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第21話 夜の森に潜む罠

 俺とミルネは森の前まで来た。

 明るい時と違って、森の中は真っ暗で、不気味な雰囲気を醸し出していた。


 さらに森の奥から風で木の揺れる音、獣の鳴き声が聞こえてくる。しかし、学園に帰るにはここを通らなくてはならない。



「ミルネ、行くぞ」

「……。」

「ミルネ?」

「マユリン……暗いの駄目……怖い」



 そういえば前に言ってたよな「暗いのが苦手」だって。

 でも、これは俺でもちょっと怖いかな。

 

 なんせ、何が常識なのか分からない異世界で、どんな魔物が出るか分からない夜の森、分からない事だらけの恐怖がある。


 しかし、自分より怖がっている人がいると、なぜか恐怖心が少し薄れて『俺がやらなきゃ』という気持ちになってしまう。



「ミルネ、手を繋ごう」

「うん」

 


 どうでもいいが、女の子の手を握った時、俺が男だった頃は(今でも心は男ですけど)大体の場合、女の子の手の方が冷たい場合が多かった。


 俺の手が単に熱かっただけなのか、男だからなのかは分からないが、初めて女の子の手を繋ぐ時はいつも「どっちだ?」と考えてしまう。


 うん、ミルネの手は暖かった。 


 しかし、今は、手を繋ぐ話しよりも周囲に注意しないといけない。


 外から見れば暗かった森も、いざ中に入ればそこまで暗闇ではなかった。それとも目が慣れてきただけかもしれないが。



「ミルネ大丈夫か?」

「こうして手を繋いでいるから平気」



 そう言うとミルネは、俺の方に寄り添った。自分が小さくなったせいで、目線の高さが同じなのは何か新鮮で、悪くなかった。

 


 しばらく歩き続けると、森の奥から点ぐらいの大きさの青い光が、複数見えてきた。



「ミルネ、あの青白い点みたいは光はなんだ!?」

「あれは強い魔力持った植物が、魔力で発光しているだけだよ」



 どうやらそんなに珍しいものでは無かったようだ。

 俺は夜行性の魔物の瞳だと思って一瞬焦ったぞ。



 それからも歩き続け、魔物にも遭遇することもなく、30分ぐらい経った。



「マユリン、なんかおかしいよ」

「何が?」

「静か過ぎるよ。これだけ歩いて魔物一匹も遭遇しないなんて……」

「そうなのか。そんな時もあるんじゃないの?」



 確かに入る前に聞こえた獣の鳴き声も、いつの間にか聞こえなくなっている。逆に静か過ぎるのも不気味だな。



「魔物を追い払えるぐらいの強力な魔力でも発していない限り、こんな事無いよ」

「逆にこっちが魔法使ってないから、気付いて無いだけじゃないの?」

「それならもっと周辺から魔物の気配を感じるはずだよ」

「おいおい、それって近くに強力な魔力を持ったやつがいるってことじゃないのか!?」



 もしかしてダンロッパが、暗殺しに来たわけじゃないだろうな? 

 あの不自然な不手際で遅くなったしまって、こんな事になっているわけだし。



「違うと思うよ。強い魔力を感じないもん」

「じゃあ、他に何かあるのか……」

「魔力は弱くても、力、スピード、耐性に優れた強い魔物もいるんだよ。この森にはいないはずなのに」


「マジか」

「音を立てずにゆっくり隠れるよ」



 俺とミルネは道から外れ、近くの木に身を屈め、息を潜めた。

 こういう魔物は、魔力検知をあまり使わず、視覚、聴覚、嗅覚で獲物を探すらしい。


 それにしても今日だけで、急な討伐隊の依頼が来て、発注ミスで遅れて夜になって、この森にいないはずの魔物がいるとか、単なる偶然ではないだろう。

 

 きっと、ダンロッパが仕組んだに違いない。



「なぁ、ミルネ、よく気づいたな」

「だって授業で習ったもん」

「なるほど」

「マユリン、周辺の音をよく聞いて。少しずつ移動していくよ」

「分かった」



 さっきまで怖がってると思っていたら、いざという時にちゃんと冷静な判断をするんだな。

 授業で習ったことが活かされてるいるし、俺も見習わないと。

 

 俺とミルネは道の脇の木に隠れながら移動した。

 しばらくすると、前方方向の遠くから『トントントン』という音が聞こえてきた。



「マユリン、ストップ」

「なんか聞こえるな。何の音だろう」



 そして、その音は徐々に大きくなり、その音は恐竜が走ってくるような『ドン!ドン!ドン!』という感じになってきた。



「何か来るぞ!」

「マユリン身を屈めて」



 俺とミルネは木に身を潜めた。

 

 しかし、その音は大きくなる一方で、さらに暴れているのか、それとは別に木が次々と倒されるような音までした。


 これはヤバいな。


 だからと言って今から、ここを離れることも出来ず、嵐が過ぎ去るのを待つように耐えていたが、それも空しく、その魔物は俺達の前までやって来てしまった。


 その魔物は3メートル位の身長に、角が2本ある牛頭のゴリラみたいな筋肉質の体格で、赤い瞳をした鋭い眼つきで周囲をうかがっていた。


 

「あ、あれは……A級のミノタウロスだよ……なんでこんな所に」



 ミルネは青ざめた顔で、声を震わせて言った。

 そりゃあ、こんなでかくて怖い魔物に遭遇して驚かない方がおかしい。

 

 俺なんか、野生の猪に遭遇しただけでも結構怖かったのに、それがミノタウロスなんだから、怖いに決まってる。

 

 ここはやり過ごすのが一番だろう。

 俺は怯えるミルネを優しく抱き寄せた。


 しかし、ミノタウロスは興奮した様子で辺りを嗅ぎまわった。


 こいつ、嗅覚でここまで来たのか? 

 俺らの存在に気づいているが、場所が特定出来ていない感じか……なかなか離れてくれないぞ。


 しばらくするとミノタウロスは嗅ぎまわるのをやめ、俺たちが隠れている木の方を注視した。そして、奇声を上げ俺達の方に向かって、突進を始めた。



「バレた! ミルネ逃げるぞ!」

「……」

「どうした!? 早く!」

「駄目! 立ち上がれない!」


 

 ミルネはあまりの恐ろしさに腰を抜かしてしまったようだ。

 俺は逃げるのをやめ、逆にミノタウロスの方に向って走り、戦うことにした。



「マユリン!!」

「ぬおおおおおおおおお!!」



 ミノタウロスは岩みたいな拳を、俺の方に振りかざした。



「MPCシステム! 回避!」



 俺は右脚にパワーを集中し、地面を蹴って、ミノタウロスの攻撃を回避した。

 ミノタウロスの拳は地面に直撃して、もの凄い轟音と伴に周辺の地面を砕いた。



「マジか!? しかし、このまま攻撃してやるよ!」



 俺は攻撃を回避した後、左脚で着地して、そこから一気に『MPCシステム』でダッシュした。


 そして、その勢いで、さらに右脚にパワーと剛性を集中させ、ミノタウロスの足に渾身の蹴りを食らわせた。


 すると、ミノタウロスは悲痛な奇声を上げながら、バランスを崩し始めた。



「よし、効いてるぞ!」



 俺は透かさずもう一方の足にも同様の攻撃をして、ミノタウロスは完全にバランスを崩し、背中から倒れた。

 これで俺の身長でも届く範囲になった。



「すまんが止めを刺させてもうらう」



 ミノタウロスの頭に止めの、丸太も粉砕したMPCでパンチを食らわせた。

 すると、死んだのか、気絶したのか分からないが、完全に動かなくなった。



「ふぅ、なんとかなったかな。ミルネもう出てきても大丈夫だぞ」



 ミルネはゆっくり木の陰から、俯いた様子で出て来た。



「助けてくれてありがとう……」



 その声は少し弱弱しかった。



「ん? どうした? もう大丈夫だよ」

「……」

「え?」

「ごめんマユリン。何でもない。帰ろう」

「あ、うん」



 さっきの間は何だったんだろう……。

 何か言いたい事でもあったのかな。

 


 俺は少し気にはなったが、聞くのも野暮な気がするし、とりあえず今はこの森を出た方がいいだろう。

 俺とミルネは、手を繋ぎ寄り添うように歩いた。


 あのミノタウロスのおかげで、他の魔物に遭遇することもなく、無事に森を出ることが出来そうだ。 

 森を抜けると、ネスタリア学園に続く草原の道に出るのだが……。



「なんだ? 森の外はやけに明るいな」



 森を出た草原は、綺麗な青色の光を放っており、まるで光のイルミネーションのようだった。



「これも魔力で発光しているのか。なんか凄いぞ」

「マユリン、綺麗だね……」



 俺とミルネは、手を繋いだまま、恋人のようにその光景を堪能した。

 そして、しばらくするとミルネは、繋いだ手を離し、一歩、二歩と歩き、俺の方に振り向いた。



「ん? どうしたミルネ?」


「マユリン、今までありがとう。あたし、魔法戦士を辞めるよ」

「え!?」

お読み頂き、ありがとうございます。


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