第116話 魔王フィルリアルの正体!!
なんで突然現れる!? さっきは周囲に誰も居なかったのに。確か魔王フィルリアルだったか。
魔王は討伐隊として出撃初日の晩に、バーでの襲撃に現れた時と同じで、長い黒髪の幼女の周りを黒い煙が回っている。そして、俺でも分かる強烈な魔力を発している。
魔力はミリちゃんみたいなSランクでも、通常そこまで発していない。魔法使用した時に初めて、強い魔力を発する。
それなのに、この魔王は通常でこの強さだから、かなりヤバいやつだ。
もちろん、ここは逃げるしかない!!
MPCで一気に階段を降りてやる!!
「ぐぇー! な、なにー」
俺がMPCでダッシュしようとした瞬間、魔王は俺の目の前にフワッと現れ、首を掴まれてしまった。
しかも、前と同じようになぜか、身体が動かない……。
そして、俺は煙に包まれると、意識が飛ぶような感覚に襲われた。
もしかして、俺死ぬ?
しかし、次の瞬間俺の視界が復活すると、さっきまで階段にいたはずなのに、目の前にお姫様が使いそうな大きなベッドがあり、なんとなくミリちゃんの部屋みたいに、可愛さは無いが豪華な感じの所にいた。
ここは、どこだ?
俺がベッドから後ろ側を振り向くと、部屋のドアの前に長い黒髪の幼女が悲しそうに俺を見ていた。
さっきまでこの子の周りを回っていた煙は離れて、今度は部屋の天井をゆっくりと周回していた。
黒い煙が離れると、さっきまでの魔王らしい迫力は無く、普通の可愛いらしい女の子だ。
え?? 一体何が起きたんだ?
「さっきは痛くしてごめんなさい」
「えぇぇぇー!?」
想定外の事が起きた。あの魔王フィルリアルは頭を下げて謝罪した。
俺は殺されると思っていただけにこの出来事が、理解出来ず唖然とするだけで、反応出来なかった。
あの魔王がなんで??
「お姉ちゃんの名前を聞かせて」
「お、お、お、お、お姉ちゃん!?」
またもや想定外の呼び名で、俺は動揺した。今までそんな呼び方されたこともないし、美少女になってからもない。
とりあえず、魔王の意図は全く分からないが、会話ぐらいはしてもいいだろう。
「俺の名前は真由だけど」
「真由……真由お姉ちゃんと呼んでいい?」
「いいよ」
その響きは悪い気がしないな。
でも、なんか見た目は幼いのに、話し方が大人で落ち着いた感じだな。
「私の名前は児玉結菜。日本からここに連れて来られたの」
「えっ!?」
魔王の正体は俺と同じ日本人だとー!! どういう事だ?
「真由お姉ちゃんも、そうなんでしょう? 魔力で分かる」
魔力で分かるのか? でも、そんな事を言われとのは初めてだし、魔王だからかもしれない。しかし、魔王が日本を知っているのは危険だな。ここは色々と聞き出して、情報収集をした方がいいだろう。
「そうだけど。結菜ちゃんはなんでここに来て、魔王なんかやっているの?」
「うん、真由お姉ちゃんだけ教えてあげる」
そう言うと結菜ちゃんはドア前からゆっくりと歩き、俺がいるベッドの所までやって来た。そして、ベッドの上に添えるように座わった。
「真由お姉ちゃんも横に座って」
「ああ、うん」
俺も言われるまま隣に座ったけど、幼女なのにちょっと緊張する……。この子は将来美人になるだろう。
「真由お姉ちゃん、お人形さんみたいに可愛いね」
「あ、いや、ありがとう」
幼女にそれ言われるか!? 真由は一応、美少女高校生だぞ! 小学生に見られるかもしれないがそれでも、結菜ちゃんよりは年上だ。それに中の人は大人だ。
「私がここに来たのは2年前になるよ。突然黒い煙が目の前に現れたと思ったら、意識が無くなって、目が覚めたらこの部屋にいたの」
「2年前!? に、あの黒い煙がさらったのか?」
2年前と言えば、カリバーとミリちゃんの姉ちゃんのマリさんと、ベルリア学園の討伐隊で魔王に共闘し、カリバーの放った『ファイヤードラゴン』で撃退。
しかし、その後遭難したという話があったよな。でも、実際は遭難と言うより、マリさんは魔王軍の幹部になっているし、カリバーは日本に馴染んでゲームしているし、謎な部分はあった。
でも、もしこの戦いの時に魔王フィルリアルが誕生していたら、どうだろう? うーん、カリバーと日本の繋がりは、魔王通じて関係がありそうだけど、マリさんが幹部になるのは分からんな。
「一つ聞きたいんだが、なんで結菜ちゃんが魔王フィルリアルなの?」
「私があの黒い煙(黒魔パーティクル)と呼ばれているみたいだけど、あの煙を被ると精神支配されて記憶が飛んでしまうの。人格も変わってしまうみたい。私が魔王と呼ばれるのは、その時に元魔王のザイロンが討伐隊にやられそうになったのを、私が圧倒的な力で助けたみたい」
「という事は、当時はザイロンが魔王だったのか」
しかし、黒い煙を纏ったフィルリアルが圧倒的な強さで、魔王が交代したかもしれない。じゃあ、マリさんはその力にねじ伏せられて魔王軍幹部になったのか?
「その時の状況は記憶にあるのかな?」
「少し断片的にあるけど……私、真由お姉ちゃんに酷い事しているよね? ごめんなさい」
「もういいよ。結菜ちゃんが悪いわけじゃあないし。それより、今幹部になっているマリさんの事だけど、なんで魔王軍の幹部なのか分かる?」
「多分、私が魔王フィルリアルになった時に何かしたと思う。あの黒魔パーティクルには恐ろしい力があるから」
これでマリさんの事も繋がった。恐らくマリさんもこの黒い煙、黒魔パーティクルに精神支配されているのだろう。それならなんで図書館の文献は、遭難した事にしたんだろう?
うーん、あれを改ざんしたのはダンロッパだから、マリさんが魔王軍の幹部だと都合が悪いんだろうな。
マリさんが魔王軍に捕らわれたとなると、討伐隊を出撃させ救出に向かうところだが、圧倒的に力を持った魔王フィルリアルの前では、戦いたくなかったのだろう。
遭難したことにしておけば、単なる捜索で済むし、ダンロッパにとって、ナンバー1と2のカリバーもマリさんも見つからない方が都合がいい。それに魔王幹部なんてなかなか遭遇しないものだし。
「でも、今は児玉結菜なんだよね? 自分の意志で魔王フィルリアルになったり出来るの?」
「この部屋にいる時だけ、黒魔パーティクルは離れるけど、部屋を出ればすぐに纏わりつき魔王フィルリアルになるの。」
「この部屋だけか……」
なんでこの部屋だけなんだろう? 寝る時だけ離れるのかな……。
「私は黒魔パーティクルにいいように宿主にされただけ……ただそれだけ」
「うーん……」
すると、結菜は俺の手を両手で握り、少し潤んだ瞳で懇願した。
「真由お姉ちゃんにお願いがあるの」
「なに?」
俺は少しドキッとした。おいおい相手は幼女だぞ。
「もうすぐ魔王軍は恐ろしい計画を実行するの。その前に私……魔王フィルリアルを殺して」
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