第118話 最高幹部ザイロンと幹部エレクドリア
結菜ちゃんは眼を閉じて、静かに呼吸を整えると両手を上げた。
すると、天井を旋回していた黒い煙、黒魔パーティクルは結菜ちゃんの周りを回りながら、頭から足元へ覆いかぶさった。
そして、結菜ちゃんが眼を開くと、さっきまでの優しい感じの瞳が、一気に赤色に染まり邪悪な雰囲気に包まれた。
そんな姿になってしまった結菜ちゃんを見ていると、とてもやりきれない気持ちになる……。
「必ず結菜ちゃんを助けるから!!」
結菜ちゃんは軽く頷いたように見えたが、すぐに俺の手を掴み、一瞬でテレポートした。カリバーもミリちゃんもテレポートの時は、気合入れてやっていたけど、魔王フィルリアルはその必要はないみたいだ。
そして、約束通り城の外に出ることが出来たが、そこに魔王フィルリアルはすでにいなかった。どうやら戻るのも一瞬だったようだ。
近くに警備兵はいないようだし、俺はそのまま迷い森の方へ走って行った。
すると……。
「マユリン、こっちだよ」
森の中からミルネの呼ぶ声が聞こえた。俺はその声のする方へ向かうと、木の陰にミルネとミリちゃんが隠れるようにしゃがんで待っていた。
「マユリン、心配したよ。いきなり城に入るんだもん」
「ごめんごめん! もう大丈夫だから」
いや、それは不可抗力だからね。
「でも、突然煙の中からマユリンが現れたけど、どうやったの?」
「いや、それは……えーと、う、上から飛び降りた。それで砂煙が舞っただけだ。うん」
「そうなんだ」
今ので納得してくれたかな? というかそこまで興味が無い感じの表情だな。
流石に魔王に送ってもらったなんて言えない……。
でも魔王のことを話してしまったら、この先魔王と戦う事になった時に躊躇いが生じてしまい、それが命取りになってしまうかもしれない。
隠し事はもうしたくないが、それ以上に危険な目に遭わせられない。
せめて、あの黒魔パーティクルだけを倒せる方法が分かるまで黙っておこう。
「マユリン、これからどうするの?」
「もう一度迷い森に入って、一旦湖に戻ろう」
「また迷うよ」
「今回は大丈夫だ。今度は俺を信じてついて来なさーい」
とりあえずモウストリア湖までは、結菜ちゃんが何とかしてくれるはずだ。
でも、この先いつかは分からないが、魔王軍は何か大きな作戦を実行して、ネスタリアとベルリアを攻め落とすだろう。
それを阻止する為には、2つの学園の討伐隊と連携して対抗しなければならないと思うが、あのダンロッパでは無理だ。
さらに、この魔王軍の計画を知っているのは俺だけで、ベルリアやネスタリアは信じてくれるのか? っていう問題もある。
だから、やっぱり当初の予定通り、このままベルリア学園に行って、ダンロッパを失墜させる為の協力の要請と、今後の協力関係を築き上げる方が得策かもしれないな。
果たして俺達に協力してくれるかどうかだな……。
――――場面変わって、ちょうどその頃、魔王城内にある、10人ぐらいの規模の会議室で。
ここは会議室と言っても、魔王城なので通常の人間サイズではなく、椅子やテーブルが何倍も大きい。丸いテーブルに椅子が10席あった。
そこに居るのは元魔王にして最高幹部のザイロンだ。体格こそ人に近いが、2メートル以上の身長に筋肉質の身体、頭から立派な角2本に口が怪物のような風貌だ。
そして、もう一人の幹部、エレクドリア。一応二足歩行というだけで、見た目は魔物に近い存在だ。
ザイロンより一回り大きく、頭に一本角があり、背中に腕のようなものが2本あって、顔や肌はリザードマンのようだ。
「城内に侵入者が現れるという前代未聞な事が起きたようじゃが、何か分かったか?」
そう聞いたのは最高幹部のザイロンだ。
「ああ、今部下に捜索させているぜ。もうすぐミリ討伐隊の調査結果も一緒に報告に来るはずだ。でも、侵入者は何者か知っているぜ。あれはミリの討伐隊のサポータの真由とか言うやつだ」
「真由じゃと? やつは確かミリ暗殺実行前に、なぜか隠れ家に現れ、マリを追いつめたやつじゃろ? それがなぜここに?」
「部下の調査だと、オーガの軍勢も蹴散らしたみたいだぜ。その後は領域近くで、ド派手に山を削ったり、監視に気付いたのか、空間を歪めて姿を消したかと思えば、その直後に衝撃波が襲ったとかで、もう無茶苦茶だぜ。しかも! 痕跡も堂々と残して進んでいるみたいだし」
「そして、この騒ぎか……一体何を企んでいるんじゃあ? わしらの計画に気づいて牽制でもしとるのか?」
ザイロンは頭を抱えて、ため息をついた。
そして、ちょうどその時、部屋にエレクドリアの部下と思われる兵士が中に入って来た。
「失礼します! ザイロン様! エレクドリア様! ミリ討伐隊に関する各調査隊の報告により、調査結果をまとめましたので報告します」
「おお、来たようだぜ。聞かせろ」
「はい。真由は迷い森に入ったという目撃情報有り。現在、迷い森に調査部隊を派遣しました」
「おい嘘だろ!? この城は門からじゃないと出れないんだぜ。しかも、外の警備兵も城内に入れて門を固めたのにどうやったんだ?」
その報告を聞いたエレクドリアは動揺したが、ザイロンは冷静で、何か考え事をしているようだった。
「おい、エレクドリアよ。真由は一体何の為にここまで来たと思う? これは何かの警告じゃないかのう」
「警告? やっぱあれか? 計画に対する牽制か?」
「いや、あの計画の内容まで知っているとは思えんが……」
「じゃあ、なんだ?」
「これは『その気になればいつでも魔王城を落とせるぞ』という警告じゃあなかろうか。侵入する時は堂々と入って来たくせに、出る時は誰にも気づかれずに脱出しておる。舐められたものじゃ」
ザイロンのこの発言にエレクドリアは沈黙した。そして、再びザイロンが静かに口を開いた。
「でも、前代未聞の事を成し遂げた真由なら、何等かの方法で計画を知っておっても不思議じゃない」
「なぁ、真由って、何者だ? ただのサポータじゃないのか?」
「あ、あの、すみません。真由に関してまだ報告がありまして……」
エレクドリアの部下は、少し冷や汗をかきながら、まだ何か報告しづらいことがある様だ。
「何じゃあ? 言ってみろ」
「は、はい。ミリの討伐隊は、ミリが隊長だと思われていたのですが、実は真由ではないかという調査結果がありまして……」
「「なにーーーー!!?」」
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