第20話 ネスタリア街
このネスタリア街は人口3000人ぐらいで、俺の感覚からすれば小さな町になるが、一応この世界では市街地になるらしい。
そして、森に続くこの道が、この街のメインストリートになっていて、この道沿いにお店が並んでおり、そこそこ人が賑わっていた。
それ以外の所は住居になっており、文明はあまり高くなさそうだ。だから今思うと、学園はまだ頑張って建てたんだと思う。
今まで学園の中しか知らなかったから、ここは一般の人々の生活を調査するチャンスかもしれない。
「ミルネ、場所分かるか?」
「分かるよ。そこにあるもん」
「あ、ホントだ。『パンダライフ』って書いてある」
メインストリートの1発目のお店に『素材屋 パンダライフ』という木の看板があった。ネーミングが謎だが。
俺とミルネはお店の中に入った。
ドアを開けるとカウンターがあって、その奥扉に加工所があると思われる。店番をしていたのは、優しそうな顔をしたおばさんだった。
「お嬢ちゃん達、ネスタリア学園の討伐隊の依頼品を取に来たんかい?」
俺らが着ている制服で分かったんだろうが、事前に注文していたんだな。
そして、透かさずミルネが対応した。
「はい、魔法弾丸の素材を11個受け取りに来ました」
「11個? あら、おかしいわねぇ、10個の注文だったと思うんだけど」
「えっ、11個言ってましたけど……」
「ちょっと調べるわね」
お店のおばさんは引き出しから、注文書を取って確認した。
「あらー、11個になってるわね。でも、おかしいわね、11個に修正された跡が残ってるわね。でも変更されたなんておばさん、聞いてないわね」
うーん、なんか気になるな。おばさんの勘違いならいいんだが。
「11個用意出来ないということですか?」
「ごめんなさいね。在庫も無くて、急いで作るから、夜まで待ってくれるかしら?」
「えーと……どうしよう……マユリン」
「とりあえず、急ぎでお願いします」
これはダンロッパの罠というより、嫌がらせか? それとも、本当に変更になっていて、単にお店側の不手際なのか分からないな。
「ごめんなさいね。ちょっとこれでジュレでも食べて待っててね」
「あ、ありがとうございます」
そういうと石で出来た『2B』と書かれたコインを1枚くれた。話の流れから、これは貨幣だろう。
俺とミルネは外に出た。
「マユリン、帰りが夜になっちゃうね」
「夜の森は危険だけど、討伐隊に迷惑かけるわけにもいかないしな」
「うん……」
「せっかくだし、街を散策しよう。お金も貰ったし」
「そうだね」
俺とミルネはメインストリート沿いにあるお店を回った。
ついでにお金の事を知りたいから、値札や他のお客さんが会計をしている時は注意深く観察した。
それでいくつか分かった事がある。
まずお金は『魔力コイン』と呼ばれており、C、B、A、Sという順に単位があって、実際『5C』とか『2B』と表示してあった。十進法かどうかは分からない。
それから、名前からしてこのお金は魔力の量で価値が決まる。だから、Cコインでも、自分の魔力をコインに注入すれば、BコインにもAコインにも変わるらしい。
そうなると、この世界は魔力が強ければ金持ちになれるし、逆に魔力の少ない者は、コインの魔力を使って生活をする為、その対価として労働力を提供する事になる。
一般人はほとんどがDランクの魔法使いにもなれないらしいから、労働者が多い。
そのこともあって、学園の制服を着ているだけで、羨望の眼差しで見られる事もあった。
この世界では、Cランクでもあの学園に入れただけでも、エリートなのかもしれない。
ただ気になるのは、学園の話は店員さんや、他の人の会話から聞く事はあっても、王様とかそういう話は全く無かった。
この世界の政治的な体制がまだ分からないな。
「マユリン、次は服屋さんに行こう」
やれやれ、全部のお店を回るつもりなのか? でも、この世界の女の子もファッション関係のお店は好きだな。
「どうこれ似合う?」
「いいんじゃない」
ミルネはすでにデザインされた服を試着して、俺に見せてくれた。どの服もシンプルなものばかりだけど、ミルネは可愛いから大人っぽい服以外は似合いそうだ。
デザインされた服は、着ないで放置するとだんだん魔力が消えて、元の素材に戻るから注意がいる。
でも、定期的に服を着れば自身の魔力が供給され、デザインされたまま半永久に持つらしい。
もし、デザイン魔法が得意な者がいたら、服を買わずにデザインを覚えて、自分でやる者とかいそうだな。
「マユリン、次はジュレ食べに行こう」
最後に立ち寄ったのはレストランだ。
ジュレしかないみたいだから、全然テンションは上がらないが。
それにしても、外はもう大分暗くなったな。
「なんか別にお金を払ってまで、これを食べるのはもったいない気がする」
「外食のジュレは、すでに『テイスト』されているから、美味しいよ」
そういう問題では無いんだが……。もっとこう料理されたものが食べたい。
「いらっしゃいませ、ご注文はいかがなされますか?」
「ジュレ意外の物でお願いします」
「あの……ジュレだけになりますが」
「じゃあ、聞くな」
「マユリン?」
いかん、いかん、ついジュレしか無い不満を、店員さんにぶつけてしまった。
酒場のような雰囲気があるから、普通に酒飲んで、美味しい物が食べたかったんだけど。
「あの……種類と味付けの方の話なですけど」
店員さんはジュレの種類と味付けを聞いたみたいだが、正直どうでもよかった。
注文はミルネに任せて、適当に頼んでもらった。
そして、しばらく待つとジュレがテーブルの上に並べられた。
「マユリン、美味しそうだね」
「うーん……」
見た目は学食で食べたものとほぼ同じだ。
「やっぱり外食のジュレは美味しいね」
「うーん……」
確かに塩気のある味付けはされていたが……こんにゃくに塩振って食べる感じかな。もう一つは、甘味がある味付けだが……こんにゃくに砂糖かけた感じか。
これを聞いて、ジュレを食べたいと思った人は何人いるだろうか。
しかし、ミルネは美味しそうに食べている。もし、ミルネが日本のお店のスイーツでも食べたら発狂するんじゃないか。
しばらくして食事が終わる頃には外はもう真っ暗になっていた。
「そろそろ戻った方がいいかもしれないな。会計頼むよ」
俺は店員さんに声をかけたが、ジュレの値段もわからないし、そもそも円でもドルでも無さそうだ。
とりあえず貰ったコインを渡せばいいだろう。
「ジュレ二つで1B5Cコインになります。お支払い方法はどうなされますか?」
「じゃあ、カードで一括払いで」
「はい? あのー、直接魔力を注入してもうらうか、コインでお願いします」
「マユリン?」
当然だが、カードは存在してなかった。でも、支払は魔力コインか、直接魔力注入の2つしかないことが分かった。
魔力持ちなら、ただみたいなものだよな。
俺はおばさんから貰った2Bコインを店員さんに渡すと、店員さんが別のコインを出して、2枚重ねて指でなぞると、『2B』と書かれたコインが『5C』に変わった。
これで十進法だという事が確定した。
「ありがとうございました」
俺とミルネは店を出て、パンダライフに戻ることにした。
魔法による街灯によって、夜でも明るく、仕事を終えた人達で賑わっていた。
気になったのは『ネスタ村行き』と書かれたバス停みたいな看板に、人が列をなしていたことだ。
まさかバスが来るってことはないよな? でもここは魔法の世界だから、空飛ぶじゅうたんかもしれないぞ。
他にも、魔法戦士らしき人が、数人の街の人を連れて歩いていた。恐らく、夜は危険だから護衛しているんだろう。
そして、俺とミルネはパンダライフに到着した。カウンターにはおばさんがいて、俺らの顔を見るや否や、奥の扉を開けて中に入って行った。
魔法弾丸の素材を取に行ったんだろう。そして、しばらくすると布で巻いたものを持って来てくれた。
「お待たせしちゃってごめんね。はいどうぞ」
「ありがとうございます」
「今からか学園に戻るやんね、この辺りはC級の魔物が出るから気を付けて帰るんだよ」
「はい」
俺とミルネは依頼品を受け取って、すぐに店を出た。
「マユリン、夜の森は魔物に検知されないように魔力を使わずに行くよ」
「うん……」
言われなくても、一切使ってませんから。
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