第105話 魔力を使わない焚火
「ごめんマユリン、大丈夫?」
「痛たた……いや、助かった。それにしてもあの巨大な魚の魔物を一瞬で倒すとは……」
ミルネの一撃で魚の魔物は、数十メートル先まで飛ばされ、周囲を赤く染めながらプカプカと浮かんでいた。
「あの一瞬でよく大きな攻撃が出来たな。お蔭で助かったよ。やっぱりミルネは凄いよ」
「でへへへ」
初対面の人でもはっきり分かるぐらいミルネは、顔を赤くしながら照れていた。
「でも、あたしこれしか出来ないんだ」
「えっ、そうなの? でも授業で戦い方を習ったりしてないの?」
「うーん、あたしBランクだから、習うのは主にサポートだし、あとはいざと言う時に身代わりになって、Sランクを守ることかなぁ」
「そ、そっかー。うーん」
この討伐隊『ラビットちゃん』にいると分からなくなるが、この世界は魔法の能力で優劣が決まり、結構厳しい階級社会だった。だからミルネは咄嗟にSランクの魔法使いを守るように、俺を助けてくれたのかもしれない。
ん? 待てよ。いざと言う時の為に授業で学習していたのなら、瞬時に魔力を出す方法も習っていたんじゃないか? だから、さっきミリちゃんの『ふんっ』という説明で理解出来のでは?
もし『ふんっ』だけで理解出来たら、授業なんて要らないだろう。
「マユリン、せっかく一杯お魚獲ったのに半分ぐらい逃げられたね」
「いや、それぐらいがちょうといい」
水辺に穴を掘って、水溜りを作って獲った魚を入れていたけど、さっきの騒動で大波が発生して流されてしまった。
「よし、釣りはもうおしまいにして、塩焼きの準備をしよう」
「しお? やき?」
「それは出来てからのお楽しみ。ひっひっひー、はぁー、ミリちゃんが帰ってこない……」
辺りは段々と暗くなってきているのにミリちゃんが森から帰って来ない。
先に火を起こして待ってもいいが、ミリちゃんにも魔力無しで火を起こすところを見せてやりたい。
とりあえず焚火の為の枯れ木でも集めておこう。
――そして、すっかりと日が落ちて辺りは真っ暗になった頃、ようやくミリちゃんが両手に木片みたいなものを抱えて戻って来た。
「真由ちゃん、これ」
「何これ?」
「小物にする素材」
「お前は森に何しに行った?」
ミリちゃんはお宝でも拾ってきたかのような満足した表情で、両手に何かの小物の素材となる木片の他に、木の実や小石等を持っていた。
もちろん、塩焼き用の串になりそうな物は持っているはずがなかった。
「ミリちゃん串は?」
「ない」
「いや、森に入る時にお願いしたじゃん」
「細い棒なら、今やる」
「へ?」
すると、ミリちゃんはそこら辺の木の枝を魔法で切り刻み、あっという間に10本程の串を作り上げた。やはり、Sランクの生産部は伊達ではなかった。
「はい、これ」
「ありがとう。で、なぜ森の中に入った?」
「ミリちゃんスゴーイ!!」
何はともあれミリちゃんは、俺の要望に応えてくれたわけだから、これ以上ツッコむのはやめておこう。
「ミリちゃんも揃ったことだし、今から釣った魚を塩焼きにするぞ! 魔法を使わずにやるからよく見ててよ」
俺は魚を一匹捕まえて、平べったい両手サイズの石の上に置いて、暴れないように手で押さえながら、ナイフで内臓を取り出した。
しかし、その光景を見たミルネとミリちゃんは、俺に軽蔑の眼差しを向けた。
「真由ちゃん、酷い」
「マユリンの野蛮人」
「い、いやこうしないと生臭さが残って美味しくないから!」
確かに生きた魚にこんな事をするのは残酷かもしれない。だからこそ、ありがたく頂けるし、残さないように食べようとする。
これがゼリーみたいなジュレだったら、そうは思わないだろう。
しかし、いきなりこの2人には刺激が強かったかもしれないな。
俺は2人の軽蔑の眼差しを浴びながら、黙々と作業を進め、全部の魚の内臓取りが終わると、今度は串を差して準備を終えた。
2人とも完全にドン引きしているなぁ。
「次は魔法を使わず火を起こすよ」
「そんなの無理だよ」
「まぁ、見てなさいミルネさん」
俺は出来るだけ乾燥した小さい小枝に、空気が取り込めるように置き、その周りを枯れ木で包んだ。
そして、ライター取り出して……。
「ふんっ(ミリちゃんの真似)」
俺はライターに火を付けた。やがてライターの火は小枝に燃え移り、そこから枯れ木に広がって焚き火らしくなった。それは小学生の時にやったキャンプファイヤーまではいかないが、その時感じた高揚感はあった。
「マユリンどうやったの!? 凄い!!」
「真由ちゃん凄い」
「残念ながらこれは俺が凄いわけじゃないんだな」
「なんで? 凄いと思うよ」
2人からみれば魔力の無い所で、意図的に火が発生するのが凄い事なんだろうけど、当然ながらライターで火を付けるなんて誰でも出来る。別に俺が凄いわけではない。
「これは『ライター』と言って、指で押した時に火花を飛ばして、ガスに引火させて火が出るんだよ。だから、押せば誰でも魔力を使わなくても火を起こす事が出来る」
「??」
予想通り2人とも理解してない感じだな。これは実際にやってもらった方が良さそうだ。
「ここを押すだけだから、やってみたらいいよ。本当に凄いのは、これを考えて作った人だから」
「あたしやってみたい!!」
先に名乗りを上げたのはミルネで、興奮気味で玩具を強請る子どものようだった。
「おお!! 凄ーい!! あたしでも火が付いたよ!」
「うん、押せば着くからな」
カチャッ! カチャッ! カチャッ! カチャッ!
「おい、ライターで遊ぶな!」
「だってこれ楽しんだもん」
そうか、火が出る以前にボタンを押して『カチャッカチャッ』言うのが新鮮で楽しいのか。この世界にこういう物は無いからな。
「ミルネちゃん、ミリも」
「あ、ごめんごめん、はい。これとっても楽しいよ」
ミルネはミリちゃんにライターを渡した。すると、ミリちゃんはジト―っとした目でライターを見つめていた。
うーん、なぜだろう? 嫌な予感しかしない。
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