第100話 希望の道筋
あいみとアルシアは、無垢郎の研究室の前までやって来た。
「無垢郎さん、アルシア連れて来たよ。入るよー」
すると、部屋の中は、今さっきまでゲームをしていたような状態で放置されていて、もちろん言うまでもなく、さっきまでカリバーがやっていたものだ。
そして、慌てて無垢郎が部屋の奥の研究室から出て来た。
「あいみ君、気を付けてくれよ」
「あー、ごめんごめん。つい、いつもの感覚で入ってしまった」
「うん?」
アルシアは、二人が何を気にしているのか分からないが、そこまで興味は無さそうだ。
「無垢郎さん、アルシアに見せたい物って何?」
「まぁ、見てくれた方が早いと思う。そこに座って待ってくれ」
そう言うと、無垢郎は一旦研究室に戻り、そして、袋を持って戻って来た。
「これだよ」
無垢郎は、袋から魔法少女の衣装を取り出し、テーブルの上に置いた。
「アルシアにコスプレさせたいの……無垢朗さん」
「か、可愛い……あっ、これは『魔法少女ラムル』みたい」
アルシアは衣装から目を離さず見入っているが、あいみは少し呆れ気味だ。しかし、無垢朗は自信ありげな様子だった。
「アルシアちゃんに魔力が無くても、また向こうの世界でもやっていけるように、科学の力を使って魔法少女計画を実行中なんだ。その衣装はまだ未完成だけど、アルシアちゃんの意見も取り入れて、完成させようと思っているんだ」
「魔法少女計画? わ、私がラムルみたいに魔法少女になれるの?」
「アニメみたいなものを期待されると困るけど、イメージとしてはそんな感じになるね」
「無垢朗さん、アルシアが元の世界でもやっていけるようになるの!? 良かったねアルシア!」
「う、うん」
あいみは喜んでアルシアに接したが、アルシアの表情は少し複雑で、それは現実味が無いからなのか、魔力無しで戻るのが不安なのかは分からない。
「無垢朗さん、あいみさん、本当にありがとう! 私頑張るね」
ただ、自分の為に色々と助けてくれる事が嬉しくて、感謝をしているのは間違いなさそうだ。
「そうだ! 僕、ラムルたんのフィギュア持っているから、参考にしてくれたらいいよ」
無垢郎はまた部屋に戻り、箱に入ったフィギュアを持って来た。
「この前、ゲームセンターで取ったものだよ」
箱の表紙には、ラムルが左手を横向きに伸ばして、魔法攻撃をする躍動感があるイラストだった。もちろん、このイラストのフィギュアが中に入っている。
そして、無垢郎が箱からフィギュアを出した。
「こういう感じをイメージしているんだ」
「あっ……」
「どうしたのアルシア?」
アルシアはラムルのフィギュアを見ながら、何かに気付いたような反応したかと思えば、そのまま黙ってしまった。
アルシアがラムルのフィギュアを見た途端、黙り込んでしまったので、あいみと無垢朗は心配した。
「どうしたのアルシア? 気分でも悪いの?」
「もしかして、あまり気に入らなかったのかい?」
「……え? あっ、いや、ごめんなさい。何でも無いの。ラムルちゃんのポーズで……ちょっと、思い出しちゃったというか、ごめんね。もう大丈夫だから」
「あー、うん、大丈夫ならいいけど」
ラムルの魔法を放つポーズが、奇しくもアルシアが得意とする『魔動砲』と同じであった。
アルシア自身も忘れようと気持ちを切り替えようとしているが、こういう形で不意を突かれると、二度と魔法が使えない現実に気付かされてしまう。
その状況に無垢郎は、懸念していた魔力消失を思い出させてしまったと察したようだが、それはあいみも同じだったみたいで、無垢朗の傍で小声で話し掛けた。
(無垢朗さんの薬品で、アルシアの魔力は何とかならないの?)
(一応、考えてはいるけど、魔力の事は僕も良く分からないからね。その代わり、魔法を出来るだけ再現出来るような物を作っているところだよ)
(うーん、やっぱり難しいんだ。でも、アルシアが納得出来るようなものが出来ればいいよね)
そして、その後もアルシアは、2人に気を遣わせたと思い、無理に笑顔を作って心配させないようにしていたが、あいみも無垢郎もそれに合わすことしか出来なかった。
こうして、今日は解散してあいみとアルシアは部屋を出て行った。
2人が出て行くと、研究室に隠れていたカリバー部屋に入って、すぐにゲームを始めた。
「ちょっと、複雑なことになってしまったね。でも、ゼロになった魔力は絶対に復活出来ないからね。どうしょうもないと思うよ」
カリバーは研究室から話は聞いていたようだ。
「君も一緒に居てくれた方がいいと思うよ」
「うーん、考えておくよ。また、彼がこの辺りを嗅ぎ回っているみたいだしね」
「彼?」
「いや、何でもないよ」
カリバーは何か隠しているようだが、そこまで秘密にしたいとも思っていないような態度だった。
無垢郎も詮索するつもりは無さそうだ。
「そう言えば無垢郎君、さっき和田さんにスマホのことを相談したら、支給してくれるって言ってくれたよ。アルシア君の分も一緒に」
「それは良かったね」
無垢朗はフィギュアを箱に戻し、一息ついた。
「無垢朗君、スマホがあれば、いつでもどこでもこのゲームも出来るんだよね?」
「うん、同期すれっ……ば……でき……る……」
「どうしたんだい?」
「同期すれば……同期すれば……何か引っかかる……」
無垢朗は、突然『同期』という言葉に引っかかり、何回も連呼して考え込んだ。
その様子を不思議そうにカリバーは見ていたが、完全に自分の世界に入ってしまった。
「無垢朗君、本当にどうしたんだい?」
「……」
「無垢朗君?」
「一つ聞いていいかい?」
「う、うん」
ようやく正気に戻ったかと思えば、今度は真剣な表情と声で話し掛けた。
「魔力って、ほんのわずかでもあれば復活出来るんだよね?」
「ああ、ゼロじゃなければね」
「魔力って、全ての生き物にあるんだよね?」
「あるけど、仮に魔力の高い生物を食べたりしても、復活するのは無理だからね」
無垢朗は立ち上がり、ゲームコントローラを握るカリバーの手を掴んだ。
「移植手術だよ!!!! 皮膚でも何でもいい!! 適合さえすれば!! 僅かにある皮膚の魔力はアルシアちゃんのものになるんじゃないのか!! そうすれば!!」
「お、お、落ち着いて、無垢朗君。言っている事がよく分からないよ」
無垢朗はアルシアの魔力復活させる道を、決して諦めていなかった。
だからこそ、何気ない会話からヒントをすくい取ることが出来たのだろう。
でも、まだ復活出来る保証はないが、希望の道筋は出来たのは間違いない。
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