第17話 Cランクの真由 VS Sランクのダンロッパ
俺は部屋の中に入いるとミルネは、予想外の出来事に驚きを隠せないようだった。
部屋にはダンロッパ、モリモン、ミルネの3人だけみたいだ。そして、最初にモリモンが俺に話かけてきた。
「誰だお前は!? 勝手に入るなんて無礼だぞ! しかも壊しやがって!」
俺はモリモンを睨めつけ、そのままダンロッパの方に歩いていった。そして、5メートル位近づいたところで、ダンロッパが話かけてきた。
「貴様はなんだ?」
「俺はCランクの真由だ」
「Cランクの真由だと? それでこれは何の真似だ?」
「それはこっちのセリフだ。お前、ミルネに何やってるんだよ!」
俺の身体強化のMPCで、瞬発的に足にパワーと剛性を集中させて、強力な脚力でダッシュして、接近出来る。でも、距離は3メートルが限界だ。
もう少し前に行きたかったが、ダンロッパに構えられたから一旦止まった。
「ふふふ、なるほどね」
「ん? 何がなるほどだ?」
ダンロッパは俺を下から上までじろじろ見始めた。本当に嫌な眼つきだ。
「ほーう、まだガキだが、なかなかの上玉ではないか」
「なんの話をしている?」
「君が私の女になるのなら、さっきの無礼は許してやろう。ミルネはモリモンの女になるがいいさ」
こいつ! 別にミルネのことが好きとかいうわけじゃなく、ただ可愛いからやりたいだけかよ! だけど、こいつの興味がミルネから俺に変わったことは好都合だ。
「誰がお前の女になるか! この変態魔法使いめ!」
「マユリン駄目! すぐ謝って!」
「貴様!! 無礼にも程があるぞ!」
「あー、ごめんごめん。偉大なる変態魔法使いだった」
「貴様……ここで死ぬか?」
これぐらい挑発しておけば、ミルネより俺に執着するはずだ。でも、ダンロッパはいきなり右手を伸ばし、手のひらを俺の方に向けた。
恐らく飛び道具の魔法を打つんだろう。しかし俺には飛び道具がない上に、ダンロッパまでの距離が約5メートルある。
しかも、魔法の実力差は明白で、ダンロッパに勝つのは皆無だ。もし、勝てる可能性があるとするなら、身体強化のMPCで意表を突いて、攻撃するしかない。
ただこの距離だと、2回ダッシュする必要があり、不意は突けないだろう。
だから、俺はダンロッパを睨めつけながら、ゆっくり歩いて距離を詰めた。どうせなら、1メートルぐらいまで行きたい。
「ん? 向かって来るのか。意外な行動を取るんだね」
「接近戦の方が得意だからな。もしかして、Cランクにびびってるのか?」
「生意気なガキだ。よーし、それなら来るがいい」
そう言うと、ダンロッパは構えを変えた。恐らく接近戦に対応する為だろう。
完全に舐めているみたいだが、俺にとって好都合だ。
「魔動拳!」
ダンロッパがそう声を出すと、両腕に魔力が溜まっているのか、拳から青いオーラが纏った。
俺みたいな魔法のド素人でも、魔力の強さが伝わってくる。
やはり実力は本物のようだが、俺も射程範囲に入った。
「貴様の人生最後に、私の『魔動拳』で葬ってやる。光栄に思うがいい」
「それはどうかな。MPCシステム! 両足に『パワー』と『剛性』を集中!」
俺は腰を落とし、踏み込む体勢を取った。
「なんだあの構えは? 魔力も無しで何をする気だ?」
「行くぞ!」
ドォォォォン!!
俺は身体強化のMPCを使った強力なダッシュにより、一気にダンロッパの目の前まで距離を詰めた。
その時の風圧がダンロッパを越え、部屋全体が一瞬揺れた。
「マ、マユリン!?」
「なにーー!! 貴様いつの間に!?」
「右腕と拳に集中!」
俺はダンロッパに接近すると、休む間もなく、MPCを使って、体中の力を右腕に集中させ、ダンロッパの腹部に強烈なパンチを浴びせた。
バーーーーン!!
「ぐはぁぁぁぁ」
ダンロッパは血を吹きながら、壁まで吹っ飛んでいった。
俺は、拳がダンロッパの血でべったりと付いていたのを見て、致命傷を与えたことを確信した。
やはり、魔法が主流のこの世界で、魔力が無い攻撃はかなり有効のようだ。
しかも、基礎体力が無いから身体も弱そうだし、ダンロッパも今のダメージでもう立ち上がることも出来ないだろう。
俺はダンロッパに勝つことが出来たが、ここにはもう1人のSランクがいる事を思い出さなければならない。
「おい! お前! よくもダンロッパさんを!!」
モリモンは魔法の高速移動で俺の方まで向かって来た。よし、自らこっちに近づいて来てくれたぞ。
俺は『MPCシステム』を使って、同じように集中しようと思ったら……。
「待て!! モリモン!」
「え? ダンロッパさん!?」
モリモンがダンロッパの制止の声に立ち止まると、ダンロッパは苦しそうに、ゆっくりと起き上がった。
「な、なぜ、止めるのです!?」
「それより、手を貸せ」
「あ、はい」
モリモンは慌てて、飛ばされたダンロッパの所に移動し、身体を支えた。
「ダンロッパさん! 大丈夫ですか!? 早く回復室に連れて行きますね」
「大丈夫だ。それより、真由! 今回の件は見逃してやる」
「え!?」
意外な言葉に俺は驚いた。
でも、このダンロッパという男はとても冷静で、賢明な判断をしているかもしれない。さっきも、あのままモリモンを制止しなければ、多分俺が勝っていただろう。
恐らく俺の攻撃が得体も知れないものだったから、見極める為に慎重にしているんだろう。
「お前達はもう寮に戻れ。いいか、余計なことを公言するなよ」
「ダンロッパさんいいんですか!?」
「モリモン、これ以上私に喋らせるな」
「わ、分かりました」
モリモンは疑問を持ちながらも、ダンロッパの指示に従った。
俺も見逃してくれるなら、悪い話ではないので同意した。俺はミルネがまた魔法剣士として活躍出来るなら、それでいいと思ったからな。
もちろん、このまま済むとは思っていないけど、矛先がミルネから俺に向いたはずだから、ミルネにこれ以上のことは無いはずだ。安心は出来ないけど。
この闇と戦うのは俺一人でいい。
そして、モリモンはダンロッパを魔法で持ち上げ、奥の部屋のプライベートルームに入って行った。
恐らくそこに、2人の会話の中で出てきた回復室があるのだろう。
俺は、茫然と立っているミルネの所に駆け寄った。まだ、表情は暗く、今にも泣き出しそうな感じだったから、ミルネの手を握った。
「帰ろうか」
「うん」
会話も無いままだけど、手はしっかりと握り、お互い肩を寄せ合って歩いた。俺は今のミルネは会話よりも、こうやって寄り添う方が良かったと思う。
部屋に戻ってもミルネの表情は暗いままでお互い話もせず、淡々と寝る用意をした。
そして、布団に入っていつものように抱いて寝るのだが、今回はちょっと違った。
いつもなら、お互い見つめ合った状態になるのだが、今回はミルネの視線は下を向いていた。ちょうど俺の胸辺りになる。
「ヒクッヒクッ」
安心したのか、ミルネは今にも泣きそうになっていた。
あんなことがあった後だし、当然だろう、ミルネはよく耐えたと思う。
だから俺はミルネの髪を優しく撫でながら……。
「ミルネはよく耐えた、頑張った。だからもういいんだよ」
と、声をかけた。
俺の一言で、ミルネはまるで小さな子どものようにわんわん泣いた。
不安、恐怖、悔しさ、傷ついた複数の入り混じったような感情は、涙で洗い流すのが一番いいだろう。そして、そう言った感情を経験した者は、これから先きっと強くなれるだろうし、人に優しくなれる。それは自分の器を大きくしていくんだと思う。
ミルネは周りに流されやすいかもしれないが、しっかりとした芯を持っている。
ダンロッパは魔法剣士の才能が無いと言っていたが、そうは思うわない。
自分に自信を持てば、きっとダンロッパに負けない強い魔法剣士になれるはずだ。
俺はミルネが泣き疲れて寝るまで、ミルネの髪をいつまでも撫で続けた。
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