第45話 夜のバーの秘密
その建物は寂しい場所にポツンとある木造で、ちょっと怪しい雰囲気がある。
とりあえず入ってみた。
やたらと大きいドアを開けると、バーのような作りになっており、結構な広さだ。
しかし、こんなに中は広いのにお客さんが一人も居ないのが不気味だ。しかも、カウンターに店員さんもいない。
それに酒っぽい物も、何も置いていない。
なんだよここ? 誰もいないのか?
俺は奥のカウンターまで行き、カウンター越しから中の様子を見てみたが、誰もいないようだった。
このカウンターは10人ぐらい座れるようになっていて、俺は一番左端に座った。
しかし、いつまで待っても店員さんが現れない。
「すみません! 誰かいませんか!?」
うーん、全く反応無しだ。せっかくいい感じの店を見つけたのになぁ。
帰るか……。
俺は帰ろうと思い、席を立とうとした瞬間、入口のドアが開き中年の男が入って来た。
あれはお客さんか? ということは、やっぱり営業しているんだよな。もう少し様子を見るか……。
そして、中年の男はカウンターの右端の方までやって来て、椅子の前に座らずに立っていた。俺は再び中年男の方に目をやった。
すると、さっきは遠くて気付かなかったが、近くで見るとその男は普通の人間ではなかった。
一言で言えばドラキュラみたいな感じで、耳は大きく、犬歯が異様にでかく、肌の色もゾンビみたいで、腰に木刀のような物を差していた。
おーい、何だよこいつは!? 魔物でも人間でも無いぞ!
俺はこの世界に来て、こんなヤツは初めて見た。もしかして、俺が知らなかっただけで、こういうやつも普通にいるのかな.....はは。
俺が中年男に目を向けていると、そいつは猛禽類のような鋭い眼つきで俺の方を見てきた。
やば!!
俺はその威圧的な眼つきに怯んでしまい、すぐに目線を逸らした。
うん、ここは店を出た方が良さそうだ……。
しかし、俺が席を立とうと思った瞬間、再びドアが開き誰か入ってきた。次に現れたのは、体格だけは人型だが、誰がどう見ても普通の人間ではなかった。
赤髪に、赤くて鋭い眼つき、そしておでこ辺りから、立派な角が2本突き出していた。さらに、時折口から薄っすら炎を出している。
「ガウロ、こいつはミリか? なぜここにいる?」
「ほーう、イフリートも呼ばれていたか。風貌は似ているが、マリに確認してもらわないと分からん」
最初に入って来たドラキュラみたいなやつが、ガウロという名前で、イフリートと呼ばれる男はイメージ通りだ。しかし、2人とも俺の方を鋭い眼つきで睨んでいる。
俺はたまらずカウンターのテーブルに視線を落とした。
理由は分からないけど、俺をミリちゃんと勘違いしているのか? もしかして、ミリちゃんの関係者か?
どちらにしろ、まともな連中ではなさそうだ。あのイフリートがドアから離れたら、ダッシュで逃げよう。
そして、イフリートはガウロの方に向かって歩き出したので、俺も飛び出す心の準備をした。しかし、すぐにまたドアが開き誰か入って来た。
おい! いっぺんに入って来んかい!
だが、次に現れたのは怪しい魔人では無く、紛れもない人間で、しかも美少女だ。
銀髪の綺麗な長髪に、アルシアぐらいの年齢で、ちょっと色気のある女の子だ。
でも、どこかで会ったこと……ないか。あるわけないか。
それにしても、今までがアレだったから、少し安心した。そして、その銀髪の美少女はなぜか俺の方に向かって来た。
「可愛らしい女の子ねぇ、ふーん、ミリちゃんのお気に入りというところかしら」
銀髪の美少女がそう言うと、ガウロがすぐに聞き返した。
「やっぱり、ミリじゃないのか? マリ、一体こいつは誰だ?」
「分からないけど、ミリちゃんの討伐隊を結成したみたいだから、サポータなんじゃない?」
とりあえず、この美少女はマリという名前らしい。うーん、どっかで聞いた事があるような……いやいや、今は名前なんてどうだっていい。早くここから出たい。
しかし、マリという美少女は俺のすぐ後ろに立ち、俺は席を立つことが出来なくなってしまった。
「ねぇ、あなたは誰?」
マリは俺の耳元で囁くように声を掛けた。
「ま、真由ですけど.....」
「真由ちゃんねぇ、初めて聞く名前だね」
すると、マリは俺の髪を撫でるように触り始めた。
「可愛いね」
「え、あ、ありがとうございます」
一体何がしたいんだ!?
「ふーん、肌触りもいいね」
「ひっひゃ」
マリは頬を撫でると、そのまま俺の顎を掴んだ。
「ねぇ、どうしてここが分かったのかは知らないけど、私たちが魔王軍幹部と知ってのことだよね?」
「なんですっとー!?」
こいつら魔王軍の幹部かよ!! 魔王軍なんて、授業か図書館の本でしか知らなかったのに、いきなり幹部とご対面かよ!!
という事は、ここは魔王軍の隠れ家だったのか? 「お店だと思って入っただけで、ここが魔王軍の隠れ家って知りませんでした。あははは」って言っても信じてもらえるだろうか?
うーん、絶対無理な気がする。
「ミリちゃんが動き出したから、寝込みを襲う為にここへ集まったのに、バレてたんだね」
俺の知らない所で、そんな恐ろしい陰謀があったとは……。
「ガウロ、どうする?」
「ミリは脅威だ。だから消さなくてはならん。その為に、こいつから情報を聞き出してから殺そう」
ガウロがそう言うと、マリは不気味な笑いを浮かべて、再び俺の髪を撫でるように触りながら、話を続けた。
「だって、どうする真由ちゃん? 素直に教えてくれたら、苦しまずに私が殺してあげるけど」
ちょっと待て、俺に生きる選択肢は無いのかよ!
3人の魔王軍幹部を相手しようとしたら、恐らく最低3つの討伐隊が必要なはず!! なのに俺だけって。
これは逃げるしかないな。でも逃げられるのか……。
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