第3話 美少女から戻れない!?
俺は迎えの車で組織に向かい、地下の入り口には、すでに無垢朗が待っていた。
「うぉー!! 最高だよ!! 可愛いよ!! 大成功だよ!! 僕の理想通りの……ぐぇ!」
とりあえず一発殴っておいた。
「も、もう一発殴ってくれていいかな?」
この美少女の中の人が俺だと忘れているのか?
この後も、無垢朗が話しかけても無視して、無垢朗の研究室に向かった。
研究室に着くと、部屋の中には後輩のあいみとカリバーさんがいた。
この12畳程の部屋は、完全に無垢朗の私物化されており、テレビやパソコン、冷蔵庫等の家電製品も兼ね備えてあり、棚には美少女フィギュアが沢山置かれていた。さらに奥のドアに研究室がある。
そして、カリバーさんがパソコンのゲームをしている最中で、あいみも一緒に画面を見ていた。この2人はもう仲がいいのか?
しかし、俺が入った瞬間、2人とも俺の姿を見て困惑している感じになってしまった。そりゃあ、いきなりこんな美少女が部屋に入って来たらそうなるよな。
うーん、なんて声を掛けよう。
「え、えーと、俺は……杉田浩二です」
すると、カリバーさんがゲームを止め、俺の方に寄って来た。
「本当に成功したんだね。『魔力』も全く感じない」
なんか事情を知っていそうな感じだったが、やっぱり魔法も関係しているのか? 俺はその辺りをカリバーさんに質問しようと思った。しかし!
そんな隙も与えず、あいみが物凄い勢いで俺の方に飛びついて来た。
「これがあのせんぱ~い? キャ可愛いー!!」
「飛びつくな!!」
「あれ? なんでこんな所に女子中学生……小学生? がいるんだろうね?」
「うっ……」
昨日の仕返しか!?
「ちっこくて可愛いね~なでなで~なでなで~」
「やめろ! さわるな!」
完全に仕返しだ! この外観ならあいみの方が背が高いし、お姉さんになってしまう。
「ふーん、へぇー、胸も結構あるじゃん。ほーう」
「うぉ!」
「女の子だったら、キャって言わないと」
「女の子じゃあない!」
どこ触っているんだよ! 完全にあいみのペースになっている。
あいみは、俺が指導していた時はこんなキャラではなかったのに、今日はやたらとイジッてくる。しかもテンションが高い。
でも、今はあいみの事より、カリバーさんに聞きたい事がある。
「ちょっとカリバーさん!! 何か知っているなら説明してもらいましょうか!?」
「それは半分僕の『変身魔法』だよ。僕の存在を知られたくなかったから、僕の外観を変えれないか、無垢朗さんにお願いしたんだよ」
「お願いしなくても『変身魔法』が使えるなら、それでいいだろ!」
「『変身魔法』を維持するのに、魔力の消費が激しいんだよ。それに魔力を発するから、他の魔法使いに気づかれるからね。多少なら誤魔化せるけど」
すると、無垢朗が得意げに説明を始めた。
「僕の美少女になる為に開発していた薬品を、カリバーさんの魔法で補ったら完成したんだよ。でも、僕もカリバーさんも何も変化なかったのに、なぜ浩二君だけが成功するんだよ! 羨まし過ぎるよ!」
「俺は全然嬉しくない。まぁ、少しだけなら、貴重な体験が出来て良かったかもしれないが」
「『全然嬉しくなんかないからね! まぁ、ちょっとだけなら……良かったかも……』をツンデレな感じで言ってみて!」
「くたばれ!」
もうすでに2人も試していたのか。それで何も変わらなかったから、駄目元で俺にやったわけか。
全く勝手過ぎる。まぁ、元に戻れるなら別にいいけど。
「なるほど経緯は分かった。とりあえず、俺を元の姿に戻してくれないか?」
すると、3人は雷に打たれたように目を大きく開き、俺の方を見た。
「浩二君、君は何を言っているんだい?」
「魔力を伴わない変身は凄い事だよ」
「せんぱいは今の方がいい!」
ここにはまともなやつはいないのか!?
「おいおい、明日異世界に行くんだよ。こんな格好で――」
「せんぱいは今の方がいい!!」
「こらー!! 抱きつくな!!」
「百合キタコレ!!」
と、その時!! 突然、ドアが開き、誰かが入って来た!!
「何を騒いでるんだ!! 廊下まで聞こえてるぞ!」
「げっ!! 和田司令官……」
「ん? 誰だこの女の子は?」
そう、和田司令官が部屋に入って来た!
ここは一番の原因を作った無垢朗に説明してもらおう。
無垢郎が経緯を説明すると……。
「ぶぁぁぁかもーーーーーーん!!!」
雷が落ちた。
「明日、異世界に行く任務があるのに、お前達何をやってるんだ!! こちらの正体を隠して潜入するだけでも大変なのに、男であることも隠さないといけないとは、リスクが増えるだろ!! 早く戻せ!」
案の定怒られた。なぜか俺までも。しかし、みんな和田司令官には逆らえないから、俺を元に戻してくれるだろう。
まぁ、とりあえず元に戻れそうだ。明日異世界に行くのに、こんな可愛い状態だったら、絶対に調子が狂う。
「せっかくだけど、しょうがないね。僕の魔法で戻すよ。魔法解除!」
カリバーさんが指を差すと、俺の足元に魔方陣が現れ、白い輪っかの放物線みたいなものが、下から上に昇っていき、頭を超えた付近で消えた。
俺は、もっと呪文を唱えるとものだと思っていたけど、意外にシンプルだった。
もう終わったのかなぁ。みんな、頭に『?』が浮かんでいるような感じだが、大丈夫なのか?
「今、すべての魔法効果を消す魔法をかけたんだけど……戻らなかったね」
「おいおい、嘘だろ!?」
「ひっひっひー、せんぱい」
魔法解除は失敗に終わり、俺は依然として美少女のままであった。
「そうだ! 無垢朗は戻す方法を考えてないのか?」
「戻す方法? そんな発想は無かった」
「いや、あるだろ普通!」
駄目だ。無垢朗は自分が美少女になる事しか考えていない。
すると、和田司令官が心配そうな表情で問いかけた。
「カリバー君、杉田君がこんな状態でも、任務は遂行出来るんだろうね?」
「和田司令官、大丈夫だよ。むしろ、学園は女の子の方が多いし、入学希望者が多い時は、年齢が若い人を優先するので有利だよ」
「ほう、そうなのか」
「それに手続きの方も、昨日からずっとゲームが忙しくて、まだ準備はしてないんだ。すぐに女の子で手続きをするからね」
明日行くのにまだ準備していないって、ネトゲ廃人まっしぐらだな。ていうか、俺は美少女のままで異世界に行くのか?
「これから『テレポート』で、手続きをしてくるよ。普通なら『テレポート』は、1日に1回しか出来ないんだけど、僕の『魔力』なら2回出来るからね。明日には間に合わせるよ。名前はどうしたらいい?」
この問いには、無垢朗が間髪入れずに答えた。
「南田真由でお願いします!! 成功した時の為に、身分書も作成しているから」
「準備良過ぎるだろ!」
「分かった。僕の世界では名前は1つだからね。真由にしておくよ」
「せんぱい、真由ちゃんかぁー、ひっひっひー」
異世界に行ったら、俺の名前は真由になるのか……。うーん、やっていけるのか?
「じゃあ、僕は行くよ」
「カリバーさんは、存在を隠したいって言ってたけど、大丈夫なの?」
「僕の事は呼び捨てでいいよ。僕は『変身魔法』を使うし、少しの時間なら、別の魔法で魔力をカムフラージュするから、見破るのは困難だと思うから大丈夫だよ。君も早く、女の子に慣れておいた方がいいよ。じゃあ、行くね」
女の子に慣れるってもう、明日じゃないかー!!
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