第16話 闇認定!
もう辺りは真っ暗で、ほとんど人もいなかった。ミルネは女子寮を出て、校舎の中の廊下を歩いてる。
その様子からも、以前のような活気は全くない。これから向かう先にとても憂鬱な事でもあるのか?
ミルネは男子寮の入り口前まで来ると、周囲を警戒するように辺りを見渡して中へ入った。
俺はすぐに物陰に隠れて、様子を伺った。
なんであいつ男子寮に行くんだ!?
もう嫌な予感しかしない。
この男子寮も女子寮と構造が同じのようで、最初にS、Aランクの寮があった。恐らくもっと廊下を突き進めば、ボロいB、Cランクの寮があるはずだ。
ミルネは奥には行かず、階段を登ってSランクの部屋の方に向かっていた。下はAランクみたいだからな。
男子寮に入ってからのミルネは、周囲を気にしながら歩き、最上階の4階まで来たところで止まった。
この4階だけ、部屋に続くような廊下は無く、ドアが一つあるだけだった。つまり4階全部が1つの大きな部屋になっている。
Sランクの中でもこんな大きな部屋にいるやつと言えば、ダンロッパしかいないだろう。しかし、ミルネは、ドアのノックをして部屋に入って行った。
なんでこんな時間に、ミルネがあいつの部屋に行くんだ!?
何か嫌な予感がする……。
何とかして中の様子を見れないかな?
俺はドア付近を調べると、以外にもドアは完全に閉まってなく、少し力を入れるだけで開きそうだった。
よし、少しずつ動かして.....これぐらいの隙間なら大丈夫だろう。
ここで気を付けないといけない事がある。
『郷に入っては郷に従え』ということわざがあるように、この世界にも規律、習慣、価値観があり、Sランクは絶対的な存在である以上、勝手にこっちの価値観で早まった事だけはしてはいけない。
もし何かあった時、下手にこちらの尺度で判断して、ミルネを助けたつもりでも結果として、ミルネの魔法戦士としての将来を奪ってしまうかもしれない。
だから、踏み込むのは、本気でヤバい時だけにしよう。
俺は部屋の中を覗いてみた。
かなり大きな部屋で少し距離があるが、ミルネの後ろ姿が見える。
うつむいている様子でテーブルの横に立っていた。そして、そのテーブルの反対側に座るダンロッパとモリモンがいる。
「君はいつまで黙っているんだね?」
「……」
「君が待って欲しいって言ったから、戻るまで待ってやったんだぞ」
「……」
「簡単なことじゃないか。私の3人目の女になるだけの話だろう」
なんですとー!? ダンロッパのやつミルネにそんな事言っていたのか!? しかも3人目って。
これがミルネの憂鬱の原因だったのか。
「……ご、ご」
「うーん? 何か言ったか?」
「ご、ごめんなさい」
「はっはっは、やっぱり振られましたね、ダンロッパさん」
「ちっ、モリモンの言った通りになったか……」
そりゃあ、断るのは当然だ。しかし、このまま何事も無く済むかが問題だ。
「生意気な女だ」
ダンロッパは席を立ち、ミルネの所まで駆け寄った。そして……。
パシーン!!
ダンロッパはミルネの頬にビンタをした。
その時の音がはっきりと俺のところまで聞こえた。
あの野郎! 許さん! 俺の怒りのバロメーターは一気に上がったが、ミルネは、肩を震わせながら耐えているようだ。
「貴様勘違いするなよ! 私はSランクだぞ! 初めから貴様に拒否など出来ないんだぞ! 分かってるのか?」
「……」
「分かったかと聞いているんだ! ちゃんと返事しろよ! なぁ!」
ダンロッパはミルネの頭を掴み、ぐるぐると回しながら下の方に押し込んで、無理やり返事をさせようとした。
しかし、ミルネは涙は流しても、歯を食いしばり必死に耐えていた。
この世界では『Sランク』は絶対的な存在である以上、どんな理不尽な要求でも従うしかない。不服を申し立てたくても、それを受理してくれるような機関も救済措置も存在しない。
だから、ミルネのようにただ耐えるしかない。これがこの世界の『闇』だ。いや、この男だけの話かもしれないが。
「貴様は私の言う通りにやっていればいいのさ。よし、指令を出してやろうか。服を脱げ」
「えっ……」
ダンロッパの予想外の指令に、ミルネは思わず顔を上げた。
もちろん、俺の怒りのバロメーターは振り切りそうだ。
「裸になれと言ってるんだ! 早く脱げよ。Sランクの指示だぞ」
「そ、それだけは……」
「また逆らう気か?」
「……」
ダンロッパは一度ミルネから少し離れ、モリモンの方を見ながら呆れた感じで話し掛けた。
「カリバーがトップになってからこの有様だ。規律も甘くなったものだ。昔は、Sランクには様付されていたのに。モリモン、何でランク付けされているか分かるか?」
「やっぱり、実力が分かるようにですかね」
「違うな。効率良く支配する為だ。例え実力がAランクであっても、Sランクに逆らうのであれば、それはもうDランク以下でいい。いや、罰を与えねければいけない」
「なるほど……」
ダンロッパはモリモンにそう言うと、再びミルネに近づき、強引に服を引っ張った。
「だから、貴様の意志なんてどうでもいいんだよ! 私が命令したら黙って従え! これからはそういう時代になるのだ! 私の時代になるのだ!」
「きゃっ!」
バタっ
「なんだ? なんか落ちたぞ。なんだこの木の枝は?」
「け、剣の素材……です」
「はっはっは! 聞いたかモリモン。これが剣の素材だとよ!」
「本当にふざけてますね。こんなもので魔法剣士になれるわけがない」
ふざけているのはお前らだろ!! 逆に、そんな木の枝から剣にデザインして、Bランクの剣士としてやっている方が凄いと思うぞ。
「貴様の魔力なんてB級止まりだろう。才能なんて無いんだから、戦士なんか辞めてしまって私の女になる方が、未来は明るいぞ。なんならAランクにしてあげてもいいぞ」
「そ、そんなこと……」
顔はあまり見えないが、床に何か落ちたのが見えた。恐らく涙だろう。
ミルネは魔力のことを日頃から気にしていたから、ダンロッパみたいなクソ野郎でも、一応Sランクだけに才能が無いなんて言われれば、ショックは大きいだろう。
駄目だ、もう我慢できない。
さらに、ダンロッパはミルネの剣の素材を拾い、真っ二つの折った。
「モリモン、このゴミを処分しといてくれよ」
「はい、分かりました」
「これで分かっただろう。貴様は私に逆らえない。だから早く脱げ」
「……それだけは……許して下さい……」
「頭の悪い子だな」
ダンロッパは強引にミルネの制服のブレザーを脱がし、ブラウスに手をかけた。
「貴様は従うしか無いんだよ!」
「きゃ!!」
ドーーーーン!!
「何だ? 誰だ!?」
「あっ……マユ……リン!?」
俺は考えることもなく、気付けばドアを蹴り破っていた。
普通にドアは開けれるのだが、俺の怒りが頂点に達した為、感情的になってしまった。
いくらこの世界のルールがあったとしても、友達として許せない。
それに俺は日本で色んな『闇』を粛清してきた。だから、今回のダンロッパの件は完全に闇認定され、粛清されるべき対象になる。
そして、その闇を粛清するのが俺の仕事だ。だから、いきなりSランク最強を敵にまわして、最悪な結果になってしまっても後悔は無い。
むしろ、このまま何もせずにミルネを放っておく方が後悔するだろう。
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