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第22話 ミルネの決意

 ミルネは少し微笑むように話しかけていたが、眼は全然そうではなかった。

 突然「魔法戦士をやめる」と言い出して驚いたが、俺はミルネの話を黙って聞くことにした。



「どうして辞めるの?」

「うん……」



 ミルネは俺の問いかけに視線を逸らし、光り輝く草原の方を向いて語り始めた。



「あたしの魔力では、魔法戦士としてここまでかなって……。さっきのミノタウロスにも怖気づいて腰を抜かしちゃったし、戦士なのに情けないよね……」


「……」


 

 そうか、そこまで考えていなかったが、普通に考えれば分かる話だよな。


 ミルネから見れば、俺は下のランクで後輩にあたるわけで、先輩の目の前で次々と勝てない敵を倒してしまったら、自信を無くしてしまうかもしれない。

 

 しかも、そんな時に自身の魔力が弱いことを気にしていたなら尚更だ。

 

 うーん、俺のあの技は魔法と関係ないからな。ちゃんと説明した方がいいのかな?  

 でも、そうなると俺の秘密も言わないといけなくなるかもしれないし……。


 うーん。


「あ、マユリンのせいじゃないからね。Bランクになってからみんなについて行けなくなったし……それに……」


「それに?」

「ダンロッパさんにも才能無いって言われちゃったし……」

「あいつの言うことは本気にしない方が……」



 ミルネは俺の方をじっと見て、静かに首を横に振った。

 

 俺から見れば、ダンロッパなんてクソ野郎としか思えないけど、ミルネは違うようだ。やはりSランクというのは、絶大な存在なんだろう。


 だから、ダンロッパがおかしなことを言っても、それは「自分が悪いからこうなるんだ」と、考えてしまうのかもしれない。



「でもね、マユリン。こんなあたしに討伐隊の依頼が来た時は、本当に嬉しかったんだよ! やっと討伐隊のお役に立てると思ったの」


「うん……」

「……」



 俺は反応に困った。あの依頼は恐らくダンロッパが仕組んだ罠だから。



「でも、罠なんだよね」

「あ、気付いていたのか……」

「だって、この森にA級の魔物なんていないもん……」



 そう言うと、ミルネの瞳から一粒の涙がこぼれ落ちた。



「あっ」

「あたしね、ミノタウロス遭遇して罠だと気付いた時にね……『ああ、あたしはもう要らない存在なんだ』と思ったの。なんかそれが悲しくて……」


「……」



 そんな事を考えていたのか。本当にミルネは真面目に、討伐隊の一員になれるように頑張っていたんだな。

 そんな芽を摘むような事をするダンロッパは許せん。



「マユリンごめんね。巻き込んでしまって」

「俺の事はいいよ……」



 こういう時はどんな言葉をかけてやればいいのだろうか……。

 

 

 ミルネは決して魔法戦士が本気で嫌になったわけではないし、他にやりたいことが見つかったわけでもない。


 ただ色々あり過ぎて、自信を無くしているだけだと思う。


 俺もそういう覚えがある。組織に入った頃、先輩が厳し過ぎて自信を無くし、辞めようと悩んでいる時に和田さんが、話かけてくれたことがあった。

 

 和田さんは、俺の良いところや出来ていることを言葉にして褒めてくれて、最後に「期待している」と言ってくれた。


 単純かもしれないが、俺はそれが嬉しくて、大分救われた気持ちになって、もう一度頑張ろうと思った。



 だから、和田さんがやってくれたように、今度は俺がミルネにそうしてあげたい。



「俺は魔法戦士に向いていると思うよ」

「どうして?」

「さっきも授業で習ったことが、的確に実践出来ていたし、ダンロッパの理不尽な仕打ちにも耐えていた。俺は見ていて強い意志を感じたよ」


「でも、魔物に驚いて腰を抜かして動けなかったよ」

「初めはそういうものだよ。しかもいきなりA級だし、俺も逃げるつもりだったからな」



 ミルネはどこか力の抜けた表情だが、俺をじっと見て話しを聞いてくれている。



「でも、魔法だって全然だし、魔力だって弱いし……」

「そんな事は無いと思うよ。あの木の枝で剣にデザインして魔法剣士やっていたんだろう? ダンロッパは馬鹿にしていたけど、俺は凄いと思うよ」


「……」


「だって言い換えれば、あんな木の枝からデザインするという事は、魔力消費が多いはずだし、魔法も複雑になるんだろう? ミルネはそれを普通にやっていたんだから、凄いと思うよ」


「うん……そうなのかな……」



 そう言うと、ミルネは、さっきまでの悲しい表情が少し和らいだ。俺はミルネのすぐ傍に寄った。



「ミルネ、この世界は2つあるを知っているか?」

「2つ?」

「そう、1つはこの現実の世界。そしてもう一つは……」



 俺はミルネの頭の方を指をさした。



「もう1つはここ。頭の中の世界」

「頭の中の……世界?」

「そう、頭の中の世界と現実の世界は密接に繋がっていて、色んな人が頭の中で想像したことが、現実の世界に反映されて、今の世界があるんだ」



 和田さんから教えてくれた事だけど。



「どういうこと?」

「つまりね、逆に言えば、現実の世界を変えたければ、頭の中の世界で強く想像すればいいんだよ」

「頭の中の世界で想像?」


「頭の中の世界になりたい自分を、何回も何回も想像するんだよ。そうすると段々と現実の世界の方から、それに近づいてくるわけさ」


「なりたい自分……」

「ミルネのなりたい自分って何?」

「あたしのなりたい自分は……」



 ミルネは押し殺していた感情が高ぶってきたのか、涙が一気に溢れて出した。恐らく、いつから魔法戦士を目指したのかは分からないが、その時の決意や想いが蘇ったのだろう。



「あたしは……やっぱり魔法戦士になりたい!! 立派な魔法戦士になってここを守りたい!! 魔王軍が攻めてきても、逃げ回るだけなんて嫌だ!! みんなの役に立ちたい!!」



 ミルネは涙を流しながらも、力強く言葉を発した。

 これが本心だろう。



「ミルネなら出来るさ! 俺も力になるよ!」

「ありがとう、マユリン」



 俺はミルネの両肩に手を置いた。



「なぁ、ミルネ。ダンロッパが言った事……俺の言った事……どっちを信じたい?」

「そんなの、マユリンの方だよ!」



 そういうとミルネは俺の胸に顔を埋め泣いた。

 俺は優しく抱きしめ、ミルネが泣き止むまでしばらくの間背中をさすった。



 ……。


 ……。

 



 まぁ、これも和田さんから教えられたことなんだけど、俺もそう思ったからこそミルネに教えた。

 

 人間って、現実に絶望したり、落ち込んでしまうと、自分のことをどんどん悪い方に考えて、頭の中で悪い世界を想像する。

 そして、それがどんどん現実になってしまう。


 だから、ミルネにはそうなって欲しくない。

 俺も出来る限りの事はしてやりたい。俺は少し力強く抱きしめた。

 


「ねぇ、マユリン? 服の中に固い物? あるけどこれ何? なんか棒みたいな物だけど……」


「えっ!? か、固い棒だと!?」

「うん」


「い、いや、こんな時にそんな……まさか……いやいや、美少女にそんな物は無い!」

「マユリン?」

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