第38話 討伐隊の名前
翌日の夕方になると、応接室の前に俺とミルネ、アルシア、ミリちゃんが集まった。このメンバーで討伐隊結成となる。
この結果に驚いたのはアルシアで、まさかミリちゃんが、メンバーになるとは考えもしなかったらしい。なぜかその時、ミルネがドヤ顔だったが。
ミリちゃんはというと、俺が昨日あげた兎のヌイグルミのポンタを左手抱いて、とても気に入っている様子だ。
ただ、これからどんな依頼をされるのか、不安な状況だがミリちゃんにとっては、どうでもいいようにさえ思える。
それにしても、これから依頼の詳細を教えてくれるらしいが、やっぱり急な話だよな。絶対何かあるよ。とりあえず中に入るか。
っと、俺が中に入ろうと思った瞬間、いつの間にかミリちゃんはドアの前にいて、ドアノブを握っていた。
「真由ちゃん、早く」
「ちょっ!」
俺は、ミリちゃんが勢いよくドアを開けると思い慌てて、制止しようとドアまでダッシュしたが間に合わなかった。
「キャ!」
前回と同じ事務の人が、突然の出来事に声を出して驚いていた。
こんな入り方するのはミリちゃんしかいないだろう。爆笑面接試験じゃあるまいし。
「すみません! 大変失礼しました! Cランクの真由です。討伐隊のメンバ―を連れて来ました!」
急にドアが開いたことに驚いていたようだが、さらに、ミリちゃんとアルシアがそこにいる事にも驚いているようだ。
「えーと、ここにいる3人が、討伐隊のメンバーになります」
「まさか、アルシアさんとミリさんがメンバーになるとは思いませんでした」
「ミリさんじゃない、ミリちゃん」
「いちいち突っ込むな!」
この事務員さんの女性も、この結果を想像すらしなかっただろう。これを聞いたダンロッパがどういう反応するのか楽しみだ。
もっとも、その現場に居合わせることは無いから、反応を見ることが出来ないのは残念だ。
「それでは、今回の依頼ですけど、まずネスタリア市街に行って『素材屋パンダライフ』で、物資を受け取って下さい。申し訳ないのですが、時間が無いのでSランクとAランクに見合うだけの物資は用意出来ないと思います。その代り、特別にCランクの自己負担をこちら側で負担します。尚Sランク、Aランクの報酬は完遂後になります」
おい! Cランクの俺は自己負担だったのかよ!
報酬が貰えるのはAランク以上で、Bランクは費用負担してくれるだけのようだ。
「それからボルボン地方にある、ボルボン山脈の洞窟に眠る階級不明の『スネークドラゴン』の討伐をお願いしまっ」
「ちょっと待って!!」
突然、アルシアが割り込んできた。俺も「ちょっと待て」と思ったところだ。どう考えてもドラゴンなんて絶対強いだろう。
「話を止めてしまってごめんなさい」
「いいえ、どうぞ話して下さい」
「はい、あのスネークドラゴンは強力な魔力を持っていて、強さは未知数です。でも、洞窟さえ立ち入らなければ害はないはずよ。危険を冒してまで討伐する必要はないのでは? それに大魔法使いカリバーさんが、封印しているから問題無いはずよ!」
「正直私もそう思いますが、ダンロッパさんがお決めになったので」
ダンロッパのことだから、絶対に不可能な依頼にしたかっただけなんだろうな。だから、討伐するメリットも無いんだろう。
アルシアもそれを分かったのか、それ以上喋らなかった。
「どうされますか? 辞退されますか? その場合、依頼拒否になりますので、学費の補助はなくなりますが」
「うーん、それは困るな……」
学費の補助が無くなるのは、Cランクの俺にとって致命的だけど……。
だからといって、こんな危険な依頼を受けてみんなを巻き込むわけにはいかないし……。
「マユリン、断るの? あたしは行きたい」
「私は、真由の判断に従うわ」
「ポンタちゃんは返さない」
俺も、このメンバーで討伐してみたいと思っている。ダンロッパの思い通りになりたくないというのもあるが、このメンバーと冒険してみたいという気持ちの方が強い。
それにミリちゃんは分からないが、アルシアとミルネはメンバーになった時の決意は固かった。その志を無下にしたくはない。
「俺はこの依頼を受けたいと思っているが、それでいいか?」
俺がそう言うと、3人ともうなずいた。
「と、いうことで依頼を受けます」
「分かりました。では、討伐隊の名前を教えてください」
「な、名前!」
しまった! 名前なんて考えてなかったし、そもそも考える余裕なんてなかった。
しかし、名前に素早く反応した者が一人いた。
「真由ちゃん、これ」
ミリちゃんが、ヌイグルミのポンタを差し出した。
「え? どういうこと? まさか、ポンタという名前にしたいのか?」
「違う、ラビットちゃん」
「ラビットちゃん?」
「そう、ラビットちゃん」
どういうネーミングセンスなのか全く分からないが、ミリちゃんが言い出したことを、否定するのは難しいだろうし、別にそれでも構わない。
というより、名前なんて何でもいいと思っているからな。
「ミリちゃんがこう言ってるけど、ミルネとアルシアはこれでもいいか?」
「マユリン、可愛い名前だね。気に入ったよ」
「う、うん、私もそれでいいよ」
ミルネは気に入ってそうだけど、アルシアはちょっと恥ずかしそうだったな。
まぁ、アルシアの反応が普通なんだろうな。
「では、討伐隊の名前は『ラビットちゃん』でいいですか?」
「はい」
「分かりました。それでは明日の午前中に出撃式を行いますので、講堂に来て下さい」
「はい」
こうして、討伐隊『ラビットちゃん』が誕生した。その事はすぐにダンロッパの耳に入っただろう。
――場面変わり、ここはダンロッパの部屋で、モリモンがそのことを伝えに来たところである。
「ダンロッパさん大変です!」
「落ち着け、モリモンどうした?」
「真由が結成した討伐隊の中に、ミリがいます!」
「何だと!! 有り得ないだろ!! 我々がどれだけの手段を用いても、首を縦てに振らなかったんだぞ!!」
ダンロッパは驚きを隠せなかった。そして、モリモンは興奮気味でアルシアもメンバーになったことも報告した。
「アルシアは想定していたが、まさかあのミリが入るとは……これじゃあ、普通の討伐隊の戦力になるではないか、いやそれ以上かもな。魔王軍もベルリア学園もこの動向を見逃さないだろう……何か利用出来ないか……うーん」
「私も驚いています。他の勢力の動向は、私の討伐隊が監視にあたります」
「任せたぞ。私は、殺人魔法使いのガムイに、真由と裏切ったアルシアを殺すよう依頼を出そう」
「ガ、ガムイさんですか……あの残虐、非道の……。しかし、ミリには勝てないのでは?」
「それは考えないといけないね。でも、今は討伐隊としてどんな戦い方をするか様子を見るしかない」
そう言うとダンロッパは頭を抱えた。
お読み頂き、ありがとうございます。
気に入って頂ければ、ブックマークや↓の☆をクリックしてくれますと、モチベーションが上がります!