第27話 これは公開処刑
俺は打開策を冷静に考えようとしたが、皮肉なことに落ち着けば、落ち着くほど強烈な痛みが襲ってくる。
このままだと、痛みで精神が崩壊してしまいそうだ。しかし、こんなところで終わりたくはない。
2分……いや、1分……1分だけなら踏ん張れる気がする。
俺は近づいてくるダンロッパの方に目を向けると、ダンロッパの様子がおかしいことに気づいた。
ダンロッパの歩き方が引きずり気味で、左手で腹を抑えていた。
もしかしてこれは、前の戦いの時の傷がまだ完全に治ってないのでは?
もう一度、同じ所を攻撃すれば威力が弱くても、それなりのダメージが与えられるかもしれない。
俺は拳を握り、ダンロッパが射程範囲に入ってくるのを待った。
「ふっふっふ、まだ息があるとは驚いたよ。私の魔動砲を至近距離で3発も喰らえば、普通は即死なのに。これは確実に止めを刺さなくてはな……」
ダンロッパの警戒心は、血を流しながら倒れ込んでる俺を見て少し薄れたのか、俺の傍までやって来た。
「魔動拳で葬ってやるか。貴様のお蔭で私に逆らおうとどうなるか、皆にも知らしめただろう。ふふふ」
魔動拳って、魔力を拳に纏わせて殴るやつだろう。Sランクの魔力でそんなことされたら、俺は粉々になるんじゃないか?
「はぁ、はぁ、ぐはっ、な、なにが決闘だ……公開処刑じゃないか……」
「まだ喋れたか……ふん、これでも貴様には敬意を払ってるんだよ。だから今すぐ楽にしてやろう。少女を魔動拳で殴り殺しは、あいつみたいで嫌なんだが、貴様は特別だ」
そういうとダンロッパは、倒れている俺の胸ぐらを左手でつかんで持ち上げた。恐らく魔力で持ち上げているんだろう。
「うぅ……」
「苦しそうだな! はっはっはー! 皆聞けー! いくら卑怯な事をしても所詮Cランク! Sランクいや、この私に楯突くならば、どうなるかよく見るがいい!」
こいつ俺への復讐だけじゃなく、逆らえばこうなることを、このAランク達に見せつける目的もあったのか。
本当、食えないやつだ。
ダンロッパは、右手に魔力を纏わせ攻撃態勢に入った。
ダンロッパに攻撃をするなら、これが最後のチャンスになるだろう。これだけ距離が近ければ十分だ。
「これで終わりにしてあげよう。魔動ぐはっ! な! なにー!?」
俺は、ダンロッパが魔動拳を打ってくる瞬間にMPCシステムで、前回の時に負傷したわき腹辺りに蹴りを食らわせた。
「き、貴様!!」
「うごっ!」
ダンロッパに攻撃を当てるのは成功したが、ダンロッパも魔動拳を止めなかった為、俺の顔を殴ぐった後吹っ飛んだ。
しかし、ダンロッパもダメージを受けていたので、威力は半減していたかもしれないが、それでも今の俺には、止めの一撃ぐらいの威力を感じた。
そして、俺もダンロッパも床に倒れ込んだせいで、構内は一瞬粛然とした。
誰もダンロッパが倒れ込むなんて、想像すらしていなかっただろう。
最初に動いたのはモリモンで、ダンロッパの元に駆け寄った。
「ダンロッパさん、大丈夫ですか? 早く回復室に。真由は私が止めを刺しますので」
「ま、待て、大丈夫だ」
ダンロッパはモリモンの手を払いのけ、自力で立ち上がろうとした。
しかし、ダメージが大きかったせいでよろけてしまい、それをモリモンが支えた。
「真由を先に回復室へ連れて行け」
「えっ? いいのですか?」
「そうしないと、私が負けたみたいになるじゃないか」
「わ、分かりました」
ダンロッパはモリモンに寄りかかった状態で、皆に話しかけた。
「勝負は当然だが私の勝ちだ! 決闘はこれにて終わりにする」
そう言うとダンロッパは、モリモンに支えてもらいながら、講堂を出て行った。
俺は最後の一撃と無理に力を出してしまったせいで、起き上がる事すら出来ないから、Aランク達にはダンロッパが勝ったように見えるだろう。
俺は数人の女の子達に、魔法で俺の身体を宙に浮かし、保健室の中にある回復室へ連れて行かれた。
まさか、こんな結果になるとは思わなかった。あのまま他のやつに殺されると思っていたからな。
余程ダンロッパは、俺に負けたくなかったのだろう。それとも、自分の手で始末したかったのか?
そして、俺はベッドに寝かされ、木のつるのようなものを手首に巻き付けられた。
縛ってるわけじゃないよな……。
でも、女の子は意外にも丁寧に作業をしてくれた上に「ゆっくり、休んで下さいね」と言って、部屋を出て行った。
もし本気でダンロッパを慕っていたら、こんな態度はとらないんじゃないか……。
しばらくすると、木のつるのようなものから魔力を感じ、それが俺の中に入って行くのが感覚的に分かった。
そのせいか俺の身体の中の魔力が、活性化していくような感じだ。
これは気持ちがいい。快適だ……。
俺はこの心地よい感覚に癒され、いつの間にか眠ってしまった。
もしかしたら、気を失ったかもしれないが。
――そして、次に目を覚ますと、辺りがすっかり夕暮れで赤く染まっていて、ベッドの横に椅子に座ったミルネが、心配そうに俺を見ていた。
「マユリン!?」
「うーん、ミルネか……」
「良かった! 目を覚ました!」
「うっ、痛てっ」
「あ、ごめん」
ミルネは喜びのあまり、思わず抱きついてしまったみたいで、俺が痛がるとすぐに放してくれた。まだ傷口が塞がってないから、少しでも動くと痛みが来る。
「ミルネ、大丈夫だったか? 何もされなかったか?」
「あたしは大丈夫だよ。あたしの事よりマユリンの方が心配だよ」
「俺は見ての通り大丈夫さ……はっはっはっあ、痛てて」
「もうマユリン、そんな笑ったら……でも……ありがとう」
ミルネがそう言うと、優しく俺の髪を撫でくれた。何度も……。
いつもならそんな事されたら、恥ずかしい気持ちになるところだが、なぜか今回はとても心地良くて、ミルネの優しい気持ちが手から伝わってくるような感じがした。
ずっと、このまま続いて欲しいと思っていると、いつの間にか再び眠ってしまった。
だが、幸福な時間は長続きしなかった。
ドスーン!!
「うがっ!」
突然俺の身体に衝撃が走り、痛みが伴ったせいで目が覚めた。
「何だ? ここはどこだ? 外?」
辺りはもう真っ暗で、どこかの茂みの中で、俺は地面に転がっていた。
どうやらさっきの衝撃は、地面に落とされた時のようだ。
そして、俺に話しかける女の子の声が聞こえてきた。
「真由、ごめんね。落としちゃった」
「あんたわざとじゃん」
そこには俺に講堂で話しかけてきた、あの3人組の女の子がいた。
さっきの会話はギャルの2人組で、講堂の時と同じく、一歩下がって真面目そうな可愛い子が不安そうに見ていた。
こんな真夜中に怪我人を連れ出して、放り投げるなんて尋常じゃない。
これはまずいぞ……。
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