第153話 ミルネの旅立ち
風呂なのにこんなに疲れるとは……。
流石のあいみもミルネとミリちゃんには、ちょっと引いていたなぁ。あの2人は無自覚でやり過ぎなんだよ。
そして、ようやく解放された俺は、半袖と短パンでソファーで寛いだ。2人は今、テレビに夢中になっているからゆっくり出来る。
暫くすると、片づけを終えたあいみが、俺の方にやって来た。
「お布団、どうする? アルシアは、任務が終わっても組織で泊まるみたいだから、使っても大丈夫って言ってたけど、布団1枚じゃあ足りないよね?」
「ああ、1枚で大丈夫。逆にそれ以上あったら燃やされるので」
「え!?」
「いや、気にしなくていい。とりあえず、それで大丈夫だから」
「よく分からないけど、布団敷いておくね」
「すまん、ありがとう」
あいみは俺の言った事を、当然ながら理解していない。でも、これは実際に起こった話だからな。
「真由ちゃんが寝るならミリも寝る」
「あたしも寝る! 今日は疲れたよ」
「いや、まだ寝ないけど、あっ!!」
あいみが布団を敷いた瞬間、ミリちゃんは俺が寝ると思って、いつものように強引に俺を布団の中に押し込んだ。
そして、俺を真ん中にして、両サイド側から、ミリちゃんとミルネが抱き着くように入った。
「そんなにくっついたら、暑いだろ!」
「だって、明日からマユリンと離れるんだよ。今のうちにギュッとしておかないと死んじゃうよ」
「お前の身体は、どんな仕組みやねーん!」
「ミリも今のうちにギュッとする」
「ミリちゃんはいつでも出来るだろ!」
確かにギュッとしないと、布団に収まらないかもしれないが、これで寝るのは少しきつい。
「3人とも仲が良くて、いいよね」
あいみが微笑ましく俺達のことを見ている。もうこの2人のテンションについていけないんだろう。
まぁ、その方が助かるが。
ふぅー。
でも、ミルネもミリちゃんも、今日は大人しく寝てくれそうだ。もうすでに、寝落ちしそうな感じだ。これだけの慣れない環境だったらから、相当疲れたに違いない。
俺は慣れている環境だったのに疲れたが……。
明日はミルネの剣術の修行の為、新幹線で京都に行くわけだが、恐らくミリちゃんの新幹線に乗る許可は出ないだろうな。
もし、無自覚で変な魔法でも使われたら、大惨事になる可能性があるから、ミリちゃんの場合は、もう少しここで大人しく過ごして、信頼を得ないと駄目だろう。
しかし、それでミリちゃんは納得してくれないだろう。このままだと、一緒について来るだろうから、明日は無垢郎とカリバーに協力してもらうしかない。
そして、明日の事を考えていたら、いつの間にか寝てしまった。
気付いた時にはもう朝になっていた。それだけ疲れていたんだろう。いや、異世界に行ってから……じゃない、真由になってからいつも疲れているなぁ。
さてと、朝と言えばやらないといけないミッションがある。失敗すると理不尽に拘束され、ミリちゃんが起きるまで動けない。
ここから脱出するには、まず絡まっているミルネをどかす……ん? あれ? ミルネがいない。ミルネが居なければ、脱出は簡単だ。
俺はゆっくりと布団から出て、周りを見ると……ベランダに出ているのか?
何やら一人で、景色を眺めながら考え事をしているように見える。自分から早起きするだけでも凄い事なのに、やっぱり、今日から離れて剣術を習いに行く事に、不安を感じているのかな?
ちょっと、行ってみるか?
「おはよう。自分から早起きするなんて驚いたよ」
「マユリン、おはよう。あたしだって起きる時は起きるさ」
「今がその時だったんだー」
「違うよ。今日の事を考えてたら、勝手に目が覚めたよ」
「そうか」
やっぱり、気にしていたんだ。でも、まぁ、普通はそうなるのが当たり前だと思う。
「なんか剣術を教わるのが楽しみだよ。早くあたしも強くなりたい」
「おお! 前向きだな。てっきり不安なのかと思ったぞ」
「それもあるよ。でも、アル姉が見せてくれたように、自分もそうなりたい気持ちの方が大きいよ」
アルシアのあの登場は俺も驚いたけど、あれがミルネに勇気を与えていたんだな。
「じゃあ、ミルネも強くなって、ミルネの事を馬鹿にしたダンロッパをギャフンと言わせてやれ」
「出来るかな……でも、マユリンの方がそうしたくないの?」
「俺は、ミルネがギャフンと言わせた光景を見て、ニヤニヤしているから」
「はははー、何それー」
そうなると、俺も頑張らないと。アルシアに魔法の特訓をしてもらって、ある程度マスターしておかないと場当たり的な戦いになるから、しょうもない事で敗北を喫するかもしれない。
「マユリンもアル姉と特訓するんだよね? お互い頑張ろうね」
「ああ」
アルシアと特訓するにあたって、看過できない懸案事項がある事を思い出さないといけない。
「アルシアと特訓すると、ミリちゃんが1人になってしまうんだよね。しかも、遊びに行きたいと言ってるし。ちゃんと特訓出来るかな? ははは……」
「確かにそれは大事な問題だね。よし、あたしから言っておいてあげるよ」
「えっ!? 本当! それはありがたいけど」
アルシアならともかく、今のミルネなら、ミリちゃんに言う事を聞いて貰えるのかな? ラビットちゃんの中で言う事聞いてくれないのって、俺だけなのかな? 隊長なのに……。
けど、仮に上手くいっても、1人には出来ないから、誰かに面倒を見てもらう必要があるだろう。
やっぱり、無垢郎とカリバー辺りに頼んでみるか。無垢郎なら喜び過ぎてやってくれるだろうけど、カリバーがどうかな? カリバーがいないとミリちゃんを任せられないからな。
その辺も込みで無垢郎に頼もう。あいつなら、絶対何とかするに違いない。
「そろそろ部屋に戻ろうか?」
「うん」
俺がベランダのガラス扉を開けようとした瞬間!!
「うわーーー!! 凄い勢いで開いた!!」
「きゃっ!」
驚いたけど、何が起きたかはもう経験で分かる。そう、ミリちゃんだ。
「ミリちゃん、扉はゆっくり開けようね。結構、隣の部屋にも響くからね」
「真由ちゃん、ミリから離れたら駄目」
なんか不機嫌そうだな。恐らく、起きたら俺もミルネもいなかったからかな?
――こうして、あいみの家で朝食を取った後、迎えの車で組織に向かって、ミルネの京都への準備を無垢朗の部屋でした。
部屋には無垢郎とカリバーがいた。
無垢郎は仕事の準備をしていたけど、カリバーはさっきまでゲームをしてたという感じだった。昨日の晩は任務で呼び出されたから、あんまり寝てないんじゃあ?
本当に廃人になってしまうんじゃないか?
今日はカリバーにミリちゃんの面倒を見てもらわなきといけないから、しっかりしてくれないと困る。まだ頼んでないけどね。
でも、新幹線の乗車許可は、やっぱり、ミリちゃんだけは出なかった。何を仕出かすか分からない部分があるから、仕方ないんだけど、果たしてミリちゃんは納得してくれるのかが問題だ。
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