第19話 討伐隊の依頼
ミルネと俺を呼び出す放送が流れ、俺はかなり焦った。
もし、ダンロッパが仕掛けてくるとしたら、もっと目立たない方法で来ると思っていたからな。
とにかく今は、急いで応接室に向かう方がいいだろう。
応接室は一階で俺の方が早く到着したが、もちろんミルネはまだ来ていなかった。
ミルネ、早く来ないかな……。
もしかして、もう罠にはまってるということは無いだろうな……。
しかし、俺のそんな心配をよそに、ミルネはすぐにやって来た。
特に変わった様子は無さそうだ。
「ミルネ、ここに来るまで何か変わったことは無かったか?」
「無いよ……」
「今まで、こういう呼び出しはあった?」
「無い……。もしかして、討伐隊の依頼かな?」
まだ以前のような明るいミルネにはいかないか。
それにしても、こういう呼び出しは今回が初めてらしいので、ますます怪しい。
もうダンロッパが復活したのかな?
とりあえず、呼び出された理由だけでも確認しておくか。
「俺が先に入るから」
とりあえず俺が先に入って、ダンロッパかモリモンがいないことを確認しておこう。
「失礼します」
部屋に入ってみたがダンロッパもモリモンはいなく、40代ぐらいに女性が1人机がある椅子に座っていた。
机の上には書類みたいなものが、何枚か置いてあった。
「あなたは真由さんですね。ミルネさんはまだのようですが」
この女性は誰かは分からないが、クラス試験の時の試験官にいたような気がする。とりあえず、危険は無さそうだ。
俺はミルネを呼び、中に入ってもらった。
「あなた方2人に、討伐隊から依頼が来ています」
するとミルネが小声で話かけてきた。
「マユリン凄いよ。討伐隊の依頼なんて初めてだよ」
ミルネは少し元気を取り戻し、討伐隊からの依頼に喜んでいるようだった。
確か、魔法戦士部にとっては、討伐隊は憧れそのものだから、嬉しいはずなんだが、俺は何か裏があると思ってしまう。
でも今は、ミルネも喜んでいるみたいだし様子をみよう。
「どんな内容の依頼ですか?」
「ネスタリア市街地にある素材屋『パンダライフ』に行って、魔法弾丸の素材を11個を受け取ってもらいたいのですが。出来ますか?」
依頼内容は普通なのかもしれないが、やっぱりこのタイミングは怪し過ぎる。
しかも、討伐隊のトップがダンロッパだし、ここは断った方がいいのか? そもそも拒否出来るものなのか分からないが。もう少し詳しく聞いてみるか。
「はい! やります!」
「えっ!?」
どの討伐隊の指示なのか? なぜ俺らなのか? 色々と質問しようと思ったのだが、その前にミルネが返事をしてしまった。
Bランクの魔法戦士は討伐隊の主力メンバーにはなれないが、サポートとして参加することが出来、それに選ばれるという事は大変光栄なことである。だから、ミルネは単純に自分が選ばれた事が嬉しかったと思う。
「ミルネ、いいのか?」
「あたし、やるよ」
「そうか」
なんか俺は久しぶりに元気なミルネを見たら、この依頼を素直に受けた方がいいと思えてきた。例え罠があったとしても。
「急ぎの依頼なので、今からお願いしますね」
「はい!」
「今から!?」
俺とミルネは依頼を受けることにして、応接室を出た。
ただ、もたもたしていたら、帰りに夜の森を通ることになって危険になるから、さっさと終わらした方が良さそうだ。
これと言って特に準備もすることもなく、というか準備するほどの物を持っていないから、すぐに出発した。
ネスタリア市街地に行くには、さっき剣の素材を探したあの森を抜けて行くらしい。ミルネの様子はまだ完全復活とは言えないが、大分良くなった気がする。
「マユリン、ちょっと急ぐよ。夜になる前に帰らないと危険だから」
「ああ、分かった」
ミルネがそう言うと、早歩きになった。
こんなペースで歩いたら、ミルネの体力が持つのか心配になるほどだ。というのも、体育の授業の時のみんな基礎体力が全然無かったからな。
しかし、そんな俺の心配を吹き飛ばすようにミルネのペースは落ちなかった。
学園から森に繋がる草原の道を進み、森の中に入った。
そして、森の中にも道が続いており、いつしか俺が異世界に到着したあの場所も越え、どんどん中へ突き進んだ。
やばい、俺の方がバテそうだ。
「ミルネ、大丈夫か?」
「そうだね、もっとペースを上げた方がいいよね」
「い、いや、ちょ、ちょっともう少しペースを落とした方が……と思ったんだけど」
この発言はミルネを心配してではなく、自分の体力の心配で言った。後半の方がもう走っていたぞ。
それなのにミルネは息ひとつ乱れてなかった。
「ごめんねマユリン。少し休憩しよう」
「うん」
「でも魔物がいるかもしれないから、ゆっくり歩きながらね」
気付けば森の中は薄暗く、険しくなっていた。
確かにこんな所で立ち止まっていたら、夜じゃなくても魔物が出てきて襲われてもおかしくない。
「でも、ミルネがあんなにハイペースで歩くと思わなかったよ」
「え? ハイペースで歩くって?」
「さっき……結構なペースで……歩いていたかと……」
「さっき? 今じゃなくて?」
「はい?」
またこれだ。俺はまた変なことを言ってしまったのか?
こういう時は魔法が絡むことが多いんだが、今回もそうなのか?
それとも、あのペースは普通だったりするのか……。
「マユリン、疲れてきたから速くするよ」
「言ってることおかしくねぇーか? おい!」
再びミルネの歩くスピードが速くなり、もうこれはもうジョギングと言った方がいいだろう。
もしかして、魔法使ってるいるんじゃないだろうな?
俺はとにかく走った。
ミルネについて行くのが精一杯だった。そして、確信した。
あいつ絶対魔法を使っている!
でも、それを聞いたらまたアホだと思われそうだから、ここはスルーしておこう。
しばらく走って、ようやく森を抜けるとそこは、畑が一面に広がっており、その先に街があるのが見えた。
恐らくあれがネスタリア市街地だろう。そうでなければ困る。
この辺りに来ると、人がちらほら見かけるようになった。
まぁ、ほとんど農家の人だと思うが。
それにしても、どんな農作物は知らないが、煮たり焼いたりして食べるという発想はないのかな? ここの農作物もあの『ジュレ』になるんだろうか?
俺とミルネは農道を進み、ネスタリア市街地に到着した。
「やっと着いたね。夕暮れまでにはなんとか間に合いそうだね」
「はぁはぁ、そ、そうだな」
「どうしたの? マユリン」
「いや、気にしないでくれ」
マラソンしたみたいに疲れた。この件が一段落したら、基本的な魔法の習得に力を入れよう。
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