第129話 ベルリア学園の不穏な動き
ゴレイアーさんが現れると、ミリちゃんは俺の横から抱き寄せ「真由ちゃんは渡さない」と言わんばかりにゴレイアーさんに、威嚇した。
「ウ~、ウ~」
「おいおい、今日はやたらと抱き付くなぁ。でも、今のこの状態って、無敵?」
「無敵です」
冗談で言ったつもりだったが、ゴレイアーさんは即答だった。
これからは、敵地に乗り込むときは、これで行こうかな? はは……。
「では、お願いします」
用件だけを言うとゴレイアーさんは、自分の野営場所に戻って行った。
「マユリン、何かやらかしたの?」
「何もしてないよ!」
「真由ちゃん、行ったら駄目」
「心配しなくても大丈夫。それより、俺らも早く準備しよ」
冷静に考えれば、もし何か企んでいたのなら、ミリちゃんがいない所で呼び出すだろう。という事で、野営場所はみんなとそこそこ近い所にしておくか。
ふと、周りのストレングスの人達の様子を見ると、モンゴルのゲルみたいな大型のテントがあり、その周囲をBランクが寝袋で警備しているような感じだった。
うん、俺がイメージしていた討伐隊って感じだ。
さてと、俺もそろそろ夕食の準備を始めるとするか。準備と言ってもジュレを小分けにするだけだが。
でも、よく考えてみれば、アルシアがこれだけの量を用意してくれていなかったら、ヤバかったよなぁ。俺もベルリア学園に行くだけで、こんなに時間が掛ると思っていなかった。
あれから大分時間がたったけど、アルシアは今何をしているんだろう? 怪我はもう治っているはずだし、会いに行きたいけど、なかなかチャンスが無い……。
また4人で冒険出来る日が、やって来るのかな……。
そして、数時間が経過し、夕食も済ませた頃には、もう辺りは真っ暗になっていた。一応、寝袋の準備はしておいて、俺はゴレイアーさんに約束通り会いに行く事にした。
「ちょっと、ゴレイアーさんの所に行って来るわ」
「駄目、ミリと一緒に寝るの」
「えっ!?」
「ふんっ」
なんで拘束魔法!? しかもいつもより、魔力が強い気がする!? 俺はまた理不尽に拘束され、寝袋の中へ魔法で押し込まれた。そして、ミリちゃんも一緒に中に入った。
「おい、何をする?」
「駄目、真由ちゃん一人で出歩いたら怪我をする」
「いや、すぐそこなんだけど」
「駄目、一緒に寝る」
「マユリン、諦めた方がいいよ。あたしも一緒に寝るから」
確かに以前、夜中に出歩いて魔王軍幹部と戦う羽目になった事はあった。
だからと言って過保護過ぎだろ!
それとも、ミリちゃんはストレングスが何か企んでいると思っているのかな? ずっと、警戒していたし。
うーん、それならこの拘束魔法を解いてもらわないと、寝込みを襲われたらヤバいんだけど。
「ねぇ、ミリちゃん拘束魔法解いてくれないと、寝づらいんだけど」
「……」
ミリちゃんは黙ったまま、俺の方を至近距離でジト―と見てきた。はっきり言って怖い……。
「あたしからもお願いするよ。マユリンの手が邪魔で抱きずらいよ」
「分かった」
「おい」
ミルネのお蔭で、拘束は解除されて自由になったが、ミリちゃんが起きている間は、この寝袋すら脱出不可能だ。遅くなったら、ゴレイアーさん怒るかな……。
俺はミリちゃんが眠りにつくのを待った。
そして、しばらくすると、俺の頬にミリちゃんの頬をくっつけながら、寝息を立てていた。よし、これはチャンスだ。ミルネもまだ抱き付いて来ていない。
俺はゆっくりと、寝袋から脱出しようとした。がっしかし!!
あれ? ほっぺたがくっついたまま、離れないぞ! 前にもミリちゃんの指がくっついて離れなかった事があったが、今回もそれと同じだ。
でも、一瞬離れる事は出来るけど、またすぐに吸い寄せられるようにくっついてしまう。
何だよ、これ!?
俺が外そうともがいていると、誰かがこっちにやって来る足音が聞こえた。
誰か来る!? けど、何も出来ない……。
そして、その足音は俺達の寝袋の前で、止まった。すると……。
「なかなか来ませんので、こちらからお伺いしました」
その足音の正体はゴレイアーさんだった。
「すみません、このような状況で行けませ――」
「それは仕方が無いです」
それは仕方が無い事なのか!?
「どうもミリちゃんは、ストレングス討伐隊を警戒しているみ――」
「でしょうね」
「えー!?」
何、その当然だろうみたいな反応は……。
やっぱり、ミリちゃんとストレングスは、過去に何かあったんじゃないのか?
あるいは、ミリちゃんはストレングスの秘密を知っていて、それがとてもヤバい事だったりする?
どちらにしろ、状況は良く無いぞ。また俺一人が苦労する展開になるかもしれない。いや、今はミリちゃんとくっついているから安全だ。なら、ちょっと踏み込んでみるか。
「ゴレイアーさんは、ミリちゃんが警戒している理由を知っているのですか?」
「はい、うるさいからです」
「そんな理由かよ!!」
なんか急に疲れが来たなぁ。もうあれこれ考えるのはやめよう。
「それでお話って何ですか?」
「少し歩きましょう。そこから出れますか?」
「うーん、ミリちゃんと頬がくっついているからなぁ」
「それなら、何とかなります」
解除してくれるみたいだけど、これで無敵モードもなくなるわけか……。
「恐らく、あなたとミリちゃんの魔力の波長の合う所が、『魔力結合』しているのでしょう。これはかなり高度な魔法ですが、魔力解除で解けます」
かなり高度な魔法か……魔力結合も使い方によっては、戦闘ではかなり強いんじゃないか? 例えば、相手の魔力を捉えれば、問答無用に引き寄せる事が出来るわけだし……ん? そんな事あったよな?
確かミリちゃんの姉のマリが使っていた魔法だ。あれはそういう事だったのか?
「はい、終わりました。これで動けるようになったでしょう」
「本当だ。いつのまに……」
俺はミリちゃんとの魔力結合が解除され、寝袋から脱出する事が出来たが、少し罪悪感は残った。 やり方は強引だが、一応ミリちゃんは俺の事を思っての事だからな。理不尽だけど。
そして、自由に動けるようになった俺は、ゴレイアーさんと一緒に適当に歩きながら、話しを聞く事にした。
「それで話って何でし――」
「ベルリア学園の討伐隊が、我々を監視していた件です」
相変わらず喋りきる前に、返事してくるなぁ。
「普通なら、これから合同演習を行うのであれば監視ではなく、出迎えるものです。なぜ監視を行ったのでしょうか?」
そんな事、俺が知るわけないだろ。むしろ、監視活動は普通にやってるものだと思っていたからな。
「うーん、なぜでしょう? ミリちゃんが怖いから警戒していたとか?」
「なるほど」
「いや、冗談ですから」
とりあえず、ベルリア学園の対応は普通ではない事は分かった。うーん、ダンロッパの仕業という可能性もあるだろう。
「向こうの対応に疑問がある以上、こちらも警戒した方がいいかもしれま――」
「はい、その通りだと思います」
と、その時!! ストレングスのサポータの一人が、慌てた様子でこっちにやって来た。
「大変です!! ベルリア学園の討伐隊の隊列が、こちらに来ます!!」
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