病院というものは無く、直接治療する魔法は無い。
あるのは前に受けた、外部からの魔力で自己の魔力活性化させ、自己治癒させる方法だ。特に魔法攻撃によるダメージは短期間で治せる。
「すまんがポンタ、さっきみたいに俺を魔法で運んでくれないか?」
「はい、それはお安い御用ですが、本当に大丈夫ですか?」
「ああ、多分大丈夫だ」
「分かりました! では!」
ポンタは俺をお姫様抱っこのように魔法で持ち上げ、みんながいる所に戻る事にした。
というか、お姫様抱っこにする意味あるのか? 主がミリちゃんだからか……
今回の件をみんなに言った方がいいいのかな?
本来なら報告はすべきなんだが、信じてくれるのかという事だ。
「なぁ、ポンタ? 一つ聞いていいか?」
「はい、何でしょう?」
「みんなに『魔王軍幹部と戦ってました』って言ったら信じてくれるかな?」
「……」
ポンタは何かを考えているのか、しばらく黙り込んだ。
「元主よ、信じてもらうのは難しいですね。ネスタリア地区で魔王軍と遭遇すること自体、珍しい事ですので、魔王軍幹部と戦うという話になれば、悪い冗談にしかなりませんね」
「やっぱり、そうか……」
「元主……」
とりあえず、魔王軍も追って来なさそうだし、黙っておいた方が良さそうだな。
「じゃあ、この事は内緒にしておこう」
「はい、元主よ」
「それからもう一つ、お前は俺が何者か分かるか?」
「はい、分かりますよ。吾輩もあなたと同じ所から来ていますから。あなたは日本人の美少女でしょう」
「違がっ……い、いやそうだ。うん」
一瞬、女である事を否定しそうになったけど、これはまだ本当のことは言わない方がいいだろう。それにしても、久しぶりに『日本』という単語が出てきて、ポンタに親近感が湧いたぞ。
「この事も秘密にしといてくれないか?」
「はい、元主よ! 吾輩からも一ついいですか?」
「なんだ?」
「はい、初代主の願い、吾輩を抱いてくれませんか?」
「何でそうなる!」
こうして、俺とポンタは特に会話もすることもなく、無事にみんながいる所に到着した。
酷い目にあったせいか、アルシアとミルネ、ミリちゃんの寝顔を見ているだけでとても安心した気持ちになる。
「では元主よ、ミリちゃんを起こさないように寝袋に戻りますよ」
「ああ。でもこうやって見るとミリちゃんの寝顔は天使みたいに可愛いな」
「元主も、十分天使のように可愛いですけど……」
俺はミリちゃんの居る寝袋に、ゆっくり入ろうとしたが……。
「う……これはきつい……」
「どうしました? 元主よ」
「身体中が痛くて、寝袋に入るのが厳しい」
「では、吾輩が魔法で入れますので、元主は横になって下さい」
「た、頼む」
俺は横になったところを魔法で少し宙に浮かせ、長物を鞄に入れるように俺を寝袋の中に入れてくれた。
「よし上手くいったぞ」
「では、元主よ。おやすみなさい」
ミリちゃんを起こすことなく、上手く寝袋に戻れたぞ。もし、起こしたら何されるか分からないからな。
俺も早く寝て、少しでも回復させないと。
「ごほごほ」
すまんミリちゃん、こんな顔が近い所で咳をしてしまった。
うーん……ん!? げっ!!
ミリちゃんの顔に俺の血が着いてしまった!
これ拭かないとまずいなぁ。
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