第144話 ダンロッパの陰謀と魔王フィルリアルの陰謀
一方、真由達が東京にいる頃、ダンロッパに会いに来た男がいた。
その男は、ネスタリア学園内のダンロッパの部屋まで、テレポートで移動し、部下と思われる男2人に支えられながら、椅子に腰かけた。
そう、この男は真由に強烈なパンチを腹部に受け、重傷を負ったデス魔法を使うガムイだ。
今この部屋には、ダンロッパとモリモンと、その討伐隊のサポータが何人かが執事のような振る舞いでいた。
「まだ怪我は、治っていないようだな」
「ああ、どうやったか知らんが、あの女、魔力無しで強烈なパンチを喰らわせやがったからな。今度会った時は確実に殺してやる! でも、今はこの怪我の完治が優先だ。ここに俺の所よりいい回復室があるんだろう? 後で使わせもらうぞ」
「構わない。好きに使うといい」
「助かる。ところで、こんな手負いの俺をわざわざ呼び出したのは何だ? 何かあっただろ?」
「少し厄介な事になってなー。モリモン、報告してやれ」
「はい」
モリモンは席を立ち、魔法の『ビジョン』による映像を映写機のように映し出した。その映像は、先日にベルリア学園と衝突した時のもので、メルリの猛攻で真由や、ストレングスが苦戦を強いられている様子が流れていた。
「このビジョンは、討伐隊『シルバークラウン』の偵察によるものです」
「おお!! 上手く行ったじゃないか!! ベルリアの奴、激り爆発じゃないか! 完全にオリン暗殺の共犯だと思われているな! 協力を求めて遥々来たのにこの仕打ちは笑えるよな!! はっはっはー!! 痛ててて」
ガムイは大声で笑ったが、この先の出来事を知っているダンロッパとモリモンは笑えなかった。
「え? なんだよ!? 2人とも暗い顔をして」
「実はな……いや、自分で見てくれ。モリモン、例のシーンを」
「分かりました」
すると、映像はアルシアが派手に『爆炎龍紅桜』を放って、登場するシーンに切り替わった。
「そんなバカなー!! なんで生きているんだ!? 俺が確実に重傷を負わせた上でデス魔法を掛けたのに何故だ!? それに魔力も復活している!! しかもあの技は大魔法使いカリバーのものじゃないのか!?」
映像はここで終了したが、ガムイの驚きは収まらないままだった。それでも、モリモンの説明は続く。
「映像はここまでですが、この後の監視活動の結果、戦闘は停戦になり対話によって解決が図られました。そして、真由が望んでいた我々を打倒する目的と、ベルリア側の魔王軍討伐、2つの目的とした同盟が結ばれたようです」
「まぁ、それで少々不味い事になったから、ガムイ、お前を呼び出したわけだ。今後についての作戦をだな――」
突然、ガムイが席を立ち激しい口調でダンロッパに詰め寄った。
「そんな事はどうでもいい!! 俺はアルシアがどうやって復活したのか!? 拷問にかけてでも聞き出してやる!! それと真由をぶっ殺せたらそれでいい!! 後の作戦はお前の好きにやれ!!」
「ま、まぁ、落ち着きたまえ。あの2人の処分はお前に任せる。好きにすればいい。その代り、『専属魔法団』を召集して、我々に協力して欲しい」
ダンロッパの話を聞いたガムイは、落ち着きを取り戻したのかゆっくりと座った。
「ああ、いいぜ。あの2人さえ俺の自由にしていいならな。でも、ダンロッパ、分かってるだろうな? あいつらと協力する意味を。もう学園トップとか言ってられなくなるぜ」
「無論、分かっている。この学園は捨てる事にする」
「ちょっと待って下さい!! それは真由やベルリア学園に譲るという事ですか!?」
モリモンはとても慌てた様子だったが、ダンロッパは冷静にゆっくりと席を立ち、窓の方に歩きながら再び口を開いた。
「心配するな。私だって失敗した時の為に、次の作戦は考えてある。ただ、アルシアの登場は想定外だったがな」
「はい……でも」
ダンロッパは窓際に来ると、景色を眺めた。
「学園を捨てるのは、単に専属魔法団と組むだけではない。魔王軍との戦いに巻き込まれたくないからね。ふふふー」
「おい! それってよー、まさか!?」
ガムイは慌てた様子でダンロッパの方を振り向き、モリモンは息を呑んだ。そして、ダンロッパも2人の方を振り向いた。
「そうさ、賭けの要素が強くなるが、上手く行けば私がこの世界のトップになれるかもしれないぞ。ふはっはっはー」
ダンロッパは、再び窓を眺めて高笑いをした。
―――そして、時期はさらに先になり、魔王軍の城では。
ここは魔王城の中心、玉座の間で幹部全員が呼集された。
集まった幹部は、元魔王で最高幹部のザイロン、その右腕エレクドリア、魔王軍最強の魔法剣士ガウロ、炎を自在に操る魔獣イフリート、そして、生命を与えるアニマが使え、さらにミリの姉、マリだった。
そして、魔王フィルリアルが黒い煙『黒魔パーティクル』と伴に現れると、幹部達がひれ伏せた。
「顔を上げて下さい。ザイロン、報告して下さい」
フィルリアルの一言で顔を上げ、ザイロンは立ち上がり一礼をした。
「はい、まず長年の計画だったオーガ5000体が完成したんじゃが、ミリを誘惑させるのは失敗した。しかしじゃ、面白い事が分かったんじゃ。ミリが討伐隊の隊長だと考えられておったんじゃが、実は真由というミリ好みの美少女だったんじゃ。だから、急遽、真由に成りすます作戦に実行したんじゃが、その後のラクセルの報告により、真由が我々に協力的な存在に成り得るとのことじゃ。しかし、厄介な事にベルリアと真由達が合流したらしく、我々に侵攻してくる恐れがあるんじゃ」
「分かりました。真由が服従の意志を示したのなら、私の所に連れて来なさい。抵抗する場合は殺しても構いません。それから、今後のミリの対応はマリにやってもらいます」
するとマリは、顔にかかった銀髪の綺麗な髪を分け、答えようとしたが、他の幹部はマリに任されたのが意外だったのか、少しざわめいた。
「はい、お任せ下さい」
「ザイロン、もう一つ指示があります。オーガ5000体を――」
――こうして、魔王と幹部の会議が終了し、魔王フィルリアルは、言葉通り黒い霧渦巻きながら消えた。
幹部達は、魔王フィルリアルが完全に居なくなるまで頭を下げていた。そして、皆が顔を上げるとザイロンが口を開いた。
「魔王フィルリアル様は、大胆な事を考えるもんじゃ。こりゃあ、忙しくなるぞ」
「ザイロン様! マリがミリの対応に当たるという事は、イフリートと2人で作戦を実行しろという事ですか!」
そう異議を唱えたのは、ドラキュラみたいな風貌の魔法剣士ガウロだった。
「そうなるじゃろ。魔王フィルリアル様の命令は絶対じゃからのう。ミリの誘惑作戦が失敗したんじゃから仕方ない」
「……確かに」
「時にマリ、いくらミリの姉じゃからとて、ミリに勝てるのか?」
すると、マリは自信があるのか、意気揚々と話しかけた。
「まぁ、あの子が本気出したら、私達なんて簡単に滅ぼされるだろうね」
マリの一言に、空気が死んでしまった。誰一人として反論出来ず、ミリを恐れているようだった。
「でも、私はあの子の弱点を知っている。きっと、真由という少女も気づいているんじゃないかしら」
「ミリの弱点じゃと!! なんで今まで言わんかったんじゃあ!?」
マリはそっぽ向きながら髪を触った。
「うーん、私にも分からないんだよね。フィルリアル様に名前を呼ばれた時に、急に思い出したと言うかねぇ……」
「うーん、それはもしや……いや、わしの考え過ぎか。魔王フィルリアル様は完璧なお方だ」
暫く会話は途絶えたが、それもすぐに沈黙は破られた。
突然、エレクドリアがおでこから生えている立派な一本角から、バチバチと音を立て、放電していた。
「もういいだろう! 俺は会議が嫌いなんだ! もう行くぜ!! 人間なんか全員ブッ飛ばせばいいんだろ!」
そう言いながらエレクドリアは部屋から出ようとした。
「おい待つんじゃ!! 魔王フィルリアル様は『支配の魔王』じゃ! 服従する者まで手を出すんじゃないぞ!」
「分かってるぜ!! フィルリアル様もあんたと同じ『破滅の魔王』だったら良かったのによ」
「こら! ばっ……ふーう、行きよったか……。破滅の魔王か……懐かしいのう。わしも行くか。忙しくなりそうじゃ」
――そして、ここは魔王フィルリアルの部屋、幹部との会議を終えた後。
フィルリアルは、黒魔パーティクルの煙ともに部屋に戻って来ると、黒魔パーティクルは児玉結菜の身体から離れ、部屋の天井をゆっくりと円を描くように対流した。
「ゴホッゴホッ」
しかし、児玉結菜に戻った瞬間に膝をつき、苦しそうに咳き込み、周辺に血反吐を飛び散らせた。そして、そのまま倒れた。
「真由お姉ちゃん……」
――こうして、真由達が東京に滞在している間、ダンロッパ、魔王軍では、不穏な動きを見せ始めていた。
お読み頂き、ありがとうございます。
気に入って頂ければ、ブックマークや↓の☆をクリックしてくれますと、モチベーションが上がります!