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第155話 剣術、邪威流

 目の前に現れたのは、着物を着た小柄の老婆だった。小柄と言っても真由よりは大きい。



「なんジャーイ!! このおなごは!? ここは子供の来るところではないわい!! 帰りな!」



 完全に子ども扱いされている。ミルネはポンタを抱いているから、余計にそう見えたかもしれない。

 俺は一応、ギャル風にして大人っぽくしているから大丈夫なはずだ。多分……。



「いや、あの、私達は組織から来た杉田とミルネです」

「ジャイ? 和田の紹介のおなごらじゃあと? ジャーイ! どう見てもガキじゃろー! 特にお主、小学生じゃろ?」


「違います! 一応高校生です」



 老婆は俺を指さして、小学生呼ばわりしてきやがった。真由の設定は高校生のはずなんだが、無垢郎の趣味なのか、実際はもっと下にしているんだろう。それにしても、小学生は酷い。



「私は付き添いで、剣術を習いに来たのはミルネです」

「あ、あのミルネと言います。よろしくお願いします」

「ふーん、そうかい。お主は病み上がりだと聞いておるが、じゃあーーーい!! 手加減するつもりはないジャイ!!」


「え?」



 多分、和田さんがこちらの事情を察して、そういう設定にしてくれたんだろう。基礎体力が違うからな。でも、手加減しないって、この婆さんは鬼か!



「それでいいじゃろー!? 小娘!」

「あ、はい、お願いします!」



 なんか厳しい修業になりそうだけど、大丈夫かな?



「それから、そこの小娘!!」

「え?」



 老婆は俺の方に近寄り、いきなり髪を触ってきた。



「え? 何だよ!?」

「お主を見ていると、わしの幼い頃に似ておるのー」

「嘘つけ!」



 ちょっと失礼だったかもしれないけど、ツッコミたくなる。



「わしの名前は笠田洋かさむたようジャイ。ここで話すのもなんジャイ。中に入れ」

「お、お邪魔します」


 

 老婆に中を案内され、廊下を歩いて付いて行った。建物全体が和式で、部屋も幾つかあり廊下も距離があった。結構、広そうだ。


 そして、客間に案内されるとそこは和室だが、なんか凄そうな掛軸があったり、名刀なのか刀が飾ってあった。



「ミルネ、ここは正座だから、俺の座り方を真似するといいよ」

「正座? マユリンと同じ座り方だね」

「なんジャーーイ! 正座も知らんじゃあとー!!」

「ミルネは日本人じゃないので、日本の慣習とかあまり知らないもんで……」

「色々と教える事が多そうジャイ」



 これでカルチャーギャップが、少しでもマシになってくれたらいいが。



「2週間しかないようじゃがら、朝から晩まで邪威流剣術じゃいりゅうけんじゅつを叩き込むから、覚悟するんじゃぞ」

「はい!!」



 この婆さん手加減とかしなさそうだから、大丈夫かな?



「マユリン、あたし頑張るよ!」

「おお! 頑張れ!! 何かあったら連絡しろよ」


「駄目ジャイ! ジャイ! ジャーーイ!! 外部との連絡は一切禁止ジャイ!! どうしてもしたいなら、その時は修業も打ち切りジャーーイ!!」


「おいおい、ミルネはまだ日本にも慣れてないんだ。流石にそれは――」

「大丈夫だよ、マユリン。あたしやるよ! 強くなる為なら最後までやるよ!」

「ミルネ……」



 ミルネはもう覚悟は出来ているようだな。でも、二週間もここにいるのは寂しいだろうから、ポンタが居てくれて本当に良かった。

 でも、ポンタには人前ではヌイグルミでいるようにしているから、実際お話が出来るのは寝る前とかになるかもしれないが。


 いや、こういう所だったら、共同生活になるからそれも無理かもしれないな。ていうか、あんまり人がいるような感じはないけど、他にも誰かいるのか?



「笠田さん、他にも誰かいるんですか?」

「わし、一人ジャイ。わしはもう引退して、ここで隠居しておったのに、和田がうるさいから特別に引き受けただけじゃからのー」


「そうだったんですね。引き受けてくれて、ありがとうございます」



 和田さんにも感謝しないとな。かなり無理をさせてしまったかもしれない。



「早速じゃが、始めるジャイ。時間が足りんからのー」

「え、もうですか!?」



 笠田さんも本気みたいだ。



「マユリン、あそこにある剣を使うのかな? マユリンの世界の剣はかっこいいね」

「ジャーーイ!! あれは名刀、邪威帝龍じゃいていりゅう! お主が使える代物ではないわい!!」

「ご、ごめんなさい」

「お主はまず刀を振る前に、基礎体力からジャイ!! わしは準備に入るジャイ。お主も準備をするんジャイ!」


「じゃあ、俺はそろそろおいとましようかな」



 笠田さんは、ゆっくりと立ち上がり、部屋を出ようと襖を開けて、手を止めた。



「帰るなら、熊に気を付けるじゃぞ」

「はい、ありがとうございました。ミルネをよろしくお願いします」

「ジャイ」



 笠田さんは、そう言うと襖を閉め廊下を歩いて行った。

 熊なんて、ミノタウロスとかに比べれば子犬みたいなものだろう。



「マユリン、ありがとう。あたし最後まで頑張るよ」


「なんかマンツーマンになりそうだな。でも、無理はするなよ。ミルネはこの世界に来たばかりなんだから。もし、この世界で分からない事があったら、ポンタに相談するといいよ」



「うん、頼りにしている」

「はい、吾輩にお任せください」   


「迎えには行くつもりだけど、一応帰りの新幹線のチケットとお金を渡しておくよ。予約日は向こうの世界に出発する前日の13時だから。でも、限界だったら、このお金を使って帰って来てもいいからな」

 


 連絡が取れなくなりそうだから、ミルネにとって保険は必要だろう。帰り方はポンタなら分かるし。



「ありがとう、マユリン。最後にお願い!」

「うわーーー!!」



 突然、ミルネは俺を抱きしめた。



「今のうちにマユリンパワーを貰うよ」

「何だよマユリンパワーって?」



 こうして、俺はミルネと別れ、熊が出るかもしれない山道を通って、タクシーで降りた所までやって来た。もう夕方になっていたが、夏だからまだ明るい。


 さてと、俺も東京に帰るか……。


 あっ!?


 しまった! ミルネにお金を渡したから、タクシー代は厳しいぞ。歩いて駅まで行ってもいいが、あまり遅くなると、補導されるかもしれないからな。そうなると面倒くさい。


 街に出るまでは、車道だけど山道を歩かないといけない。こんな所、真由みたいな美少女が歩いていたら、違和感あるかな? 何もトラブルが無ければいいが。

お読み頂き、ありがとうございます。


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