第11話 俺の話を聞けー
俺とミルネは先に食事を済ませた。食事と言っても『ジュレ』というゼリーみたいなもので、燃料補給をしたと言った方がいいだろう。
部屋に戻って、なんとか自然に『起動』の話を切り出そう。それで俺も早く魔法使いに……。
「ちょっと、話したい事――」
「マユリンはもう『クリーン』したの?」
「は? え?」
今、何て言ったんだろう? 俺も喋ろうとしてたから、よく聞き取れなかった。
クリーニングって言ったのか? この学校はクリーニングしてくれるのかな……。
「いや、まだ……だけど……」
「さっさとやって、早く寝ようよ」
もう寝るのかよ! ミルネが眠くなる前に話をしないと。
「まぁ、風呂に入る時に出すよ」
「ふろ?」
「うん、風呂……だよ」
「ふろってなあに?」
えぇぇぇー! この世界は風呂が無いのかよ。
「ほら、こうやって身体洗って、お湯に浸かるやつ」
「魔水浴のこと?」
「えっ! 麻酔浴?」
今、麻酔浴って言ったのか? 何だよ、そんな危なっかしいものは?
「マユリン、さっきから何言ってるの?」
もしかして、身体を洗ったりしないのか!? いや、そんな事は無いはず.....。
また、魔法で何かするんだろう。
「い、いや、あれだよ。魔法で身体を洗う? 綺麗にする? あれだよ」
「さっきから言ってるじゃん。『クリーン』って」
「ああ、それね……クリーンね……。聞き間違えたよ」
「マユリンって、たまに変な事を言うよね」
「ははははぁ……」
こういう基本的な知識なら、この世界に来る前に準備出来たはずなのに。
前情報無しだからこうだよ。
「じゃあ早くクリーンして寝よ」
「う、うん、そうだね……うん」
「どうしたの?」
ここで『起動』の話を切り出してみるか。早くしないと寝そうだしな。
「実は、ミルネに頼みたいことが――」
「分かった! 授業で魔力使い過ぎてもう残ってないんでしょう! あたしがやってあげるよ」
「うん、頼むよ」
「クリーン!」
都合良く解釈してくるのは助かったけど、俺の話を聞いてくれー。
すると、俺の足元に魔方陣が現れ、青い輪っかの放物線みたいなものが上がっていき、頭を超えた付近で消えた。以前にカリバーが魔法の『解除』をした時と同じような感じだ。
「ありがとう。なんかカラっとして気持ちいいよ」
「マユリンも、魔力は節約した方がいいよ」
節約も何も俺は魔力を一切使ってないから。
いや、この魔力の話を利用して、再起動の話題に持っていきやすくなりそうだな。
とりあえず、ミルネが制服から寝間着にデザインしたから、俺も制服からジャージに着替えよう。
そして、着替え終えてベッドの上に座った。
もう1回トライだ!
「なぁ、ミルネ。ちょっと魔力で――」
「あ、そうだ! マユリン聞いたよ!」
「俺の話を聞けー!!」
わざとか!?
「ん? マユリンどうしたの?」
「いやお先にどうぞ。その代り、それが終わったら俺の話を聞いてくれよ」
何を聞いたのかは知らないが、ミルネは俺に話したそうにしているし、俺も気になるから、それが終わってからの方がいいだろう。
「わかった。マユリン、今日の体力トレーニングの授業で、可愛い運動着にデザインしてたんでしょう。あたしもそれ教えてもらったんだ」
「あの女子の中に知り合いがいたんだ」
「実はあたし、体力には自信があるんだ。だから、体力系の授業も他にも色々出ているから、知ってる子がいるんだよ」
体力に自信ね……。
「へぇ、そうなの」
「あたし、腕立て伏せ3回出来たんだよ。凄いでしょう?」
この話題の前に授業に出て良かった。もしその辺りの事情を知らなかったら、馬鹿にしていただろうな。俺は100回は普通に出来るぞ。
「凄いよ! ミルネ。先生でも5回って言ってたのに」
「えっへん」
「話はそれか?」
「違うよ。マユリンが着てた運動着のデザインを教えてもらって、マスターしたよ!」
なんか、ミルネの目がギラギラとしているなぁ。余程、出来た事が嬉しいんだろう。
「ほう、ブルマに変えれるのか」
「マユリン見て! 運動着にデザイン!」
「今、やるのかよ!」
ミルネが魔法をかけると、服装がブルマになった。完成度も文句なしのレベルだ。
しかし、ベッドの上でやられると、ブルマ姿はエロい。ミルネの足も綺麗だし。
「なかなかの再現度だと思うよ」
「でしょう! えへへ」
なんか凄い嬉しそうだな。この子は褒めると伸びるタイプか?
「触り心地もいいよ。触ってみて!」
「えっ!? おい!」
ミルネは俺の手を掴み、強引に触らせた。ミルネ的には、デザインの完成度を見て欲しいからだと思うけど……。
「ねぇ、どう?」
「どうって言われても……。とても良かったと思います」
「なんでそんな喋り方? 目線も違う所を見てるし!」
これは自主規制というやつだ。
不覚にも、ブルマ姿のミルネの足にエロさを感じてしまったからな。
これ以上刺激されたら、ベッドに押し倒してしまいそうだ。
一応、俺は「羊の皮を被った狼」だからね。
「もういいだろう。今度は俺の話――」
「運動着にデザイン!」
「えっ!」
ミルネは俺に魔法をかけ、ジャージをブルマに変えられてしまった。
「さむっ、何やってるんだよ!」
「だって恥ずかしそうにしてたから。これで分かるでしょう?」
なんで俺までブルマ姿にならなきゃいけないんだよ! 流石にこの恰好は寒いぞ。
「完璧に出来てるのは分かったから、元に戻してくれよ」
「えへへ、あたしも魔力を使い果たしたみたい」
「バカなのか! さっき『魔力の節約しろ』みたいな事言ってたよな!」
「いいの! 一晩寝れば魔力は復活するんだから」
一晩、この恰好で寝るのか!? 夏なら悪くないかもしれないが、今はちょっと寒いぞ。
「寒いぞ! こんな薄ペラの布団で、こんな格好で寝たら風邪引くぞ」
「こうすれば大丈夫!」
「うわわ!」
ミルネは俺を押し倒し、今朝のように抱きついてきた。
体力に自信があると言うだけの事はあって、なかなかの力だ。それとも俺が軽過ぎるからか。
「マユリンも早く」
早くと言われても、俺から抱くのは遠慮しよう。
しかし、ミルネの身体は震えていた。寒いならそこまでしなくてもいいのに。
もしかして、部屋に戻る時に「遅い!」って俺に言ったのは、これを早く見せたかったからじゃあないだろうな。
「震えてるけど大丈夫か?」
「マユリンが暖かいから大丈夫」
「ならいいけど」
「ところでマユリンの話ってなに?」
そういう空気ではなくなったが、もう考えるのが面倒になってきた。もう普通に聞くか。
「えーと、魔法の起動で――」
「ハックショーン!!」
「汚ね! 顔が近いんだからもっと遠慮しなさい! 俺が聞きたいのは――」
「ハックショーン!!!」
「犬みたいなクシャミをするんじゃない!」
犬のくしゃみみたいに顔を大きく揺らすから、その度に俺の顔にぶつかる。
「ごめんごめん、もう大丈夫だから」
「罰として、俺の言う通りの事をやってもらうぞ。もちろん疑問点があっても聞き返さないように」
「なに、ちょっと怖いよ……」
ちょっと強引だが、これだけ話を止められたらそうなるよ。あと、もう面倒くさいし。
「最近、魔力の調子が悪いから、もう一回『起動』をして欲しいんだが」
「マユリン、それ関係ないと思うよ」
「反論も禁止! 頼むよ、起動してくれよ」
「別にいいけど、何も変わらないと思うよ」
よし! 直球だが結果オーライだ。
「もし、魔力が必要なら明日でもいいし」
「魔力はほとんど使わないから、大丈夫だよ」
「じゃあ、お願いします」
「マユリン、仰向けになって」
俺は言われた通り仰向けになった。すると、ミルネは起き上がり馬乗りになった。
そして俺の両手を押さえつけた。
「えっ? ミルネさん一体何を?」
「ちょっと痛いけど、我慢だよ」
「痛いだと?」
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