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第106話 塩焼き

 しばらくライターを見つめていたミリちゃんは、ライターを持った手を上に向けて伸ばした。

 そして……。



「ふんっ」



 するとライターから、明らかに仕様を超えた炎が上がった。



「お前は自由の女神か!! 勝手にパワーアップさせるな!」

「ミリちゃん凄い!!」

「ふんっ」



 さらにミリちゃんは、ライターの炎を巨大化させ、それは石油採掘所やガス田によくある煙突から炎が出るぐらいの規模で、周囲が温度が上昇する程であった。



「こらー!! ライターで遊んではいけません!!」

「ミリちゃん、熱いよ……」



 俺が注意した時は、ミリちゃんはジト目で睨んできたが、ミルネが熱そうにしていたのに気付くと、すんなりと炎を消した。


 このチートみたいな技は魔法なんだろう。

 うーん、でもこれって……。


 俺は恐怖を覚えた。ただのライターが魔法によって火炎放射器みたいな火力になったからだ。もしこれが銃や爆弾だったら、どうなるのか?

 

 想像しただけでも恐ろしい兵器になるのは間違いない。しかもそれがダンロッパや魔王軍みたいな悪いやつが悪用したらどうなるだろう? この世界だけでなく、俺の世界も支配出来る強大な力になるんじゃないか?


 もしかしたら和田さんは、わざわざ俺一人にして指令内容を話したのも、カリバーと接するうちに同じ危機感を持ったからではないか? だから、その危険性のある人物として、組織に侵入してきた魔法使いを調査して、且つ俺を対抗戦力になれるよう、魔法の取得の任務を出したのだろう。


 もし、俺の世界にそんな危機が訪れた時、この討伐隊『ラビットちゃん』は助けてくれるかな……。

 いや、きっと助けてくれるさ。

 

 でも、魔法使いなら誰でも、さっきのように魔力でパワーアップ出来るんだろうか? ちょっと確認した方がいいだろう。



「ミルネもミリちゃんみたいに、こんな事出来るの?」

「出来ないよー。だってどうなってるか分からないから、魔力を込めれないよ」

「ミルネちゃん、こう」

「とりあえず、ライター返してもらおうか」



 誰でもと言うわけでは無さそうだ。ある程度仕組みが分かった上で、魔力を纏わせる『魔動転化』を使うのだろう。


 ということは、ミリちゃんは俺の説明でライターの仕組みを理解したのか!? まさかね.....。



「マユリン、お腹が空いてきたよー」

「そうだな、ちょっと脱線しちゃったな。早く魚を焼いて食べよう!」

「ミリは真由ちゃんを食べたい」



 でも、ミリちゃんのあんなデカい炎を見た後では、焚火がキャンドルに見えるなぁ……。

 

 さてと、準備にとりかかるか。

 俺は串で刺した魚を一つずつ炎の周わりに刺して、塩を相撲の塩撒きのように一杯掛けた。 



「マユリン何してるの?」

「塩かけて味付けしているんだよ」

「塩??」

「魔法で言えば『テイスト』掛けているよなものか」


「おお!」



以前なら、なんで『塩』が分からないんだよ! って嘆いていたところだけど、今なら普通に理解出来る。俺も大分この世界に馴染んだ証拠だろう。



 ――しばらく経つと、いい感じにきつね色の焼け目が付いて、芳しい香りが漂ってきた。



「ああー、この香ヤバいな~」

「なんか不思議な感覚だね」

「ミリは真由ちゃんの香りがいい」



 この芳しい香りを嗅ぐと、食欲が湧いて来るんだけど、この感覚はこの世界に来るまでは当たり前の反応だったが、ジュレに慣れてしまった今はとても新鮮だ。


 ジュレはあくまでも生命活動を維持する為の燃料補給で、美食といった食を楽しむ欲望を満たす事は出来ない。それ故にこれに慣れると、そういった事を望まなくなってしまう。だから、当たり前に腹が減る感覚が新鮮に感じてしまうのだ。


 でも、ミルネとミリちゃんは初めからそう言った感覚は、恐らく無いはずだからどうなんだろう?

 まぁ、食べてもらえば分かるか。


 ちょっと串まで焦げているが問題無いだろう。俺はミルネとミリちゃんに一本ずつ手渡した。



「まぁ、食べてみてよ」

「うん……」



 2人の反応は微妙だ。初めてなら当然かもしれない。俺だっていくら美味しいと言われても、虫の料理を出されたら、同じ反応をしてしまう。

 

 ここは俺が先に食べる方がいいだろう。



「じゃあ、俺が先に食べるから。頂きます!」



 俺は串の端を両手で持ち、そのまま口元に近づけると、香りだけで唾液の分泌が止まらなくなり、そのまま腹部を一気にかぶりついた。



「ぬおおおお!! うまーーーーー!!! これヤバい!!」



 最初は2人に旨さを伝えようと考えていたが、実際食すると想像の域を遥かに超えた旨さだったので、そんな事をつい忘れて、夢中で一匹まるまる食べてしまった。



「マユリン? ゴクリ」

「ごめんごめん、つい夢中になってしまった。今みたいに持って食べてみて」

「うーん、なんか気持ち悪いよ……けど、上手く言えないけど、何かそそられるものがあるよ」

「ミリは真由ちゃんにそそられる」



 ミルネは躊躇いながらも、少しずつ魚を口元に寄せて、今にもかぶりつきそうだった。そして、香りに負けて、決意が決まったのか、一気にかぶりついた。



「何これ!!? 美味しいよ!! こんな食感初めてだよ!!」

「かぶり」

「うんうん、旨いだろ!? そして、ミリちゃんはなぜ俺の耳にかぶりつく?」



 ミルネは一口食べた瞬間から、ハマったのか? 残さず一匹たいらげ、ミリちゃんはなぜか分からないが、俺の耳を食おうとした。



「マユリン! もっとお魚欲しいよ!!」

「いいよ、どんどん食べて!」

「ミリちゃんも、一緒に食べよ!! マユリンも美味しいけど、このお魚は違った美味しさがあるよ!」


「おいおい!? なんかもう経験があるような言い方。もしかして寝ている時に俺を食ったりしてないだろうな!?」



 ミルネは不可解な事を言いつつも、ミリちゃんに手を差し伸べて、魚を口元に持っていった。



「ミリちゃん食べて!」

「かぶっ」



 ミリちゃんは意外にもあっさりと、ミルネの言う通りに一口食べた。すると、ミリちゃんが可愛い物を発見した時に見せる輝いた瞳で、自ら魚に喰らい付き、残さずにたいらげた。余程美味しかったんだろう。




 ――それから、あっという間に10匹程いた魚も、3人で完食することが出来た。そして、暗闇の中で火力が落ちた焚火の炎を見ながら、3人くっつくように一緒に座り、満腹感と余韻に浸っていた。


 しばらく、2人とも沈黙していたが、ミルネはさっき食べている時と違って、落ち着いた雰囲気で俺に話しかけて来た。



「マユリンの世界は、いつもこんな物を食べるの?」


「そうだけど、こんなのほんの一握りで、俺の世界にはまだまだ旨い物が沢山あるよ。ミルネやミリちゃんが絶対にハマる甘いスイーツもあるしね」


「いいなー、あたしも食べてみたい」

「食べ物だけじゃないぞ。ミリちゃんが見たらびっくりするような可愛い服や小物もあるぞ」

「それ欲しい。ミリも真由ちゃんの世界に行く」



 塩焼きの効果は絶大で、2人とも俺の世界に興味深々だ。



「アルシアに会いに行きたいし、落ち着いたら一緒に行こう」

「うーん、アル姉大丈夫かな……。魔法が使えなくなって……」



 この話題になると、2人はアルシアが魔力を失って、二度と魔法が使えないことを心配する。俺もこの世界での魔法の重要性は、理解しているつもりだからよく分かる。しかし、今アルシアが居るのは俺の世界だ。だったら……。



「俺の世界では、魔法を使える人間はいない。だからこそ、さっき使ったライターを作って、誰でも火を起こす事が出来る。また、そう言った道具や技術が星の数程あって、日々進化し続けている。きっと、アルシアもすぐに馴染んで、気に入ってくれると思う」


「そうかな……マユリンがそう言うなら、きっとそうだよ」

「だから、アルシアがこっちに帰って来ても、安心して過ごせるように俺達も頑張ろう」

「ミリも頑張る。」



 今の状態だったら、またダンロッパに狙われる危険もあるし、ガムイも復活するかもしれない。だからやっぱりここはベルリア学園からの協力を得る必要がある。

 そうすれば、かなり有利になるはずだけど……上手くいくかな……。



「真由ちゃん、ポンタちゃんは魔法使いに抱かれないと元に戻る」

「えっ!? あっ、うん、それは心配しなくても大丈夫」



 いきなりの発言でビックリしたが、その問題は大丈夫だ。なぜなら、一人魔法使いがいるからな。ポンタなら俺の世界の記憶もあるみたいだし、優秀だから上手くやるだろう。



「マユリン、明日はこの湖から出発するの?」

「そのつもりだったけど、どうして?」

「前に約束した『お願い事』を聞いて欲しいな~っと思って」

「ああ、あの件か。いいよ。ここ最近、ぶっ通しだったからな、たまには休日も必要だろう」


「やったー! ひっひっひー」



 うーん、いつもながら嫌な予感しかしない。

お読み頂き、ありがとうございます。


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