第190話 最後の大技、禁じ手発動!
俺に吹っ飛ばされたザイロンは、ゆっくりと起き上がった。
「いきなり魔王フィルリアル様の力を試すことが出来るとは……フフフ、よく見るがいい!!」
「何だ!?」
すると、ザイロンの周りを周回していた黒魔パーティクルが、一気に膨張し始めた。そして、両手を広げて一気に体内に取り込むと、ザイロンの身体は大きくなった。
おいおい、まだ強くなるのかよ!
さっき吹っ飛ばした時は、勝てると確信したんだが、これで分からなくなってしまった。
「はっはっはー! 魔王フィルリアル様の力を全身に感じるぞ! わしのような強者だから出来るんじゃ! きっと魔王フィルリアル様も喜んでおられる」
確かに強くなったと思うけど、結菜ちゃんの時とはまた違う強さで、結菜ちゃんの魔王フィルリアルの方が弱いと言うわけではないと思う。
もしかして、宿主によって引き出される能力が違うかもしれないな。
「さあ真由よ! 始めようじゃないか! ゆくぞ!」
ザイロンはかなりの速さの超高速移動で、俺の前に現れると強力な魔力を纏わた魔動拳を次々と打ち込んで来やがった。そして、俺もMPCと魔力の合わせ技で回避して距離を取ると、ザイロンは魔動砲を打って距離を詰めて来た。
でも、この戦い方は基本的で、アルシアと修行した時によくやっていたから、とても戦いやすい。
もしこれが結菜ちゃんの魔王フィルリアルだったら、石のように全く動けない拘束魔法をかけて、首を掴まれて終わりだろう。
そして、互角の戦いはしばらく続いた。
「これでも対応してくるか」
「はぁ、はぁ、せっかく魔王フィルリアル様の力を手にしても、はぁ、俺には勝てないようだな」
っとは言ってみたが、MPCは瞬発的に大きな力を発するから、長期戦になるとスタミナが持たなくなる。勝負を早く決めたいところだが、それは難しい。
俺は瞬間的にパワーと魔力を爆発させて、何とかザイロンと戦うことが出来ているが、ザイロンは常時そのパワーが出せている感じで、しかも全く体力も魔力も落ちない。
だから、このままだとジリ貧で、やられてしまう。
「その様子じゃと、勝てないと悟ったか? もし、魔王フィルリアル様の力が無ければ、わしは負けていただろう。しかし、魔王フィルリアル様は次元が違う。わしの魔力だけでなく、潜在能力まで引き出してくれるのじゃ。さらに、魔王フィルリアル様の膨大な魔力が供給される。お主に勝つ要素はは無い!」
「真由、私も一緒に戦った方がいいかしら?」
なんてチートなやつだ。ここはアルシアと共闘した方がいいか?
いや、仮にザイロンに勝てたとしても、フィルリアルはまた誰かに寄生して振り出しに戻るだけだろう。アルシアにはその時にデス魔法を打ってもらわないと終わらない。
かと言って、このまま戦っても負けるのは時間の問題。
他のみんなは魔王軍と幹部との戦いで余裕は無さそうだし、ミルネ達もいつここに戻ってくるか分からない。
ならばここは一つ賭けに出ようと思う。
前に魔王軍から逃れる為に、やったMPCの暴走の『禁じ手』だ。
この技は、交感神経をMPCで瞬発的に活性化させアドレナリンを一気に放出して、火事場のクソ力を引き出す。
身体の負担も大きく、理性も吹っ飛んでしまうのが難点だが、今回はアルシアが傍にいる。
この技を上手く活用するには、理性が飛ぶ前にやるべきことを何回も念じれば、無意識に成し遂げることが出来る場合がある。だから、アルシアに声を掛け続けてくれれば、理性も保てるかもしれない。
「アルシア、頼みたいことがある」
「何?」
「俺は最後の大技、禁じ手を使おうと思う。これが通用しなかったら俺の負けだ。でも、俺は勝てると信じている。だから、アルシアにも手伝って欲しい」
「分かったわ。何をすればいいの?」
「これを使うと俺の理性が飛ぶ。だから、理性が飛ぶ前に「ザイロンを倒せ」と呼び掛け続けて欲しいんだ。それで俺があいつに勝ったら、デス魔法を打って欲しい」
なんかアルシアに全部任せるみたいで、ちょっと気が引ける。
「分かった真由。任せておいて!」
「ありがとう」
「フフフ、何か企んでいるようじゃが、わしも本気を出してやろう。このままでも勝てそうじゃが、部下達が負けそうじゃから、あまり時間は掛けておれん。魔王フィルリアル様の計画には必要じゃからのう」
向こうも本気を出すか。
俺の本気とザイロンの本気、どっちに軍配が上がるのだろう。
いや、そんなことやってみないと分からないか。
とにかく、俺はこいつに全てをぶつけるだけだ。
あとは何とかなるだろう。アルシアなら上手くやってくれる。
他のみんなも幹部に勝てそうな感じみたいだし。
俺はやるべきことをやろう。
「行くぞ!! 「禁じ手発動!!」
これをすると異常に気分がハイになる。アドレナリンが分泌されるのが分かる。
だから、どうしても気持ちがでかくなってしまう。
「こうなるともう俺を止められないぞ! 全員潰してやる!!」
「真由!! ザイロンだけを倒すのよ!」
「はっ!」
アルシアの声で俺は我に帰ったが、酒に酔ったような感覚では、高ぶる気持ちが抑えられなくなる。
「はっはっはー! もう面倒だ! 全員まとめて死ねー!」
「駄目よ! ザイロンだけを倒して!」
「うるさい!!」
「きゃあ!」
「それがお主のとっておきの技か? フフフ、制御が出来ておらんのう。それではわしには勝てんぞ」
俺はもう何が善で、何が悪なのか分からない。ただ、ありふれるこのエネルギーを発散したいだけだ。
「真由っ」
「あっ」
突然、アルシアは俺を抱きしめ……そして……キスをした。
俺は突然のアルシアの行動に、俺は我に返った。
「アルシア……」
「い、いきなりでごめんなさい! わ、私あの……」
「ありがとう、アルシア。おかげで何とかなりそうだ」
今、俺は禁じ手でフルパワー状態なのに、ちゃんと理性はある。
ということは、このパワーを制御出来ている。
こんな感覚初めてだ……。
でも、長くは持たないから、ここはMPCらしく、一気に勝負をつけてやる。
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