第107話 恐怖のお願い事
今日は討伐隊の活動はお休みだし、ミルネのお願い事を聞いてあげる約束をしたから、今日はゆっくり寝てもいいが、この寝袋からは脱出したい。
俺の起床後の日課になってしまったが、俺に絡みついたミルネを速やかに取り除き、ミリちゃんに気付かれないように、寝袋から脱出する。
今日もこの脱出ミッションを行う。
しかし!
「ヤバい!」
脱出の時に、ミリちゃんにぶつけてしまうと……ミリちゃんは、ジト―とした目で睨んでいた。
こんな目つき睨まられたもうおしまい。
「お、おはよう、ミリちゃん」
「ふんっ」
こうして俺は、ミリちゃんの拘束魔法で動けなくされ、2人が起きるまで待つ事になった。
うぅぅぅ……本日ミッション失敗。
――そして、日が高くなり昼になると、ようやくこの2人は目を覚ます。それと同時に俺に掛っていた拘束魔法も解けるので、俺も自由になる。
「マユリン、おはよう」
「ああ、おそよう。もう昼だぞ」
「今日は休みだからいいの」
「いやいや、いつもそうじゃねぇーか」
休みの日だけなら問題無いけど、ずっとだからなぁ。どうせなら2人が寝ている間だけでも『アグリケーション、バージョン3』の完成度を上げたかったぁ。
「マユリン、今日はお願い事を聞いてくれる約束だからね」
「分かってるよ、朝飯、いや昼飯食べてからね」
俺は昼飯の準備にとりかかった。せっかく綺麗な湖が目の前にあって、森に囲まれた自然いっぱいの所だから、朝一に珈琲飲みながらハムエッグ食べれたら最高なんだが。
でも、俺の世界であえて、原始的な生活を好んでする人がいるように、この世界でもそういう人いるんじゃないか? まだ知らないだけで。
一人ぐらいは『わしは魔法なんぞ使わんでも生活出来る!』とか言う人、居そうだけどな。料理とかやっていてもおかしくは無い。
――そして、食事を終えると、いよいよ、『お願い事』を聞いてあげる時がやって来た。
約束だから仕方ないが、なんか嫌な予感がするんだよな?
「それで『お願い事』って何をすればいいんだ?」
「ひっひっひー、ちょっと待って!」
ミルネがそう言うと、自分の鞄が置いてある所に早々と移動し、何かを探すように漁っていた。
そして、何か黒い布? みたいなものを手に取り、ミルネがニヤニヤしながら戻って来た。
「マユリンこれ見て!!」
「えぇぇぇーー!! こ、これはスクール水着!!?」
ミルネが俺に見せつけたのは、紛れも無く『スクール水着』だった。もちろん、こんな物この世界に存在するはずが無い。なのになぜ……。
あるとするなら、俺がこの世界に行くときに、悪意ある者たちに持たされたスク水しかない。しかしあれはこういうトラブルにならないように置いて行ったはずだ。
俺は懸命に記憶を蘇らせ、学園を出る前に準備していた時を思い出した。確かに俺はあえてこれを部屋に置いていった……間違いないはずだ! なのになぜこれがここにある?
「マユリン驚いているみたいだけど、あたしが忘れ物だと思って持って来たんだよ」
「なっ!?」
置いて行くところをミルネに見られてしまったのか?
「ま、まさか……これを俺に着させるのが願い事じゃないよ……ね?」
「ほほうー! やっぱりこれは着る物だったんだね。ひっひっひー」
「真由ちゃんが着たとこ見たい」
しまった!! スク水は独特の形状の上、ナイロンみたいな生地だから、着るものだと認識していなかったのか!?
「いや、実はこれは……えーと、か、顔を拭くためのフェイスタオルなんだよ」
「そうなんだ……マユリンを信じていいんだよね? もう嘘は無しだよね?」
「うっ……そ、それは……うっ……きっ.....あ、はい、き、きる.....も、ものです」
そんな言い方されたら、嘘つけねぇー!!
「マユリン、これ着て」
「……」
「真由ちゃん、早く」
本当に俺がこの女子用旧タイプのスク水を着るのか!? しかも、好奇の眼差しが注がれるこの中で着替えるのか!?
「どうしたのマユリン? 早く着替えよ」
「い、いやこんな野外で女の子が着替えるのは不味いでしょう。誰かが見ているかもしれない」
「誰もいないから大丈夫だよ」
「いやー、もしかしたら対岸から見ているかも知れ……ん? おい、誰か本当にいたぞ!」
対岸と言っても100メートルぐらいありそうだから、はっきりは分からないが、今人影のようなものが動いたように見えた。魔王軍かダンロッパの勢力かは分からないが、俺達の行動を監視していたかもしれない。
「マユリン、そんな人影無いよ」
「うーん、気づかれたと思って隠れたのかもしれないぞ。こっちも警戒しなくては」
ここは討伐隊として確認した方がいいな。うん。
「よし調査しに行こう! もし監視されていたらスク水に着替えるどころじゃあないからな」
「もぅー、着替えたくないだけでしょう」
「せっかく着替えようと思ったのに残念だ。流石に監視されている可能性がある以上、女の子が脱ぐのは駄目でしょう。うん」
「大丈夫、ミリに任せて」
「へ?」
ミリちゃんは右手を伸ばし、空気を掴んだようにして指を曲げると、そのまま腕をゆっくり左右に振った。すると、音の共鳴なのか、振動で伝わってくる不気味な音と伴に、視界が徐々に歪み出した。
「え!? 何これ!? どうなってる!?」
「すごーい! 視界がドロドロして見えなくなってきたー!」
「空間を曲げたから、しばらく大丈夫」
「なるほど! 空間がねじ曲がって見えにくいから、着替えても大丈夫って事か……くだらねぇー事に壮大なスケールの魔法を使うなー!!」
ミリちゃんは空間に干渉する事が出来るのか!? 周りの視界はまるでモザイクがかかったようだ。
「マユリン、これで着替えられるね」
「うっ……」
俺にはスク水に着替えるという以外の選択肢は無いようだ……。
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