第18話 聖なる大樹ホーリーの枝
いつものように肌寒い朝だが、一つだけいつもと違ったことがある。それはいつもなかなか起きないミルネが、俺よりも先に起きていたことだ。
「マユリン、おはよう……」
「あ、おはよう」
まだ本調子ではないみたいだが、昨日のような暗い感じだった時よりは少しましのような気がする。
あとは時間が解決してくれるかな……。
「昨日はありがとう……。マユリンがいなかったら……あたし……きっと」
「いいよ、気にしなくても」
「でも.....」
「お互い様だし、ミルネが困っているなら、いつでも俺が助けるよ。だから、俺が困った時は助けてくれ。特に魔法の分野で!」
「ふふふ、分かった」
俺が変な言い方をしたせいか、ミルネが少し笑った。やっぱりミルネは笑ってる方がいいや。
それにしても、最近普通に『俺』って言ってるな……俺。
今更『私』とかに変えても変だし、それにまた言ってしまいそうだから、もう『俺』でいいか。
俺とミルネは制服に着替えて食事を済ませると、掲示板がある校舎に向かった。
「ミルネは、どの授業を受ける予定なんだ?」
「今日は学科の授業かな……。実技は素材の剣が無いし……」
「そうか……分かった。出来るだけみんなと一緒にいろよ」
「うん、ありがとう」
ミルネの素材の剣は、ダンロッパに壊されたから授業を受けられないんだな。
何とかしてあげたい。
俺はミルネが教室に入ったのを見届けると、もう一回寮に戻り、鞄からナイフを取り出した。
よし、今日は授業をサボって、森の中から剣になりそうな素材を探そう。ナイフで削れば、ミルネが持っていた物よりかは、もっとましな物が出来るはずだ。
ミルネを残して校舎を出るのは心配だがダンロッパは重傷だし、それに他言無用みたいな事を言っていたから大事にはしたくないはずだ。
だから、人が多いところでは何も仕掛けてはこないだろう。
どうせダンロッパの事だから、自分がCランクの俺に重傷を負ったことを知られたくないはずだ。
それに怪我が完治したら、ダンロッパ自身で俺に仕返しをしたいんじゃないか?
本当にやばいのは、次戦う時だ。
もう身体強化の『MPCシステム』で不意を付けないから、昨日みたいに簡単には倒せないだろう。
しかも、ダンロッパは慎重な男だから、準備して挑んでくるはず。
俺自身も早く色んな魔法を習得しないと、今度は俺がチートみたいな魔法であっさりやられるかもしれない。でも、今日はミルネの剣の素材作りが先だ。
俺は学園を出て、森へと続く道を数百メートルぐらい歩くと、初めてこの世界に来た時のあの場所に着いた。
あの時は「こんな任務無理だろう!」と嘆いていたけど、案外なんとかなるもんだな。
この学園トップに喧嘩を売ってしまったということを除けば……ははは。
それにしても、森に来ればすぐに見つかると思ったが、案外無いものだな。
そして、探し続けて1時間程経過した時、森の奥深い場所に一カ所だけ半径30メートルぐらいの広さの所だけ、原生林のように神秘的な空気を醸し出している所があった。
何だここは?
しかも、その場所の周りには『危険! 立ち入り禁止』という注意書きが木に彫ってあった。
特に見た感じは、危険そうな感じは全くしないが、何が危険なんだろう。
まぁ、こういうややこしい場所にはわざわざ入る必要はないだろう。っと!! 思った俺だが、そういう時に限って、素材に良さそうな木の枝を見つけてしまった。
樹齢何百年? いや千年? というぐらい大きくて立派な大樹で、枝分けれしてる内の一本の枝が、剣のような形をしていて、あそこを切ればいい感じに剣になりそうだ。
切っていいのかな?
別に御神木というわけじゃないし、切ってもいいよな。
『危険!』というのが気になるが……足場が悪いとかじゃないよね? やっぱり魔物がいるとかな。
注意して行けばなんとかなるだろう。何せ俺は、Sランクの魔法使いに負けなかったんだから、魔物ぐらいなんとかなるさ。
俺はそのエリアの中に入った。
別に足場も悪くないし、魔物の気配も無さそうだし、何もないよな?
ガサッ
うん? 今、木の枝が不自然に動いたような気がしたが……風のせいか?
いや、風なんか吹いてないしな……気のせいか。
うん、あんまりここで長居はしたくないし、さっさと枝を切ってここを出よう。
俺は木に登り、ナイフのギザギザの部分で枝を切り、早々とここを出た。
結局何も起こらなかった。一体何が危険だったんだろう?
まぁ、無事平穏に済めばそれでいいさ。
この枝を削るのは、学園に戻ってやろう。もし、ダンロッパが仕掛けてきてもすぐに対応出来るしな。
俺は来た道を戻り、学園の中の木陰で木の枝を削ることにした。
確か、コーレス先生の授業で「素材は、魔法でデザインしたものに近いほどいい」みたいな事を言っていたから、なるべく剣に見えるように削らないと。
大きさはミルネが持っていたものと同じぐらいにして、ナイフで削った。
――どれぐらい時間が経ったのだろう……なんか夢中で削ってしまったが、それなりに剣というか木刀になった。
こういう作業は得意というわけではないが、まぁまぁの出来だと思う。少なくとも、ミルネが持っていたものよりは剣に見えるだろう。
そろそろ一回ミルネの様子を見に行った方がいいかな。
その時、誰かがこちらに向かって来る足音が聞こえたので、俺は振り返った。
「誰だ!?」
「いやー、なかなかいい素材ですね。これ」
「コーレス先生!?」
ダンロッパの件で、ちょっと敏感に反応してしまったが、まさかのコーレス先生だった。
コーレス先生は、興味津々で俺が削った剣の素材を見ていた。
「この資材はもしかして、聖なる大樹ホーリーの枝ですねー、これ。しかも強い魔力が宿ったままですねー、これ。これはなかなか凄いですよー、これ」
「そんなに凄いんですか?」
コーレス先生が「これこれ」言いながら説明してくれた。
要約すると、この聖なる大樹ホーリーの枝には強い魔力が宿っているため、とても価値がある。
これを素材にして、使用者が剣に『デザイン』して使っていくうちに、お互いの魔力が馴染んで、魔力の消費量を抑えたり出来る。
また、相性が良ければ、剣との絆が生まれる事もあり、使用者を助けることもあるらしい。
しかし、あの大樹は、魔物の大樹と言われており、その魔物を『ホリ』と呼んでいる。
ホリは、大樹の枝を採ろうとするなら、容赦なく木を操って攻撃をしてくるらしい。その攻撃力の高さはS級の魔物を凌駕するので、Sランクの魔法使いも手が出せないでいる。
仮に、強力な魔法使って枝を採っても、枝に宿る魔力が反発したり、もしくは消失したりするので、価値が無くなってしまう。
もちろん、加工も魔法を使うので、加工すればするほど、枝に宿る魔力が減ってしまうのだ。
だから、俺は魔力を一切使わずに入手して加工したので、強い魔力が残ったままだったから、コーレス先生は「凄いですね」と言ったということだ。
でも、そんなやつはいなかったよな……。
もしかして、魔力を使わないで採ったから、感知されず攻撃されなかったのかな? それに「聖なる」とか「ホーリー」とか言いながら、魔物ってなんか矛盾してるし。
もしかして、この世界でナイフみたいな金属の刃物って見たことがないから、魔法無しで切ったり出来なかったんじゃないか?
とりあえず、一回ミルネの様子を見に行ってみるか。
俺は校舎の中に入ろうとした時、鐘の音が一回だけ鳴り、ダンロッパの御出迎えの案内の時の放送みたいに声が聞こえた。
(Bランクのミルネさん、Cランクの真由さん、応接室に来てください)
なにー!?
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