第126話 真由 vs ミリちゃん!?
ミリちゃんを止めるにしても、真っ向勝負では勝ち目は無い。ここは意表を突いて一瞬で方を付ける戦法がいいだろう。
ミリちゃんは逃げる俺を捕まえようと必死だから、逆にこっちから近寄れば、魔法を打ってこないはずだ。近寄り過ぎると拘束魔法に気を付けないといけないが、タイミングを見計らってMPCで一気に詰めよう。
俺は堂々とミリちゃんの方へ歩いて行くと、さっきまで魔力を溜めて何かしようとしていたのを止めて、俺の方をじっくり見てきた。
よーし、このまま行けるところまで近づこう。距離は20メートルぐらいか……。
そして、10メートルぐらいまで接近すると、俺を受け入れようとしているのか、両手を広げた。
しかし、その瞬間俺の身体の動きが鈍くなった。
違うこれは!? 以前、こいつのお姉ちゃんにやられた『魔動引力』だ! 俺の魔力を捉えられたら最後、無抵抗のままミリちゃんの所まで吸い寄せられるぞ!!
これの回避する方法は分からないが、とりあえずMPCを使って、ミリちゃんの周囲を動き回ってみた。すると、ミリちゃんもその動きに合わせるかのように、手のひらで俺の動きを追ってきた。
もしこれが、魔法で回避していたら、発した魔力で捉えられていたかもしれないが、こうやって魔力を発していないMPCで動き回れば、ミリちゃんでも苦戦するようだ。
しかし、このままだとミリちゃんの魔力よりも、俺の体力が先に消耗してしまうだろう。MPCは体力の消費が激しいからな。
俺はミリちゃんを撹乱させるように、周囲を動き回り距離を詰めて行った。だが、距離が近づく程、ミリちゃんに捉えられやすくなるので、MPCの集中させる度合いを上げていき、数メートルまで接近する事が出来た。
そして、ここから一気にミリちゃんに目掛け、正面から突進するように突っ込んだ!
しかし、そのせいでミリちゃんに捉えられてしまい、身体が動かなくなっていくのを感じたが、ここまで来たら、あとは気合だ!!
俺は手の届く範囲まで来ると、身体が固まりそうなのを気合で押し退け、ミリちゃんの頬をビンタした!
その瞬間、時間の流れがスローになったように、その光景が脳裏に焼き付いていくような感じがした。
今までミリちゃんを叩くなんて無かったからな。
そのお蔭で、俺の身体は動くようになり、ミリちゃんの魔力が引いていくのが分かった。正気に戻ってくれたのかな?
俺は下を向いているミリちゃんの両肩を持って、正面に立った。
「ミリちゃん、めっ! こんな事をしたら駄目でしょう!」
ちょっと強い口調で言ってしまったが、今回の事はちゃんと注意しないと、今後またこんな事をやらかすかもしれない。でないと、誰からも相手してくれない痛い大人になってしまう。
Sランク以上の実力がある者を、この世界の人間なら注意出来る人はいないだろうから、俺が言ってあげないと。一応、隊長だし……。
「ミリちゃん、俺の顔を見て!」
今の俺の顔は、空間魔法の衝撃波で額に怪我をしたせいで、流血している。
「なんでこうなったか、分かる?」
「……」
この血まみれになったこの顔を見て、ミリちゃんは自分のした事を理解したのか目に涙を滲ませた。
「……ごめん……なさい」
とても小さな声だったが、ミリちゃんは謝った!
「うん、分かってくれたらそれでいいんだ。後はアルルンにも……」
アルルンも騙そうとしていたから悪いんだけど、一応、今度会う機会があれば謝った方がいいのかな? うーん。
「もう一人の真由ちゃんにも謝る」
「そうか、なら俺も協力するよ。もう一人に真由ちゃんは、アルルンという女の子だからね」
「アルルン……」
最初はミリちゃんって、我侭なお嬢様という感じだと思っていたけど、案外素直でいい子かもしれない。
「じゃあ、帰ろうか? ミルネが心配しているかもしれないし」
「……うん」
なんかミリちゃん、魔力を使い果たしてしまったせいか、目を擦らせ眠たそうだ。
俺も魔王城の疲労と、今回の事で疲労困憊だが、仕方が無い。もうひと頑張りだ。
「ミリちゃん、眠いの? ほら」
「……うん」
俺はミリちゃんをおんぶして、戻ることにした。ついさっきまで生い茂っていた森も、広大な更地みたいになっていて、それだけ衝撃の強さを物語ってる。
うーん、ミルネは大丈夫なんだろうか?
一応、ミリハウスは大丈夫そうに見えるが、周囲が吹き飛ばされているから心配だ。もし、俺達がいない事に気づいて、外に出歩いていなかったらいいが。
そうなれば、あの衝撃波に巻き込まれている可能性もあるんだよな?
ちょっと心配になってきた。早く戻ろう。
――そして、ミリハウスに着き、扉を開けると……。
「ミルネ! いるか!? って!? えぇぇぇぇー!!」
俺の眼に映ったのは、ベッドから落ちて床で気持ち良さそうに寝ているミルネだった!
「寝てるんかーい!!」
もちろん、このミリハウスに消音機能が優れているわけではない。恐らく、凄い音がしたはずだし、振動もあっただろうに。
逆によく寝ていられるよな。こっちは大変だったのに……。
でも、そんな苦労は知らず、幸せそうに寝ているミルネを見ていると、なんだろう……サッカーボールがそこにあったら蹴りたくなるような、そんな気持ちになってしまう。
とりあえず、蹴るのはミリちゃんをベッドに寝かせてからにしよう。とにかく疲れた。
俺はベッドの前まで行き、ミリちゃんをベッドの上に座らせるようにして、ゆっくりと屈んだ。しかし……。
「あれ? ミリちゃんが外れない。なんで?」
ミリちゃんはまるで魔法のように……いや、まるでじゃなくて、魔法なんだろうな、背中にくっついて離れなかった。
うーん、寝ているのになぜ。そう言えば、前にも人差し指が頬にくっついて離れなかった事もあったなぁ。あれと同じか?
と、いう事はミリちゃんを背負ったまま、ミルネをベッドに運ばないといけないのか?
勘弁してくれー
俺はミルネを両手を使って持ち上げ、一歩また一歩というペースでベッドまで運んだ。そして、ミルネを放り投げて、俺もそのままベッドに倒れ込んだ。
ふぅー
このまま爆睡コースになりそうだ。まぁ、もう魔王軍の襲撃は大丈夫そうだし……。
そうか、魔王軍の領域にいながら魔王軍に襲われないという事は、ここは安全だよな? なら、アルシアの様子を見に行っても大丈夫って事か?
あれからもう3週間ぐらいは経っている感じだし……。
アルシア元気にやっているかな……。
ああ、なんか本気で眠くなってきた……。
明日はゆっくりしよう……。
神様、明日は穏やかに過ごせますように…….。
「マユリン……」
「ぐぇ」
――そして、外が明るくなってくると、穏やかな朝がやって……来なかった。駄目だ、この世界は俺に厳し過ぎる。
ドーーーーーーーン!!!
「うわー!? なんだ!?」
突然、朝の静寂な時間を吹っ飛ばしてしまう、爆発音みたいな大きな音が鳴り響いて目が覚めた。
「敵襲!?」
すると外から、男女10人ぐらいの合わさった声が聞こえてきた。
「ゴッスン! ゴッスン! ゴッスン! ゴッスン! ゴッスン! ゴッスン! ドォーン!! ドォーン!!」
これは、もしかして太助が率いる討伐隊ストレングス!?
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