第28話 私はアルシア
真夜中の森の茂みでも、魔力で発光している草木のおかげで、ギャル2人組が腕を組んで見下ろしているのが見えた。
そして、講堂で会った時と同じように、その様子を不安そうに見る子がいた。
「ふーん、見れば見るほど可愛いね」
そう言うと、二人はしゃがみ込み、その内の一人が俺の首元に手をかけ、少し頭を持ち上げた。
そして、俺の髪を手ぐしのように触り始めた。ミルネの時のような心地よさとは違って、不快でしか無い。
「サラサラで、艶があって綺麗な髪だね。うらやましー」
「ツインテも可愛いしね」
そう言うと次は俺の顔を触り始めた。
「このもちもちとした肌触り……あーいいね。頬ずりしたい」
「ほんとぷにぷにだよ。幼い顔で可愛い!」
なんだろう? ミルネやあいみの時にも、似たようなことを言われた時は、照れくさい気持ちになったけど、この二人の場合はただ腹立たしい気持ちになる。
しかし、怪我のせいで何も抵抗出来ない。
「妹にしたいぐらいだね。だからミリちゃんも気にいるわけだ」
ミリちゃんって、あの変なSランク子だったか。
「ちっこくて、童顔なのに胸はあるなんて、反則だよね」
「ひゃっ」
「ふふふ、変な声出したよ」
思わず変な声を出してしまったが、こいつら一体何がしたいんだ?
そして、今度はその手で腹の辺りを撫ぜた。
「うっ!」
「ごめん、ごめん、この辺りだよね。ダンロッパさんから受けた傷は」
「この辺りもそうだよ」
2人はニヤニヤしながら、俺の傷口を触り出した。
俺はじわじわ来る痛みと、時折にやって来る強い痛みに声を出してしまうが、なんとか耐えていた。
「うわー、痛そう」
「可哀そうに」
「じゃあ、早く終わらせてあげないと」
そう言うと、二人は拳に魔力を纏わせた。
おいおい、嘘だろ! こいつらダンロッパの代わりに、俺に止めを刺しに来たのか!?
何とかしないと、やばいぞ!
しかし、抵抗する間も無く、2人は傷口に拳に魔力を纏わせ『魔動拳』を打って来た。
バァーンッ
「ぐわあーー!!」
再び傷口が広がり、出血し始めたせいで、俺は今までに無い激痛が襲いかかり、腹を押さえ這いつくばった。
怪我の痛みはした時よりも、時間が経ってから再び同じ所をぶつける方が痛いと言うが、今回はそんな比じゃない。
「……」
流石に2人とも流血と、俺の痛がる姿に動揺した。
しかし、地面に這いつくばってる俺を引っ張り上げ、仰向けにして、再び拳に魔力を纏わせた。
「あ、あ、あんたが悪いんだからね」
「そ、そうよ、さっさと終わらせよ」
あれをもう一発なんて、もう耐える自信が無い……。ここまでか……。
「待って!!!」
突然俺の前に手を出して、攻撃を制止しようとする女の子が現れた。
そう、3人組の女の子の内の1人で、後ろで不安そうに見ていた可愛い女の子だ。
「もうやめよ! こんなの間違ってるわよ!」
「アルシア、あんたねダンロッパさんに逆らう気なの!?」
あの女の子は『アルシア』という名前なんだ.....。
今この状況で俺を守ってくれるアルシアさんは、天使のように思える。
「こんなの正義じゃないわ!」
「あんた、次のSランク候補生でしょう。ダンロッパさんに逆らえばなれないよ!」
「そうだよ! ここはあたしたちがやるから、黙って見てな」
再び、2人は俺に攻撃をしようとしたが、アルシアは制止を止めなかった。
「アルシア! いい加減にして! 裏切ったらあんたも無事じゃあ済まないよ!」
「それでも駄目! 私は……うん? 何? 魔物の気配を感じる」
「えっ! どこ?」
突然、アルシアは魔物の気配を感じて、周りを見渡した。
前回、ミノタウロスに遭遇した時は、魔力が無くとも音で接近してきたのが分かったが、今回は不気味な静けさしかなかった。
「どうせ魔物が居ても、C級でしょう。気にすんなよ」
「いいえ、違うわ。これは……」
ガサッ
「えっ!?」
魔物はいつの間にか、背後から現れた。
警戒しているのか、距離を取って俺達の方をじっと見ていた。
魔物の姿は、薄暗いのと出血のせいか視界が霞んで見えるせいで、よく分からないが、4足歩行の動物に見えた。それほど大きくはない。
「あれはS級のアジリ!!」
「ヤバいじゃん! 逃げよ! なんでS級がここにいるの!?」
またか、ここにいるはずの無い魔物……。
しかも今度はS級……ダンロッパめ、ここで俺を確実に息の根を止めさせる為の保険のつもりか。
「アルシア逃げるよ! こいつは弱ってる獲物から狙うから!」
「真由の止めを刺すのは、このアジリに任しちゃおうよ!」
2人はアルシアという女の子を置いて、逃げて行った。
それにしてもなんて事だ。この二人からの攻撃の危機は去っても、今度はS級の魔物か。
「き、君は逃げなくていいのか?」
「いい! ここであなたを置いて逃げたら一生後悔する!」
「お、俺を助けたらSランクになれないばかりか、君もダンロッパに……」
「構わない! 私はもう迷わない! 正しいと思った事をする! あなたのように」
「えっ!?」
俺のように?
「あなた、ミルネという女の子を守る為に、あんな事したんでしょう?」
「知っていたんだ」
アルシアさんも、ダンロッパのやり方には疑問を持っていても、絶対的なSランクの前では、不本意ながらも従っていたのだろう。
「あ、紹介遅れたね、私はAランクのアルシア。得意魔法は遠距戦」
「お、俺は真由.....ぐはっ、はぁ、はぁ」
「あんまり喋らない方がいいわ。私がアジリを討伐する!」
お読み頂き、ありがとうございます。
気に入って頂ければ、ブックマークや↓の☆をクリックしてくれますと、モチベーションが上がります!