第112話 灰色の霧と魔王軍の監視
ここは魔王軍領域なのに、ここからベルリア学園に行き道がミルネに分かるのだろうか?
でも、魔王軍領域で活動する討伐隊ストレングスを呼び出す任務に就いていたから、ここが何処か知っているのかな?
上手くいけば、ストレングスに会えるかもしれない。
でも、出来ればアルシアに会いに行ってからの方がいいな。もしかしたら、ストレングス自体がダンロッパの刺客かもしれないし、そうなればアルシアに会うのは難しくなる。
「マユリン、ここが魔王軍の領域なら、湖の向こう側がベルリア学園の方だよ」
「ここ知っているのか?」
「知らないよ。そんな気がするんだ」
「なんじゃあそりゃー」
うーん、色々と深読みし過ぎたみたいだ。
でも、それは俺も同意見だ。だいたい、県境や国境などの境目は、山だったり、河だったり、湖だったりする。この世界だってその辺りは同じ感覚だと思う。
そう考えれば、湖の対岸に行くのは妥当な選択という事になる。
「俺もそれが正解のような気がする。ミルネ隊長についていくよ!」
「ふふーん、任せなさい!」
こうして、ミルネ隊長の先導のもとに、ミリちゃんを真ん中にして俺は後ろにつき、湖岸沿いに進みながら対岸に向かうことにした。
あの2人が建てたミリハウスは、今まで散々目立つ事をしたから、今更隠しても意味が無いので、痕跡を消す作業をせずそのままだ。どうせ、バレているだろうし。
それにしても、また妙な集団になってしまった。
「2人ともその格好は?」
「マユリンと同じだよ」
「真由ちゃんスタイル」
いや、ゴスロリの服の上に、わざわざ俺のリュックを真似てデザインして背負っている。これはどう見ても討伐隊……いや、ただの登山でも、間違いなく注意される格好だぞ。まぁ、今更だけど。
――そして、1時間程湖岸沿いを歩くと、湖の対岸に着く事が出来た。この辺りは俺がスク水に強制的に着替えさせられた時に、人影みたいなものが見えた場所だ。
対岸に着いたと言えども、相変わらずここも深い森に囲まれている。この森の中を進む場合、もし一人なら躊躇するだろう。しかし。
「この森の中を突き進むよ!」
ミルネ隊長は実に頼もしい。全然臆することなく中へ突き進む。俺もミリちゃんもただ後ろをついて行くだけだ。
森の中はそこまで険しくは無いが、道と言う道が無い。ただ、湖までの道のりみたいな起伏が無く、平地なのでとても歩きやすい。
そして、しばらく歩き続けると少し霧が出てきて、先の方がぼんやりし始めた。それと同じ頃にミリちゃんが周囲が気になるのか、何度も振り返ったり、なんやら落ち着かないようだ。
俺は、落ち着かないミリちゃんが、何を仕出かすか分からない方が心配だ。
いつも唐突な行動を起こすからな。だから今回は俺が一番後ろにいるわけだが。
そして、しばらくするとやはりと言うべきか、ミリちゃんは突然進路を変え、何も言わず脇の方へ向かおうとした。これがミリちゃんがいつも突然居なくなる瞬間だ。
「ちょっと待った!!」
俺がそう叫ぶと、声にびっくりしたのかふと立ち止まり、俺の方を見た。
「どこへ行くの?」
この問いにミリちゃんは、いつものジト目で答えた。
「監視されている」
「ちょっと待って! 監視って魔王軍?」
「そう。だから排除」
「いや、監視だけなら放っておこう。無理にこちらからトラブルを招くような……行動を……」
ミリちゃんから物凄く圧を感じる。別の言い方をしなければ……。
「ミルネ隊長は楽しそうに突き進んでいるから、今は一緒について行こうよ」
「うん」
納得したのか、ミリちゃんは突き進むミルネの後ろに戻った。
それにしても魔王軍が監視しているとは、全く分からなかった。恐らくミルネも気づいていないだろう。
確か監視活動する時は、魔力を最小限にするから感知されにくいはずなんだけど、ミリちゃんはその些細な魔力も感知出来てしまうのかな?
視界が悪くても、魔力で分かるみたいだから俺も気を付けないと……あっ、気を付ける程の魔力無かったか。はははぁー。
でも、まだ魔王軍が監視しているという事は、魔王軍領域から出れてないのか?
――――それから、数時間が経過して、俺達はひたすら歩き続けた。歩き続けたと言っても、この2人は魔力を使用しているから、普通に歩くよりかはかなり楽なはずだ。
そして、霧はさっきよりも濃くなっており、灰色の世界が広がっていた。それは文字通り灰色で、自然に発生する白い霧とは何か違う。とても邪悪な感じがして不気味だ。
もしかして煙か? でも、無臭だし、むせる事もない。
それに今が昼なのか? 夕方なのか? 夜なのか? それすら分からない。
これは不味いかも。
すると、勢いよく進んでいたミルネ隊長が立ち止まり、俺達がいる後ろを振り向いた。
「何かいるよ」
「何かって……うーん」
一見何もいないように見えるが、よく見るとついさっきまでここに何か居て、俺達の接近で慌てて隠れたような感じだ。熊みたいな足跡がはっきりと残っている。
「ミリがやる」
「ちょっと待ったー!!」
突然、ミリちゃんが両手を上げて、今にも周囲を……いや、この星ごと消し飛ばしそうな勢いだったので、俺は思わず肩を持って制止した。
「マユリン、大丈夫だって。マユリンだけ飛ばされる事は無いよ」
「そうじゃなくて……いや、それもあるな。じゃなくて、この灰色の霧といい、魔王軍の監視やらでここはまだ魔王軍領域じゃないのか? それも結構中に入ってしまったような気がしてならない」
「じゃあ、来た道を戻る?」
「うーん、それが一番無難だろう。一旦湖まで戻って別の方角に進めば、少なくとも魔王軍領域から脱出は出来る。それまでは無用な攻撃は避けた方がいいだろう。ミリちゃんもそれでいいね?」
「うん、分かった」
ミリちゃんはこういう興味が無さそうな事は、結構素直に受け入れてくれる。『可愛い』が関わるとそうはいかなくなるが。
――――そして、さらに数時間が経過した。
来た道をただ戻っているはずなのに、何一つ見覚えのない所ばかりだ。相変わらず霧で10メートル先もよく分からない。しかも、今が夕方なのか夜なのかも分からない。さっきから全面灰色だから。
そして、俺達が進む先に、山のような巨木が一本立ちはだかると、ミルネ隊長は立ち止まり、俺の方に振り向いた。
「今日はここで休むよ」
「こんな所でか!? まだ魔王軍領域だし、監視もされているだろ」
「だってもう夜になるもん」
「なぜ分かる?」
「お腹が空いたー」
ミルネの腹時計は正確かもしれないが、こんな所で野営するのは危険だろう。かと言ってこのまま進んでも、湖に戻れる保証は無いしな。ここは慎重に判断しないと……。
しかし、俺はもっと注意しなければならない事があるのを忘れていた。
「ふんっ」
ミリちゃんが何かの魔法を掛けた。
はははー、何の魔法だろう……。
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