第13話 事実上最強クラスのダンロッパ
何か嫌な事でもあったのか? ミルネが元気ない。
「どうした? 元気がないじゃないか」
「うん……大丈夫だから……」
「いや、そうは見えないけど。体調でも悪いのか?」
「本当大丈夫だから……心配してくれてありがとう」
「そうか……」
ミルネはすぐに顔に出るタイプだから、何かあると思うんだけどな……。
まさか、昨日のブルマのせいで、風邪引いたんじゃないか?
「なぁ、ミルネ、保健室に……」
そう言えば、この世界の場合だったら風邪も魔法で治してしまいそうだから、保健室とかあるのかな?
「うん、保健室に行かなくても大丈夫だから……」
「分かった。しんどくなったら言えよ」
保健室はあるようだ。
「へぇー、皆さん! 真ん中を開けて下さい! へぇー、整列してください!」
先生達が整列を呼びかけた。ちょうど、俺がいる所が真ん中だからここで分かれた。ここからだとよく見渡せそうだ。
「へぇー、それでは皆さん、へぇー、Sランク魔法使いの入場です」
すると、場内はざわめき始めた。
やっぱり、Sランクは特別なんだろう。
もしかしたら、ここに逃げたやつがいるかもしれない。
というか、司会にへーラス先生は人選ミスだろ。「へぇーへぇー」がうるせいよ。
「へぇー、今回は新入生もいるので、へぇー、紹介します。へぇー、1人目はケイトさんです。へぇー、ケイトさんは『マッドラン』の討伐隊長で、へぇー、バランスの取れた編成で、へぇー、あらゆる依頼に対応してきました」
拍手と黄色い声援だな。相変わらずの人気だ。
「へぇー、続きまして、へぇー、太助さんです。へぇー、太助さんは『ストレングス』の討伐隊長で、へぇー、攻撃力が高く、へぇー、特に接近戦に編成で、へぇー、魔物狩りの依頼に貢献してきました」
20代半ばの大男だ。この男にも拍手と黄色い声援はあった。でも、男性に人気がありそうだ。
「へぇー、続きまして、へぇー、モリモンさんです。へぇー、モリモンさんは『シルバークラウン』の討伐隊長で、へぇー、遠隔戦の攻撃力が高く、偵察を得意とする編成で、へぇー、魔王軍の偵察の依頼に貢献しており、へぇー、ダンロッパさんの『ロイヤルクラウン』に協力しています」
20代前半の紳士的な感じの男だ。もちろん拍手と黄色い声援はあった。やはりSランクは人気なんだろう。
「へぇー、そして最後にミリさんです。へぇー、ミリさんはダンロッパさんの次に強い魔法使いでありながらも、へぇー、生産部に所属していますが、へぇー、特殊魔法が得意で討伐隊隊長の招請も受けています」
この子だけ格好がゴスロリだぞ。
と言っても派手さは無いが、他の人とは何か違う。
身長や年齢は真由と同じぐらいで、銀髪の可愛い子で、無垢朗がくれた兎のヌイグルミがよく似合いそうだ。
こんな小っちゃい子がSランクとは恐れ入る。
授業の時、女子達が俺の事を「ミリちゃんみたいに可愛い!」って、この子の事だよな?
あ、目が合った。
俺はずっと見ていたら、向こうもこっちを見てきた。
すぐに目を逸らしたが、向こうは俺をガン見している。
そして、俺の前を通り過ぎ去った後も、何回も俺の方を振り向いた。
他のSランク達と同様に、舞台の両サイドの椅子に座ってもまだ見ている。
何だよ、あのミリっていう子は……。
「へぇー、続きまして、へぇー、いよいよ偉大なる魔法使いダンロッパさんの入場です」
場内はこれまで以上の声援と、割れんばかりの拍手が響き渡った。
ここまでくると逆に異様な雰囲気だ。
それになんであいつだけ「偉大なる魔法使い」って言うんだ? ミルネも同じような反応しているんだろうか?
ミルネの方を見ると、さっきと同じようにしょんぼりしたままだった。もし、体調が悪いのならこの騒がしい状況はしんどいだろうな。
そして、俺の前を偉大なる魔法使いダンロッパが通り過ぎた。
30代ぐらいの男で落ち着いた印象だ。
「へぇー、ダンロッパさんは『ロイヤルクラウン』の討伐隊長で、へぇー、討伐隊最強とも言われており、へぇー、事実上最強のSランク魔法使いです。へぇー、ネスタリアの政策委員長や討伐隊の総隊長でもあります」
やっぱりこのダンロッパというやつが一番偉いんだろう。しかし、ここにはあの逃げたやつはいなかったな。
「へぇー、それではダンロッパさんの依頼の成果とお言葉を頂きますので、へぇー、皆さんよく聞くように。へぇー、ではダンロッパさん、よろしくお願いします」
ダンロッパが舞台に立つとAランクも起立し、拍手と歓声が起きた。
ダンロッパはそれに答えるように手を挙げて、笑顔を振る舞っていた。
しかし、ミリという女の子だけは、終始俺の方をがん見している。俺以外、興味が無いという感じだ。
「諸君の歓迎を感謝する! 今回の依頼は討伐ではなく、捜索に行って来た。それは行方不明になっているSランクナンバー1の大魔法使いカリバーさんと、同じくSランクナンバー2の魔法使いマリさんだ」
なにーー!? あ、あのネトゲ廃人だと!?
ナンバー1ってあいつが最強だったのか!? 嘘だろおい!!
あいつゲームやってる場合じゃないだろ! じゃあ、マリという人も東京にいるのか?
「しかしロイヤルクラウンを以ってしても、発見することが出来ず、手がかりすらなかった」
そりゃあ見つからないだろう。この世界からみれば、今は異世界にいるからね。
「そこで諸君! 私はそろそろ決断しなくてはならない時期にきていると思う! 2人の偉大な魔法使いがいないのはとても悲しいことだが! いつまでもナンバー1と2が不在だと示しがつかなくなる! それは魔王軍にこちらの戦力不足のイメージを与えてしまうだろう!」
パチパチパチパチ
なんか拍手が、あちらこちらから起きてきたぞ。しかも、だんだん大きくなっていくし。
「だからこそ!! 私が2人の意志を受け継ごうじゃないか!!」
「「「おおおーーー!!」」」」
今度は歓声が上がった。アメリカ大統領選挙みたいになってきたぞ。
「私がナンバー1の座に就き! 私達と一緒に『ネスタリア』が最強だということを知らしめていこうじゃないか!」
Aランクが全員で手を上げて大きく拍手をし、場内は今までにない拍手と歓声に沸いた。ダンロッパはドヤ顔で会場を見渡した。
「ありがとう!! 諸君の協力に感謝する!」
大きな拍手と歓声を浴びながら、ダンロッパは舞台を降り、退出して行った。
ダンロッパなんてどうでもいいが、カリバーは一体何しに俺の世界に来たんだろう? まさかネトゲ廃人を装って、何か企みがあるんじゃないだろうな。
「へぇー、ありがとうございました。へぇー、これでお開きとさせていただきます。へぇー、Sランクの方から退出をお願いします」
まだSランクのミリという女の子が、俺をずっと見ているぞ。
そして、真っ直ぐ俺の所にやって来た。
「……」
ミリと言う銀髪の女の子は、何も喋らずただ俺を観察していた。
「あのー、何か用ですか?」
俺が声を掛けると、突然その子は俺の顎を掴んだ。
「何をする!?」
「……」
その子は顎を掴んだまま、ジト目で俺を睨んで来た。なんか凄い圧を感じた俺は、それ以上何も出来なかった。
でも、こんな状況になっても、周りはみんなスルーしていく。やはり、Sランクには逆らえないのか?
そして、ようやく顎から手を放してくれると、ジト目のまま話しかけてきた。
「名前は何?」
「真由ですけど……」
「真由ちゃん……」
「それで何か?」
「真由ちゃんはミリのもの」
俺の名前だけを聞くと、その子は向きを変え去って行った。
一体何だったんだ!? 最後、やべーこと言っていたけど。
この子は危険な香りがするから、あまり関わらない方がいいだろう。
それより、今はミルネの体調の方が気になる。
「やっと終わったな。ミルネ大丈夫か?」
「うん……平気」
「そうか……」
「マユリン、心配してくれてありがとう。大丈夫だから、授業に戻るね」
「うん、分かった」
――こうして、俺はミルネと別れ、魔法の自主練をしようと予定していたが、カリバーの事が気になって調査する事にした。
調査と言っても……図書館ぐらいしかないけど。せめて、カリバーが行方不明になるまでの時事的な文献があればいいんだが。
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