第125話 ミリちゃんの暴走
真夜中の森の中で、暴走しているミリちゃんから逃れる為、湖とは逆の方向を走って逃げた。
こっちの方向は、以前スク水の時にエロリスから逃げた時の道だ。こっちは湖と違って、起伏があって木の密度も高くて隠れやすい。
そして、砂埃が収まると、さっきの空間魔法で地面ごとえぐられたせいで、宅地開発みたいな更地が広がっていた。
よし、ここを住宅地にして村でも作るかって、おい! こんなの喰らったら死んでしまうぞ!
何とかミリちゃんを正気に戻さないと。
「アルルン、真由の変身を解除しろ!」
「そ、そそれが……で、ですね.....」
アルルンは身体を震わせて、酷く怯えているようで、解除したくても出来ないのは簡単に想像がつく。
「分かった。立てるか? とにかく今は全力で逃げるぞ」
「うん」
俺はアルルンの手を握り、再び森の奥の方へ走った。すると、またあの空間が裂ける嫌な音が、あちらこちらから響き渡った。
「おいおい、また来るぞ! しかも今度は特定出来ない程広範囲だ!!」
空間が歪み、あらゆる所で裂け始めた。
俺は走りながら、周囲を確認していたが、どっちの方向に逃げていいのか分からず、ただミリちゃんから離れるのが精一杯だ。
そして、周囲の空間が一気に裂けた!
「マジか!! アルルン!!」
「きゃっ」
空間が完全に裂けた瞬間、削ずらて引っ張られる範囲が分かるのだが、どうやら入ってしまったみたいだ。
俺はアルルンを抱きかかえ、MPCでのダッシュで脱出を試みたが、外までの距離は数メートルで大した事はないが、裂けてから引っ張られる時間は一瞬だから間に合うかどうか……。
「痛てっ」
俺とアルルンは間一髪外に滑り込めたが、今度は空間が元に戻ろうとする時に発生する衝撃波を間近で受けてしまった。
しかも、今度のはかなり強いものだ。俺はアルルンを抱え込んだまま飛ばされ、意識を無くしていた。
そして、アルルンに起こされて目を覚ました。
「真由! 大丈夫? 起きて! 次が来るよ!」
「うーん、なんか記憶が飛んだな……はははー」
気づくと地面に転がっていて、身体のあちこちが痛い。
「真由大丈夫? 額から血が出ている」
額を手で触ってみると、血がべったりと付いた。あの衝撃波で飛ばされた時にどっかにぶつけて気を失ったのかもしれない。
「アルルンは、大丈夫か?」
「アルルンは大丈夫。でもまた来るよ!」
アルルンの言う通り、またあの嫌な音を立てながら空間に亀裂が入るのが見えた。
「おいおい、少しは休ませてくれよ!」
俺は慌てて起き上がろうとしたが、膝や腕、腰等が痛くて一苦労だった。
これは不味い。一応まだ動けるが、あれを回避するのはもう限界だ。
どうする!?
しかし、無常にも空間魔法の勢いは止まらず、再び歪みが発生し、辺り一帯が裂け始めた。
「アルルン!! 何か魔法があるなら、それを使って逃げろ!!」
「あわわ、思い付かないよ。真由だけ置いて逃げるのは嫌だよ」
意外に義理堅いやつなんだな……って、感心している場合じゃないぞ! このままだと二人ともやられてしまう。しかも、今のミリちゃんに理性は無い。
「なら、せめて」
「あっ」
俺はアルルンに覆い被さるようにして、少しでも衝撃から守ろうとしてみた。そして、空間が完全に裂けると、今回の規模はさっきより狭くなっていた。
しかし、それでも回避出来ない状況である事は変わりはない。
「来るぞ!」
俺は覚悟を決めた。その時!!
俺の目の前に、どっから現れたか分からないが、魔法の超高速移動? みたいな感じでエルフのような風貌の男が現れた。
そして、俺とアルルンを両脇に抱え、また消える様にその場を離れ、回避する事が出来た。
これはもしかして、白馬の王子様が助けてくれたのか?
それから、少し離れた森の奥で俺とアルルンを優しく降ろした。
「ラクセル!! 怖かったよ!! ありがとう!」
アルルンはラクセルに抱き付いた。
「え、えーと、こちらがアルルンだね?」
なんだ? アルルンの知り合いか? 銀髪のロン毛で、耳が大きくとてもダンディーだ。でも、お蔭様で俺も助かった。
「ありがとう。俺も助かりました。アルルンの知り合いだったんですね」
「申し遅れました。私は魔王軍最高幹部のザイロン様の配下、ラクセルという者です」
「げっ!?」
おいおい、魔王軍最高幹部の部下という事か!? しかも、ザイロンという名前は聞いたことあるぞ! 確か、2年前に魔王フィルリアルが現れるまで、魔王の座にいたやつだ。
それで、最高幹部の部下が、なんで俺を助けた? あ、そうか、あの状況ではどっちがアルルンか分からないから、とりあえず両方助けたという事か。ヤバいのはこれからだぞ。どうする?
「あなたが真由様ですね? この度は大変失礼しました。謝罪します」
「は?」
なんで頭を下げて謝罪なんかしているんだ? 全く意味が分からん。
「失礼ですが、あなたの行動をずっと監視しておりました」
「えっ!?」
「ラクセル、真由は味方だよ。アルルンを助けてくれた」
「はい、見ておりました。真由様も我々と同じように、魔王軍側に協力する為、ミリに接近していたんですね? そうとは知らず私達が邪魔してしまって、本当に申し訳ございません」
もしかして、アルルンを助けてしまったから、俺を味方だと思っているのか?
冗談じゃないぞ! そんな事になったら、俺が魔王軍の関係者になってしまうではないか!
しかも、これだけの爆発騒ぎになっているから、ベルリアの討伐隊が監視してる可能性だってある。
もし監視されていたら、当初の目的のダンロッパの闇を静粛するために、ベルリア学園の協力を求めるどころでは無くなってしまうぞ。
でも、ここで否定してしまうと、この2人と戦わなくてはいけなくなってしまうから、とりあえず合わせておくか。
「ま、まぁ、気にしないでくれ。はっはっはー」
「寛大な御言葉、ありがとうございます。では、これからどうされますか? 援軍を呼びますか?」
「げっ、それはやめてくれー」
そんな、魔王軍が来たら、もう収拾つかなくなるぞ。
「いや、そんな事をしたら、大戦争に発展するぞ。ミリちゃんを甘くみない方がいい。うん」
「確かに。では、どうされますか?」
「アルルンを連れて、逃げてくれないか?」
「真由様はどうなされるのですか?」
「俺一人でミリちゃんを止める!!」
ミリちゃんを止めるのに、魔王軍の力なんて借りたくない。こう見えても俺はこの討伐隊ラビットちゃんの隊長だ。
「一人は無謀すぎるのでは? 私も協力します」
「すまんが、足手纏いだ。この任務は俺にしか出来ない」
「なるほど、分かりました。ご無事を祈っています」
ラクセルはアルルンの手を引いた。
「真由、また今度会おうね!」
「では、失礼します。あっ、ザイロン様には、真由は味方であるとお伝えしておきます」
「えっ!? いや、それは……」
ラクセルはアルルンと一緒に、消えるように高速移動でその場を去った。
なんか面倒な事になったが後回しだ。今はミリちゃんを止めないと……。
俺はミリちゃんがいる方へ、歩いて向かうとすぐにミリちゃんが見えた。ミリちゃんの周りは更地みたいになっているから、すぐに分かる。
でも、変だなー。とっくに空間魔法を打ってくるはずなのに……。
そして、ミリちゃんの表情が分かるぐらいにまで接近すると、ミリちゃんは、魔力を消耗したせいか息を切らし、辛そうだった。しかし、まだ正気に戻っていない。
俺の存在を確認するや否や、また次の魔法の準備の為か、魔力を溜め始めた。
まさか、ミリちゃんと戦う時が来るとは思わなかったが、全力でやるしかない。
そして、ちゃんと教えてあげないと! やってはいけない事があるという事を!
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