第101話 夢は諦めたくない!!!
移植手術によって、魔力を復活させる方法を仮説の段階でありながらも、見つけ出した無垢朗の興奮は収まらなかった。
しかし、移植手術を知らないカリバーは、全く理解出来ていないようだ。
「無垢朗君、移植手術って何だい? それがどうして魔力が復活出来るんだい?」
「ごめんよ。カリバー君には分からなかったね。うーん、そうだね、例えば君の皮膚等の組織や、臓器を他の人間に移し植えるんだ。もし、魔力も宿ったまま移植されれば、魔力だってその人のものになるから、復活出来るんじゃないかという事」
「ちょ、ちょっと待って、凄いこと言っているけど、そんな事出来るの?」
「出来るんだよ。でも、成功しようが失敗しようがアルシアちゃんの身体に傷をつけてしまうし、手術に伴う精神的負担もあるから、簡単には出来ないんだ。でも、もし失敗すれば、せっかく立ち直ってきているのに、また絶望の淵に叩き落としてしまうリスクもある。うーん……」
さっきまで移植という発見をして、興奮していた無垢朗だったが、色々と問題が浮かんでくると冷静さを取り戻し、考え込んでしまった。
すると、カリバーはコントローラをゆっくりと机の上に置いた。
「無垢朗君、これも選択肢の一つだよ。アルシア君にリスクがあること、成功する保証は無いことをちゃんと説明して、自身で選んでもらうのが一番じゃないかな? また絶望させてしまうからと言って、言わないのは一番良く無いと思うよ」
「そうだね……アルシアちゃんの気持ちが大事だよね。それなら早い方がいいよね。明日、聞いてみようかな?」
「うん、僕も陰ながら応援するよ」
「よし、そうとなれば僕はもう少し調べるよ」
「頑張って、僕はゲームの続きをするから」
無垢朗は調べ物をするために、奥の部屋に入って行った。
――そして、翌日の昼過ぎ。
無垢朗は午前中にアルシアとあいみに(大事な話があるから、14時に研究室に来て欲しい)っと連絡しておいて、それまでの間、移植手術に関する情報を集めていた。
一方のカリバーは、いつもならゲームをしているところだが、珍しくゲームをせず、無垢朗が集めた移植手術の情報に興味を示していた。やっぱり、アルシアのことを心配しているのだろう。
そして、2人が奥の部屋で調べ事をしていると、アルシアとあいみが一緒にやって来た。今度はちゃんとノックして。
「無垢朗さん、入るよ! アルシアと一緒に来たよ」
あいみが一声かけて部屋に入ると、無垢朗も奥の部屋から出てきた。
「いやー、呼び出して悪いね。座ってくれよ」
あいみとアルシアは、部屋の真ん中のテーブルを挟んで、2人掛けのソファーに座り、対面する形で無垢朗も反対側のソファーに座った。その一方でカリバーと抱っこされているポンタは、奥の部屋で様子を伺っていた。
「今日は呼び出したのは、アルシアちゃんの魔力の話なんだけど」
「えっ……」
「ちょっと、無垢朗さん!」
昨日のゲームセンターの時に、アルシアがまだ魔力の事を気にしていた事があったばっかりなのに、突然の魔力の話にあいみは焦って止めに入った。
「あいみちゃん、大丈夫。僕も分かっているさ。でも、これはちゃんと話さないといけないんだ」
「無垢朗さん……」
「これはまだ可能性の話で、しかも確実性どころか確率すら全く見当もつかないということを留意して聞いて欲しいんだ」
アルシアは黙って頷いた。
「今、君の魔力が無になっているから、魔力を復活させることが出来ないという状態だ。だったら、他の人間から魔力が宿っている身体の一部を君に移植して、適合させる。そうすれば、その魔力は君のものになり、復活出来るという僕の仮説だ」
「……」
「無垢朗さん、それって移植手術をするって事だよね?」
「うん。でも、アルシアちゃんにはピンとこないよね」
アルシアは原理は分からなくても、何らかの方法で魔力が復活出来るという話は分かっているようだ。
「でも、この移植手術には気力もいるし、君の身体に傷を付けることになる。しかも、せっかく立ち直ってきているところに、失敗すると再び絶望の淵に立たされてしまう」
「……」
無垢朗の目を見ながら、話しを聞いていたアルシアだったが、視線を落とした。
「もしかしたら僕は、君に残酷な選択をさせてしまったかもしれないが選んで欲しい……」
「……」
「可能性は未知数でも、リスクがあっても、魔力が復活出来る可能性があるなら、君は移植手術を受けるかい?」
「……」
「別に今すぐ返事しなくてもいいんだけど」
アルシアは下を向いたまま、顔を上げようとしない。その様子を見てあいみは、心配そうに肩に手を差し伸べた。
「アルシア、無理に答えを出さないで、ゆっくり考えよう。ね?」
「ありがとう、あいみさん、無垢朗さん。でも、私……」
アルシアは顔を上げないまま、身体を震わせながら呟くように喋った。
「アルシア、大丈夫?」
「私……私……」
「アルシア……」
表情が見えなくても、声で泣いているのが一目瞭然だった。
魔法が使えた時に抱いた夢、魔力の復活への期待、二度と叶わないとアルシアの心の引き出しにしまい込んだでいたものが、今再び開こうとしている。
再びしまい込む事は、今のアルシアにはもう無理のようだ。
アルシアは、涙でくしゃくしゃになった顔を上げて、力強く答えようとした。
「私は……もう一度.....魔法が使えるようになる可能性が少しでもあるなら……移植手術を受けたい!!! 夢は諦めたくない!!!」
「アルシアー!」
アルシアはそのまま泣き崩れてしまったが、あいみももらい泣きしてアルシアをそのまま抱きしめた。
「ぼ、僕は全力で尽くすよ!」
無垢朗は泣いてはいないが、かなりやばそうだ。しかし、もらい泣きしたのはもう一人いた。
「くすん、ぼ、ぼ、僕も力貸すよ」
「吾輩も協力します」
部屋の奥から思わず、飛び出したのはポンタを抱いたカリバーだった。思わぬ人物の登場でアルシアは泣くのを忘れてしまった。
「カ、カリバーさん!? なぜここにいるの?」
「しくしく、はぁー。ちょっと訳あってね。でも、僕がここにいる事は他の人には内緒だからね」
「カリバーさん、やっと出てきたー。これで全員揃ったね!」
「無垢朗さん、あいみ、カリバーさん、ポンタ、みんなありがとう。私頑張るわ! 例え失敗しても後悔しないし、絶望もしないわ! だって私にはみんながいるから恐くない!」
こうして、アルシアは魔力復活の為の移植手術に挑戦して、無垢朗、あいみ、カリバー、ポンタは協力する事になった。
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