第146話 疲れるお出かけ
俺が部屋に入ると否や、ミルネが駆け寄って来た。どうやら俺がいない間に、外出する流れになっていたみたいだ。
「いやー、ちょっとこれからオリンさんの様子を見に行こうかなぁっと」
「駄目、ミリとお出かけするの」
2人の目がギラギラしているな。もしかして、あいみやアルシアからここの話を聞かされたのかな?
「オリンさんは、私とポンタで行くから、真由達はお出かけしてきたらいいわ」
「あいみは、まだ仕事があるから、戻るね」
「マユリン、行こうよ」
どうせこうなると思っていたけど、いいのかな?
ミリちゃんを東京に解き放って大丈夫かな? 理不尽に街の中で空間魔法なんて使われたら、大惨事になるぞ。そもそも外出許可がいるんじゃないのか?
「でも、2人の外出許可いるんじゃないのかな? 許可が下りるまで今日はゆっくり――」
「大丈夫! 僕が取っておくから心配しなくていいよ」
無垢郎め、余計な事を……。
「わーい! 無垢郎ありがとう! マユリン、これでお出かけ出来るね」
「うぅ、分かったよ。でも、2人とも前にも言ったが、緊急時以外は魔法の使用は禁止だからな。この約束が守れないなら、お出かけしないからね」
「分かったよ」
「……」
ミルネは同意してくれそうだが、ミリちゃんはなんか不満気だな。魔法の世界の住人に魔法禁止は、ちょっと酷かもしれないな。
特にミリちゃんはSランクだし、もう少し配慮した方がいいか?
「ミリちゃん、魔法が使えないのは大変かな?」
「真由ちゃんが捕まえられない」
「捕まえなくていいです!」
本当、ミリちゃんはブレないなぁ。
こうして、俺とミルネとミリちゃんで、お出かけすることになった。
しかし、ミリちゃんの予想外の行動もあるので、騒ぎになった時に対処してもらえるように、組織の人間から何人かが、2人に見つからないように護衛してもらえるそうだ。
一応、魔法禁止というルールは守ってもらえるみたいだから、大丈夫だと思うが安心出来ない。
俺は今回のお出かけで、前に約束していた美味しいものをご馳走してあげることと、服も買ってあげようと思う。
多分、あの2人はここの服を欲しがりそうだからな。それに俺も、真由の服を買いたい。そして、今着ているアルルンの服をクリーンして返さないといけないし。
いや、ミリちゃんの件で怖い思いをさせてしまったから、お詫びに可愛い服をプレゼントもした方がいいかもな。
そして、俺達は組織の人間から視線を感じながら、目新しさにはしゃぐ2人を引っ張るようにして、外に出た。
「なんだ!? 真夏か!?」
中に居る時は分からなかったが、今はもう夏のようだ。しかし、この2人は暑さよりも、都会の街並みに驚いていた。
「マユリン、凄いよ! 誰がデザインしたの!?」
「ミリには真似出来ない」
「この世界には魔法は存在しないから、デザイン魔法とか無いからね」
「うそー!」
ミルネはカルチャーショックを受けているようだが、ミリちゃんはそんなに驚いていないみたいだ。
「ここの世界は人も多し、道も複雑だから迷子にならないようにね。あと、これからは、大きな声で魔法とか魔力とか言わないように」
「何で?」
「うん、馬鹿だと思われるから」
「あたしは別に気にしないよ」
「俺がするっちゅうねん!」
異世界に居るよりも、ここの方がなんか色々と気にしてしまうんだよな。
あとこの格好も何とかしたい。通り過ぎる人は、みんな見ていくからな。まずは服を買って、あまり目立たないようにしよう。
「マユリン! あれ何!? 魔力を感じないのに何で動いているの!? しかも一杯いるよ」
「あれは自動車という乗り物だ。燃料を燃やして動かしているんだよ。もちろん魔力なんて使わない」
「乗れるの!? あたし乗りたい!」
「真由ちゃんに乗りたい」
確かにこのまま歩いて行くのは、何かと面倒だし、歩き慣れていないこの2人ならすぐにバテるだろう。だから、車で行く方がいいかもしれないな。タクシー使うか。
「いいよ。科学の力というものを見せてやるよ」
「やったー」
「真由ちゃんの全てを見たい」
俺はタクシーが通るのを待って、呼び止めた。ここは結構頻繁に通るので、止めるのに時間はそんなに掛からないが、東京での真由は、なんか恥ずかしいから長く感じる。
「今からこれに乗るけど、大人しくするんだぞ」
「分かってるよ、マユリン」
絶対分かってないような気がする。
俺は真ん中に座り、ミルネとミリちゃんを窓側に座らせた。とりあえず行先は服が売ってそうな繁華街にした。
「マユリン! 凄いよ! フカフカだよ!」
「ああ、フカフカだな」
「おおー!! 動いたよ! なんか身体に力が掛かったよ! 何これ!! 魔法!?」
「それは加速の時に発生するGで――」
「マユリン、速いよ!」
駄目だ。完全に舞い上がっている。ミリちゃんは今のところ大人しいが。
「マユリン! この人が動かしているの!? 全く魔力を感じないよ!」
「だから魔法じゃないって!」
「じゃあ、この人の力で動かしているの!?」
「違がーう! この方はただ運転しているだけで、誰でもハンドル握ればって」
いかん、こんな言い方したら、運転手さんに失礼だ。
「そう、安全に扱うのが大変で、この運転手さんは、プロだから人の命を預かって運転出来るんだよ」
「真由ちゃん、あれ欲しい」
「いや、それは要らんだろ! あ、それ呼ばわりしてすみません」
突然、ミリちゃんが運転手さんに指をさして欲しがったから、つい否定してしまったが、流石に「それ」は失礼だぞ。
しかし、ミラー越しに見える運転手さんの表情は、とてもニコニコしていた。もう完全に子ども扱いなんだろうな……。
結局、車で行っても、恥ずかしい目に遭うことになってしまった。俺は料金を支払い車外に出た。
「マユリン、人が一杯いるね」
「ああ、迷子になるなよ」
「でも、ミリちゃんいないよ」
「ああ、いないな……っておい!」
いきなりかよ!
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