第29話 アルシア&真由 VS S級魔物アジリ
アルシアさんが俺を守る為に、S級の魔物アジリと戦ってくれるそうだが、大丈夫だろうか?
授業で習ったが、S級の魔物と戦う時は1人でやらず、チームで連携して倒すのものらしいが、アルシアさんがいくら優秀なAランクでも勝てるのだろうか?
俺ものんびり寝ているよりかは、何かしないと2人共やられてしまうぞ。
「うっ……」
「真由、動いたら駄目! ここは私に任せて」
そう言うとアルシアさんは左手を伸ばし、アジリがいる方向に向けた。
この構えは『魔動砲』を打つんだろう。
情けないが、俺は起き上がることすら出来ない様で、アルシアさんに任せるしかない。
さらに言えば、出血のせいか、寒気と震えが出始めた。
それにしても、あのアジリという魔物は、こっちを見てるだけで何も仕掛けて来ない。
「魔動砲!」
ビシュン!! ビシュン!! ビシュン!!
「え?何が起きた?」
アルシアは魔力を溜める動作も無く、魔動砲を複数発射した。
しかも、ダンロッパの時よりも威力はかなり小さいが、もの凄いスピードで弾丸のように飛んだ。
しかし、アジリはそれを上回る俊敏さで、すべて回避してみせた。
「魔動連破砲!!」
ビシュ!シュ!シュ!シュ!!
今度はマシンガンのようにフルオートで魔力弾を打ったようだが、これもすべて回避された。
このアジリの動く速さは異常だ。S級なのも納得出来る。
しかし、不気味な事に回避するだけで、こちらに攻撃しようとする素振りを全く見せない。
アルシアさんの攻撃が終わると、また距離を取ってこちらの様子を伺うだけだ。
「くっ……やっぱり当たらない」
「もしかして何か企んでるのか……」
「違うわ。アジリはスピード以外は大した事ないのよ。だから、ああやって様子を見て、攻撃のチャンスを待ってるの。こちらのスタミナが切れたり、逃げる素振りを見せると攻撃して、再び様子を伺って、確実に仕留める魔物なの」
「面倒な魔物だな……それでは俺が……」
アジリは俺がくたばるのを待っているかもしれない。だから早く勝負を決めないと死ぬ……。
ということは、アジリの狙いは俺だから……俺が足止め出来れば、アルシアさんの攻撃を当てれるのではないか?
「ア、アルシアさん、俺がアジリを止めるから……ぐふぁ、はぁ、はぁ、その隙に魔動砲で仕留めてくれないか?」
「止めるって、無理でしょう! そんな身体でどうするの!?」
「はぁ、はぁ、そんな身体だから一気に勝負を決めたい……。もう、あまり長く持たない……。狙いは俺だ……捕食しようした時に首元を掴んでやる!」
「そんなの無茶よ!」
無茶でも何かしないと、意識が無くなりそうだ。
「だ、大丈夫……任せてくれ……早くしないと何も出来ないまま死んでしまう……」
「……分かった! でも無茶しないでよ」
そう言うとアルシアさんは、俺から背を向けて逃げるように離れて行った。
俺は『MPCシステム』を右腕全体に集中して備えたかったが、この身体では負担が大きくなるから、ギリギリまで待つ事にした。
アジリは俺の方をずっと見ていて、まだ動く様子が無い。
アジリの風貌はトラのような感じか。
こいつ、まだ警戒しているのか? それともっ。
サッ
「へ?」
アジリが一瞬消えたように見えたと思ったら……。
「うわーーーーーーーー!!」
突然俺の目の前に現れ、首元を狙って噛みついてきた! 咄嗟に避けようとしたが、少しずれて肩の方を噛み付かれた。
「ぐわわわー!! くそー!!」
俺は、警戒しながらゆっくり近づいてくるものだと思っていたが、実際は超スピードで接近して、いきなり噛み付いた。
俺はやけくそになりながらも、アジリの首元を掴んだ。
そして『MPCシステム』でさらに握力を強化して、締め付けてやった。
メキメキメキ
ギュアーーーーーーー!!
「ぬぉおー!! これはきつい!」
アジリは悲痛な鳴き声を上げたが、俺も同じように叫んだ。このまま絞め殺せそうだったが、限界を超えたこの身体では、これ以上力が入らない。
「ぬおおおーーーー!!!」
ヒューー、ドォーーーーン!
その時、アルシアさんが放った魔動砲がアジリの胴体に当たり、俺が首元を強く握っていたせいで、真っ二つに切断された。
「はぁ、はぁ、お、終わった……」
アルシアさんは心配そうに俺の所に駆け寄って来た。
「真由大丈夫!?」
「ははは、大丈夫って言ったら嘘になるかな……」
「あとは任せて、私がなんとかするから」
「ありがとう……もう、意識が無くなりそうだ……」
俺は戦いが終わると気が抜けたのか、一気に意識が遠のいて行くのが分かった。
さっきまでの激痛も、思考能力も無くなってしまい、俺はそのまま気を失ってしまった。
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