第137話 近況報告
アルシアがいなくなった事に気付いた俺は、とりあえずミリちゃんをミルネの隣に置いた。
ふっふっふ、このままミルネが抱き付ついたら、ミリちゃんが「ぐぇ」っとなるのが楽しみだ。
そして、俺はゆっくりと寝袋から脱出すると、周囲を警戒していたポンタに会った。
まぁ、ポンタがいるからアルシアの事はあまり心配はしていなかったんだけど。
「アルシアはどこに行ったか、知っているか?」
「アルシアなら『風に当たりたい』と言って、あの木の下にいますよ」
「そうか……ん? いつの間に呼び捨てする仲になった!?」
「はい、様付けは嫌みたいです」
「はは、あいつらしいや」
こうしてアルシアが元気になって帰ってきたのも、ポンタの力も大きいだろう。ポンタにも感謝しないとな。
「ありがとな。ポンタにアルシアの事を任して正解だったよ」
「いえいえ、元主の素敵な仲間達のお陰です。吾輩は側にいるぐらいしか出来ませんでした」
「側に居てあげるだけでも、心強かったと思うぞ」
でも、ポンタは気が利くから、陰ながらアルシアの為に行動を起こしていたような気がする。
「俺も夜風に当たりに行こうかな」
「はい、この辺りは吾輩が警戒していますのて、ご安心して下さい」
俺はアルシアがいる方へ歩いた。ちょうどいい感じのそよ風が気持ちいいが、少し肌寒い気もする。
ここは見通しのいい広場で、所々に木がポツンとあって、アウトドアーに持ってこいの場所だ。
ただ、先程の戦闘による自然破壊の跡がチラホラある。こうして冷静に考えると『人間って馬鹿な事やってるなー』っと思ってしまう。
そして、アルシアの居る木の下まで着くと、アルシアは、三角座りで空を見上げていた。
「アルシア、眠れないのか?」
俺はアルシアに声を掛けたが、ボーとしていたのか、声を掛ける瞬間まで、俺に気付かなかったようだ。
「あ、真由。気付かなかった。ちょっとね、目が覚めちゃって。真由もなの?」
「ああ、上から女の子が落ちて来たんで」
「ふふふ。本当に真由は面白いね」
なんかアルシアが笑うと安心してしまう。最後に会った時が、あんな状態だったからな。
「真由のその服装、前とは違うね。ミリちゃんにデザインして貰ったの?」
「いや、これはアルルンという女の子の服だ。交換して、そのままになってしまった」
「ふーん、女の子同士で服の交換とかしているんだ」
「いや、そんな遊び感覚じゃあないからね! これはこれで大変だったんだから」
俺はアルシアに変な誤解を持たせないように、偽物の俺が現れた事や、そのせいでミリちゃんが暴走して大変だった話をすると、思いっきり笑われてしまった。
決して笑い事ではないんだが……。
「それよりアルシア、身体はもう大丈夫なのか?」
「もう全然平気。魔力も復活したから」
「それが気になっていたんだけど、どうやったの?」
俺がアルシアを組織に送った時は、瀕死の状態で魔力も二度と戻らないという最悪な状況だったから、それがどうやってここまで立ち直ったか気になっていた。
「それは私も理解出来ないけど、皮膚を移植して適合させて、そこから魔力を増幅させたみたい」
「なるほど。移植かぁ。その発想は無かったな」
「カリバーさんのゲームから、無垢朗さんが思い付いたみたいよ」
「げっ、そうなの?」
うーん、ゲームからどう思い付いたか知らないが、これであのネトゲ廃人カリバーも馬鹿に出来なくなったな。
「真由、これを見て」
「いきなり何を!?」
アルシアは、突然服を捲り上げると、腹部にその移植手術の跡が痛々しく残っていた。女の子なのにこれはちょっと可哀そうだ。
「ちょっと、傷跡が酷いなぁ。整形外科なら治せるんじゃないか? もしくは、ミリちゃんならなんか治せそう」
「うん、いいの。この傷はみんなで頑張った勲章みたいなものだから、消したくないの。だから、一生の宝物にするの」
「傷跡が宝物かぁ……そんな発想、今まで無かったな」
その後は、しばらくアルシアの向こうでの話が続いた。
無垢朗、カリバーの事や、特にあいみと仲良くなって、メイクや買い物と言った女の子らしい話題を楽しそうに話していた。
そして、今回のアルシアの登場するタイミングが良かったのは、事前にカリバーがこっちの事情を知る為に、しばしば戻っていた事や、魔法少女に変身する演出も、カリバーと無垢朗とポンタが計画した事も話してくれた。
カリバーがたまに帰っていたなんて、全然気付かなかった。テレポートみたいな大きな魔力を発したら気付きそうだが、少なくとも俺以外の誰かが気付くはずだ。
そう言えば、初めてこの世界に来る時、魔力結界がどうのこうの言っていたよな?
あれで魔力感知されないようにしていたのか?
そんな事が出来るなんて、やっぱりあいつは大魔法使いなんだろうな。ネトゲ廃人だけど。
そして、アルシアの話が終わると、今度は俺が話す番になった。
「真由の方は、あの後どうなったの? ガムイに酷い事されなかったの?」
「うーん、それは……」
俺はガムイの話を聞いて来るとは思わなかった。あいつは、アルシアの精神も身体もボロボロにさせた張本人だからな。しかも、まだ生きているし。
トラウマになっているかと心配していたけど、大丈夫なのかな?
「一応、あの後、一発ブッ飛ばしたけど、まだ生きている。魔力を込めてない物理攻撃だから、回復には時間が掛るはずだけど」
「そうなんだ~。やっぱり、真由って可愛いのに強いよね。でも、今度また襲いかかって来たら、私が守るからね」
「あ、うん」
アルシアは俺の眼を見て、力強くそう言ってくれた。俺の心配は取り越し苦労になりそうだ。
しかし、あのガムイという男は、他の魔法使いとは違う、危険な匂いがした。そう、異常な殺人鬼のような狂気なものだ。
ああいう奴は、汚い手を使ってでも復讐をするはずだ。
アルシアを信用していないわけではないが、俺も警戒を怠らず、今度遭ったら再起不能にしてやる。
「まだ、真由にお礼を言ってなかったわね」
「別にいいよ」
「うーうん、ありがとう真由」
「改まって言われると照れるなぁ」
もうガムイの話題はそれぐらいにしておこう。俺は話題を変え、ここまでの経緯を話した。
もちろん、魔王フィルリアルの話もしたが、結菜ちゃんの事は伏せている。結菜ちゃんの件は、アルシアにも話さない方がいいだろう。
あの問題は俺一人で何とかした方がいい。
さて、話していない事、いや、話さないとけないことはもう一つある。
それは俺が男だという事を……。
もうミルネとミリちゃんには、話したのだからアルシアにも言うべきだろう。そして、今は話す環境が整っている。
よし、打ち明けるなら今のような気がする。
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