第156話 家に帰るまでが任務
俺は山道の車道の端っこを歩いた。
しかし、暫く歩いていると、1台の車が俺に横づけするようにゆっくり走り、窓を開けると中年の男性が話しかけてきた。
「どうしたの? こんな所を歩いていたら危ないよ。送ってあげようか?」
親切心で言っていると信じたいが、なんか下心があるように思える。ここは断っておこう。
「すみません。結構です」
「遠慮するなよ。車で行く方が早いから」
「本当に大丈夫なので」
「そう言わず、乗れよ」
しつこい奴だ。ぶん殴りたいところだが、そんな事すると警察沙汰になるし、そもそも、警察と関わると真由だと面倒なことになる。
うーん、どうすれば。
「いいから、早く乗れよ!」
「いや、いいです」
なんか段々と口調が乱暴になってきたな。早く何とかしないと。
「ちょっと!! 何かあったのですか!?」
突然、後ろから追いついて来た車から、女性のしっかりとした口調で声を掛けて来た。
「やべぇ」
その声と同時に、中年の男は逃げるように車を走らせた。そして、その女性ドライバーは車を止め、俺の方に駆け寄って来た。
「大丈夫? 酷い事されなかった?」
「大丈夫です」
「声を掛けられたの?」
「はい、『送ってあげる』と」
「ちょっと気になるね。連絡しておこうかしら」
何処に連絡するんだよ!?
「ああ、私警察官なの。今日は非番だけどね」
「げっ」
「げ?」
「いや、何でもないです」
別に何も悪い事はしてないけど、あれこれ聞かれたら困る。よく考えたら真由って、身分証的なものが何にも無いぞ。いや、確か異世界に行く前に無垢郎が身分証を作ってたって言ってたな。名前は……南田真由だったか。
「私は田中恵美。名前は何て言うの?」
「南田真由です」
「真由ちゃんは……小学生?」
「高校生です!!」
うっ、なんか大人に見せようとしてギャル風にしてみたが、逆にガキっぽく見えるのは間違いないな。これなら制服の方がマシだったかも。
「はははー、ごめんなさいね。でも、えらく可愛い高校生ね。可愛いから逮捕しちゃおうか?」
「ははは……」
「ふふふー、冗談だからね」
うーん、笑えない。
本気でそういう事をするのが身近にいるからね。でも、このお姉さんだったら、手錠を掛けられて、あんな事やこーんな事もありだと思う。まぁ、俺も健全な男ですからね。
でも、これがミリちゃんだったら、何されるか分からん恐怖があるから怖いんだよね。それで手錠なんてされたら、堪ったもんじゃないからな。
ふぅー、何を想像しているんだ俺は。
「ところで真由ちゃんは、こんな所で何をしていたのかな?」
「友人の所に行っていたんですが、帰りのタクシー代が足りない事に気付いて歩いていたんです。なんとかこの時間の新幹線に乗るために」
俺は新幹線のチケットを見せた。
「そうだったの。ここから駅までは歩いたら、かなりギリギリね。私が送ってあげようか?」
「いいんですか?」
「こんな所に、こんな可愛い子置いてはいけないし」
「ありがとうございます」
まぁ、この展開を期待して答えてしまった気持ちもあるが、とりあえず良かった。男だったらこんな展開ないからね。美少女万歳!
――こうして、田中さんに車で駅まで送ってもらい、余裕で新幹線に乗る事が出来た。そして、車内でスマホを見ると、アルシアからメッセージが入っていた。
(お疲れ様です。今晩、ミリちゃんとあいみの家でお泊りする事になったけど、真由も来る? それとも、たまには自分の家で過ごしたいかな?)
おお、ミリちゃんはあいみの家に泊まるのか。という事は、久しぶりに自分の家でひとりライフを楽しめるわけだな。
俺はアルシアに返信して、後者を選んだ。
――そして、俺は家に帰ると、もう21時ぐらいになっていた。
やっぱり、家が一番だね。久しぶりだからテンション上がる。
まずは飯にしたが、金が無かったのでコンビニの唐揚げ弁当になってしまった。
でも、この数か月ゼリーしか食ってなかった俺にとっては、これでも十分だ。
なんか一人暮らしなら当たり前だったが、今はなんか嬉しい。
「よっしゃー! 食べるぞ! まずはこの唐揚げだー! うん! うまーい!!」
コンビニの唐揚げがこんなに上手いと思ったことは無かった。やっぱり、異世界に行ってから、こっちの生活は恵まれていると実感出来る。
明日は奮発して美味しいお店に行ってみようかな?
俺は自分の姿がお人形さんのような美少女という事を忘れて、無我夢中で食べた。
しかし! まだ半分ぐらい残したところで、自分が小っちゃい女の子であることを思い出すことになった。
うーん、もう腹が一杯になってしまった。男の時はこれぐらい楽勝なのに……。
「うっぷっ」
残すのはなんか嫌だが、しょうがない。
「ふぅー」
よし、飯も食ったし風呂にでも入るか。いつもならシャワーで済ますことが多いが、今日は特別だ。
なぜなら、今日なら風呂に入っても、美少女に襲われることも無いし、着替えが水着にすり替えられていることも無い。つまり、安心して入れるわけだ。
そして、湯が溜まると俺は脱衣所で服を脱いだ。
この脱いでいる瞬間がエロいんだよな。
今ならゆっくりと観賞出来る。でも、鑑賞するだけでいいのか? いやいや、何を考えているのだ俺は……。と、とりあえず風呂に入ろう。
うーん、今思ったらシャンプーとか男物しか持ってないなぁ。流石に昨日の買い物の時、そこまで気が回らなかった。それに身体を洗うのに、いつものスポンジだと、真由のこの綺麗な肌が傷が付きそうだ。
実際は泡で汚れを落とすみたいだから手で洗うか。でも、手で洗うのもちょっと、何だが……あれだけど……。
さてと、髪も身体も洗ったし、湯に浸かるかぁ。
「ふぅー、気持ちいいなぁ。安心して湯に浸かれるのはいいねー」
久しぶりに自分の家で落ち着けると、なんか真由であることを忘れて、浩二に戻ったような気持ちになってくる。
「うーん、この身体でアレをしたら……いやいや、うーん、何を考えているんだ」
でも、真由の身体は誰かと入れ替わっているわけでもなく、俺の身体なわけで後ろめたいことは何もないはず。別に誰かに迷惑が掛かるわけでもない。
「ちょっとぐらいいいよね? よし」
何だが今晩は、変な気持ちになってしまったぞ。
俺は風呂から上がり、脱衣所で身体を乾かし鏡に映る姿を見た。
「もう誰にも邪魔されることはない! ちょっとぐらい、しっしっしー」
しかし!!
ピンポーン!
「げっ! 誰だよ!!」
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