第136話 ラビットちゃん全員集合
俺は魔王フィルリアルの名前を出してしまったが、ライムもわざわざ「あの魔王」と言って、確かめた感も拭いきれない。
「お前が、その名を知っているという事は――」
「魔王軍を討伐する為に、色々と調査していました!」
俺は、また誤解を招かないように、話を遮ってもっともらしい理由を答えた。
「ほーう、ならば……ふん、この話は後で皆でしよう」
「ん?」
ライムが話を中断すると、俺の後ろから複数人の足音と話し声が聞こえて来た。
「せっかくアルシアが帰って来たのに、マユリン何してるの?」
「元主、お久しぶりです。只今戻りました」
俺がなかなか来ないから、逆にみんながこっちに来たという感じか。いやいや、まだ戦闘は終わっていなかったんだぞ!
ライムさんが目を覚まさなければ、この2人のSランクを1人で戦わないといけなかったんだぞ!
まぁ、なんとか平和的に収まりそうだからいいけど。
それにしても、アルシアもポンタも久しぶりだな。なんかアルシアがたくましくなったような気がする。
やっと俺も積もる話をアルシアと出来るぞ。しかし、ライムさんがそうさせてくれない。
「おい、さっきの『爆炎龍』を出したのは、お前だな? 名前はアルシアだったか。あの技はカリバーのだったよな? 彼に教わったのか?」
積もる話を……しようと思ったら、先にライムさんがアルシアに話し掛けた。
「ええ、えーとね……」
アルシアは困った表情で、回答に行き詰っていた。どうせ、カリバーに自分の存在は「内緒にしろ」と言われたんだろう。
「ふん、何か色々事情があるみたいだな。ならば――」
「真由ちゃん、一緒に寝よ」
「そうだよマユリン! ラビットちゃん全員集合だよ!」
お前らなぁ、まだ話が終わっていないだろう! って言いたいところだが、正直俺もライムさんよりもアルシアと話がしたい。
「分かった、今日はここまでにしておこう。カリバーと繋がりがあるなら、お前達は敵ではなさそうだ。今日はもう遅いから、明日また話そう。お前達も何か用があってここに来たんだろう?」
「そうしてくれると助かります」
カリバーとライムさんは、共に戦った戦友みたいなものなのかな? そのお蔭で誤解は解けたみたいだが、カリバーはなんでこっちの世界に来たんだろう。
――そして、ベルリア陣営はストレングス同様に、大型のゲルみたいなテントを3張設営して、周囲の警戒用に個別用のテントを離れた場所に配置していた。ラビットちゃんは寝袋だけど……。
一応、ベルリア学園と合同訓練の依頼は達成してしまったけど、次の依頼はあるんだろうか?
ダンロッパ的には、ここで邪魔な者同士潰し合って欲しかったんだろうが、見事に失敗したというわけになる。
なんか、俺達がダンロッパの闇の粛正する為の行動とダンロッパの俺への復讐、そして、ダンロッパの野望の3つを上手く利用して、今回の事に繋がった気がしてならない。本当、悪知恵が働く野郎だ。
だが、それも今回で終わり。ここからは反撃に出る時だ。
明日の話し合いでダンロッパの闇を話せば、ベルリア学園は協力してくれると思う。それにベルリア側に暗殺された者がいるみたいだけど、それもダンロッパの可能性が高そうだし。
まぁ、難しい話はこれぐらいにして、俺も寝る準備をしよう。っと言っても、寝袋だからすぐに用意出来るけどね。
「マユリン、今日はみんなで一緒に寝るよ」
「1つの寝袋でか?」
「そうだよ。ミリちゃんが4人用にデザインしてくれたんだ」
おいおい、敵の襲撃の可能性を考えたら、二手に分かれる方がいいと思うけど。
「吾輩が、皆さんをお守り致しますので、ゆっくりとお休みください」
有能なポンタ様の存在を忘れていた。ポンタが居れば大丈夫だ。
ポンタともゆっくりと話をしたかったけど、今日はもう無理そうだな。ミリちゃんが早く寝たがっている。
「真由ちゃんは、真ん中」
ミリちゃんが俺に指示を出してくるが、もう順番は決まっているらしい。
「真由ちゃんの隣は、ミルネちゃんとアルシアちゃん」
「えっ!?」
俺の隣は絶対にミリちゃんが来ると思っていたら、意外だった。という事はミリちゃんは端になるよな? いいのか?
うーん、これなら安眠出来そうだが……。意図が分からない恐怖はある。
「真由ちゃん、早く」
「分かった。寝るよ」
俺はミリちゃんの言われるままに、寝袋に入った。相変わらず、4人で寝るにはギリギリのサイズだ。
魔法で調整出来るならもっと大きくしてくれたらいいのに。
そして、ミリちゃんの指示で、アルシアとミルネも俺の隣に入った。まだ、アルシアとは挨拶すらしていないのに、こういう形で一緒になるとは、少し気まずいなぁ。
だから俺も、あの時に一緒に話したかったのに……。やっぱり、この世界は俺だけに厳しい。
「それでミリちゃんどっち側で寝るの? やっぱりアルシア側なのか?」
「ミリはここで寝る」
「うげっ!」
ミリちゃんは、どちらの端側に入る事はなく、俺の腹の上に乗っかって来た。
「俺の上かよ!!」
俺の大きな胸をクッション代わりにして、顔を埋めている。
「流石にそれはやばいだろ! ミリちゃんは軽いけど、ずっとはしんどいぞ」
「大丈夫」
ミリちゃんは魔法を使ったのか、同じ極の磁石みたいに少し反発するように、ミリちゃんの身体が軽くなった。
「何をした?」
「魔力の流れを変えた」
「凄いよ! マユリン! そんなコントロール普通は出来ないよ!!」
「こいつは普通じゃないからな」
「ふふふ」
どういう原理なのか分からないが、また下らない事に高度な魔法を使っているのだろう。そして、ツボにハマったのかアルシアが笑っている。
それにしてもみんな顔を近い。俺なんか、どっちを向いても誰かの顔しかない。
いや、ミリちゃんに襲われるような体勢だから、そもそも横を向いたりする権限が俺には無かった。
でも、こういう時のミリちゃんは、少しデレデレするんだよなぁ。可愛いけど、妨げるような行動を取ったら、すぐに拘束魔法を掛けてくるから要注意だ。
こんな状況で寝れるのか……。
――しかし、こんな状況でも、やはり眠ってしまったようだ。やっぱり、疲れていたんだろう。だが!
ドサッ
「ウゲェ!」
突然、上に乗っかっていたミリちゃんが、魔法効果が無くなったのか、落下して目が覚めてしまった。
「おいおい、時間が経ったら元に戻るのかよ!」
俺はミリちゃんを抱きかかえ、どこに置こうかと横を見ると、ミルネは爆睡しているが、アルシアの姿がなかった。
こんな真夜中に何処に行った?
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