第114話 ミルネ隊長が辿り着いた場所は……
いつの間にか寝落ちしてしまったようだが、果たして今は朝なんだろうか?
相変わらずの灰色の霧のせいで、外の明るさも時間も分からない。もちろん、2人はまだ寝ているから、ミルネの腹時計に期待は出来ない。
しかし、その時だった。
「マユリン、おはよう」
「なんてこった! もう昼だった」
ミルネが自分から起きるなんて、朝であるはずがない。この変わり映えしない灰色の世界で、俺の体内時計も調子が悪いようだ。
とりあえず朝食を取って、昨夜起きた事を話しておかないとな。
――そして、俺は食後に昨日魔王幹部から聞いた話を2人に話した。
「――――という事なんだが、ここを脱出出来る策はあるか?」
「ないよ」
「ない」
「即答かよ!」
ミリちゃんにはチートみたいな魔法を期待していたのだが、見込み違いだった。
まぁ、結界が張ってあると言っていたから、魔法で対処するのは難しいのかもしれない。それどころか、この先どこに向かえばいいのかさえ分からないぞ。
「マユリン、魔力での移動は出来ないから大変になるよ」
「あ、それは大丈夫だ。俺は」
せっかく監視から逃れたのだから、魔力を使用して見つかるリスクは避けたいところだけど、この2人は魔力に頼らなかったら、歩けるだろうか? この世界の住人は魔法に頼り過ぎて、体力が全然無いからな。
あと問題はこの迷いの森をどう進んで行くか? だよなぁ。
「ここからあたしの勘で行くよ」
「おい、ちょっと待ってよ。流石に勘は!」
「この森は結界もあるし、魔力も乱れているんだよ。頼れるのはあたしの勘だけだよ」
「どっから湧いてくるその自信!」
なぜかミルネは、とっておきの秘策を披露するかのように、自信満々に言い放った。でも、俺もミリちゃんも策が無いから、任せるしか選択肢は無いようだ。
というか、こいつはいつまで隊長やり続けるんだ?
――こうして、俺達はミルネ隊長の先導に『灰色の迷い森』を魔力を使用せずに突き進むことになった。しかし!
「マユリン、休憩するよ」
「もう!!?」
予想はしていたが、魔力無しの歩行はかなりきついみたいで、30分もしない内に休憩だ。そして、30分ぐらい休むと出発し、その後もこのサイクルを繰り返すだけでなかなか先に進めなかった。
まぁ、進んだところで、彷徨っている以上あまり意味は無いかもしれないが。
さらに、道中に敵が襲ってくるという事は無かったが、というかさっきまで居た痕跡があるからして、恐らく向こうから避けてくれる感じはある。それでも偶然居合わせてしまった雑魚の魔物は、魔力が無くとも戦える俺が倒していった。
もちろん、ただ進むだけでは無く、高い木に登ってみたり、ミリちゃんに結界の解析を試みてみたりしたが、結局状況は変わらず、時間と体力を無駄に使うだけであった。
――こうして、状況が変わらないまま数日ぐらい彷徨った。
相変わらずミルネの先導の元に俺達は、宛も無く突き進んでいる。もうここまで来ると、今が昼なのか? 夜なのかさえ分からなくなっている。こう何日も続くと、もうバレる覚悟を決めて魔法を使って突破口を開いてもいいと思えてきた。
その方法は、この灰色の森は結界が張られているみたいだから、外にミリちゃんのテレポートで脱出するのは不可能だが、結界の境界線までなら出来ると思うから、そこまでテレポートする。その先は俺がミリちゃんを抱えて、結界の外に走って出る。
前に魔王軍に襲われた時に結界が張られていたが、普通に出入りは出来た。
まぁ、結界に種類があったり、秘かにあの時ポンタが結界を解除していただけだったら、即終了になってしまうが。
でも、魔王フィルリアルは普通にテレポートで現れたから、魔王軍は自由に魔法も出入りも出来そうだ。
それからもう一つ、ミリちゃんがまだ見せていないチート技に賭けてみるか?
流石にそれは希望的観測か。
とりあえずミルネが先導を辞めたくなったら、実行しようか……。
そして、俺がそんなことを考えていると、突然ミルネの足が止まり、俺の方に振り返った。
いよいよ、諦めたか……。
「マユリン、着いたよ」
「そうか、よし、後は俺に……って、着いた!?」
ミルネが指さす前方には霧がかかっているが、森を抜けられそうな感じだ。
しかもその先には何か大きな建物みたいなものも見える。もう少し進めば全貌が分かりそうだ。
「おお! 凄いじゃないか! まさかあれがベルリア学園の建物じゃないよな?」
「でへへ、あたしも知らないけど、この辺りで大きな建物だったらそうかもね」
「よし、行ってみよう!」
これは予想外の展開だ。迷いの森と言うぐらいだから、そのからくりを暴かないと、脱出出来無いと思っていたからな。でも、これでミリちゃんに強行突破をお願いしなくても、何とかなりそうで良かった。
俺達は数メートル位進んで森を抜けた。
森を抜けると辺りは暗闇で霧は無く、広大な平野があり、数十メートル先にネスタリア学園の倍以上ある大きな建物があった。
うーん、でも建物というか、これって城?
しかも邪悪な雰囲気を漂わせながら、大きな扉には門番らしきオーガが両側に2体いる。
「ミルネ、もしかしてここって、魔王軍の城?」
「あははは、そうみたいだね。でも、こんな所から魔王城に通じてるなんて知らなかったよ。ベルリア地区から魔物人間が住む『タカチカオ』を越えた先にあるのに」
「魔物人間? タカチカオ? ベルリアの先なのになんで?」
という事は、この『迷いの森』からのルートは近道で、それをミルネが偶然にも発見してしまったという事か。恐らく魔王軍は、このルートを使ってネスタリアを監視していたに違いない。
「ちなみに、ここまで進んで来たルート分かるか?」
「でへへへ」
「だよね」
まぁ、当然だな。俺も分からないし。
とりあえずここが魔王城だという事だから、今は関わらない方が得策だろう。
まだ、ダンロッパの件も片付いていないし、たった3人で城を落とすのは馬鹿としか言いようがない。
「マユリン、どうする? 魔王やっつけちゃう?」
「そうだなせっかく来たんだから、ついでに倒しておくかってアホ!! 死ぬわ! ここは撤収だろ!」
「でも、どうやって? また森に戻るの?」
「いや、バレるけど一気に脱出する方法がある」
ここはもう『灰色の迷い森』ではないから、ミリちゃんのテレポートが普通に使えるんじゃないのか?
魔王城にも結界があってもおかしくないがやってみる価値はあるだろう。
「ここはミリちゃんのテレポートで脱出しよう。最悪、境界線までは行けると思うんだ」
「そこから一気に行くんだね」
「そういう事で、ミリちゃんに頑張ってもらわないといけな……あれ? ミリちゃんがいない」
「あそこにいるよ」
「げぇぇぇええええ!!」
ミリちゃんがいないと思ったら、なんと城の門前にいたー!!
しかも、門番のオーガも倒しているし!!
ちょと待て! 何やっているんだあいつ!!
しかも、ミリちゃんって何故かドアを蹴とばすような開け方をするんよな?
もし、それを魔王城でやったら、殴り込みに来たと思うんじゃないか!?
それにミリちゃんは、複数の幹部が出向く程の要注意人物だから、全面戦争になってもおかしくない。
「マユリン、ミリちゃんが中に入ろうとしているよ」
「なにーーー!! それは駄目だー!!」
俺はミリちゃんを止める為、MPCで全力のダッシュで向かった。
「間に合えーーーー!!」
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