第1話 異世界から来た魔法使い
「あれ? 消えた?」
俺は杉田浩二、21才でスパイをやっている。東京にある社会の闇を粛正する『組織』と呼ばれている、名無しの機関に所属している。
今さっきこの組織に侵入した男を追っていたのだが、俺の目の前で消えてしまった。
俺は薬剤による身体強化の技が使えるから、逃すことはないはずなんだが、やつは魔法のように白い光を発して消えてしまった。
最後の放った一言は「まさかこの俺が追いつめらるとはなぁ。しかもお前は魔法を使っていない。魔力を全く感じなかった」と言い、俺が聞き返すと「次会うことがあったら教えてやるよ。じゃあな!」だった。
うーん、魔法とか何言ってやがるんだ? でも、逃げられたのは事実。
一体、司令官の和田さんになんて報告すればいいんだ?
俺は、司令官がいる部屋の前まで来たが、魔法のように消えたことをそのまま報告するか迷っていた。
しょうがない、その場の状況で報告するか。
そして、部屋の中へ入った。
「失礼します!」
すると、部屋の中には司令官の和田さん以外にも、俺の同僚で薬剤担当の戸田無垢朗、後輩で無垢朗のサポータである有山あいみ、そしてあともう一人、誰か分からないが長身でイケメンだけどジャージ姿の男がいる。
俺が中に入ると、ちょうど無垢郎とあいみは軽く挨拶して、退出して行った。
そして、司令官の和田さんとジャージ男と俺の3人になると、和田さんは俺に話しかけた。
「状況を報告してくれ」
いきなりの質問に、まだ回答を持ち合わせていないから焦る。
「えーと、なんというか……その追いつめたのは追いつめたのですが……」
俺が回答に困っていると、突然ジャージ男が会話に割り込んで来た。
「消えたんだね」
「そう消えたんですよ。って何で知っているの!?」
このジャージ男は何者だ!?
そして、続けて和田さんが話した。
「やはりそうか……『テレポート』が出来るということは、彼も異世界から来た魔法使いということか」
さらに驚いたのは和田さんの口から『異世界』『魔法使い』という単語を聞くとは思わなかった。まずイメージが合わな過ぎる!
いやいや、それ以前に異世界とか魔法とかマジで言っているのか? でも、和田さんは冗談を言う人ではない。
「ああそうだ、紹介しないとね。彼は異世界から来た魔法使いのカリバー君だ」
「どうもよろしくね」
「えっ!? い、いえ、こちらこそ」
さらりと紹介されたが、このジャージ男も異世界から来た魔法使いで俺は驚いた。まさか組織内でこんなやつがいたとはな。
「いや驚いたよ。彼を魔法使わず追い詰めるとはね。あれは『テレポート』で逃げたんだろうね。その魔法が使えるのは『Sランク』の魔法使いだよ。一応僕も『Sランク』だけどね。ランクはD⇒C⇒B⇒A⇒Sに分けられているからね」
「というか、なんでそんなに流暢に日本語が話せるんだ? 昔から居たのか?」
「違うよ。最近来たんだ。僕は日本語というものが分からないけど、魔力で意思伝達しているんだ。文字だって分かるよ。僕の世界ではこれが普通さぁ。もちろん、知らない物や概念等の理解を超えるものは無理だけどね」
つまり、どちらかが魔力を持つと言葉の壁が無くなるらしい。なんて羨ましい。
「それでカリバーさんは何しにここへ?」
「僕はたまたまテレポートでここに来たんだよ。ここの世界は魔法が無くても、科学? だったよね。科学の力でこれだけ発展したこの世界に興味を持ったんだよ。本当に不思議だよ」
「いや、魔法の方が不思議だが」
「僕はこの科学の世界にとても感銘を受けたんだよ。だから、この世界で生きることにしたんだ。組織に協力する代わりに、生活をサポートしてもらってるんだよ」
異世界人から見れば、この世界もそういう風に感じるのか。
「あ、そろそろイベントが始まる時間だね。ゲームに戻らないと」
「ネトゲにハマっただけだろ!」
「本当この世界は素晴らしいね」
「異世界へ帰れ!」
色々と謎の多いカリバーさんだが、まさか、単に本気でゲームにハマって、異世界に戻れなくなったわけじゃあないだろうな……。
「そこで杉田君に命令だ。異世界に行って、この世界に来た『Sランク』の魔法使いの調査と、魔法学園に通って、魔法を習得して欲しいんだ」
「えっ!!? 魔法使いになれるのですか!?」
「なれるみたいだ。そうだろう? カリバー君」
「うん、誰でもなれるよ。生きているものすべてに魔力が宿しているからね。もちろん、植物もだし、鉱物にも魔力がある。でも、魔力を引き出すには魔法使いによって『起動』させる必要があるんだ」
この世界には魔法使いがいないから、誰も魔力を引き出せないということか。
「2日後に入学出来るようになるから、僕がその辺りの手続きとか、準備しておくね。では、僕はこれで失礼するね。約束があるから」
「えらく急な話だな」
「それと僕がこの世界にいることは、内緒だからね」
カリバーさんは、一礼して足早に退出した。
「そういう事で杉田君、2日後に異世界に行ってもらうよ」
「はい、でも、カリバーさんに直接、魔法を教えてもらった方が早いのでは?」
「いや、今回の異世界人侵入の件もそうだが、悪意ある魔法使いがこの世界にやって来た時、彼らが未知の存在だけに、我々が対抗することは難しくなる。それはとても脅威になるかもしれない。だから、君に異世界に行ってもらい、彼らの世界を調査して欲しいんだ」
どうやら和田司令官は、異世界から来た魔法使い達を脅威なものと感じているんだろう。確かに魔法みたいなチートを使って、大勢でけしかけられたら、太刀打ちできずに支配されてしまうかもしれない。
だから、俺が異世界や魔法のことを知ることで、いざと言う時の対抗手段にしたいというわけか。
でも、スパイで魔法使いというのも格好いいかもしれないな。
ふっふっふー、ちょっと楽しみだ。
そして、俺も部屋を出ると、廊下にあいみが待っていた。
「浩二先輩! ちょっと待って下さーい!」
「うん? こんな所に女子高生?」
「あー、また言った! あいみは立派な社会人ですぅ!」
あいみは本当に見た目がJKだから、よくからかってしまう。
「ごめんごめん。で、何の用?」
「無垢朗さんが先輩にスタミナドリンクを渡してくれって」
「おお! 今日は結構走ったから助かるよ! あいつの薬剤はよく効くからな」
「先輩、今日はゆっくり休んで下さい」
「ああ、ありがとう」
無垢朗は、薬剤担当をしているから、今日みたいに体力を消費した時に、スタミナドリンクをよく貰っている。これ飲んで寝ると明日の朝はスッキリさぁ。
そして、この後は特に何もなく帰宅した。
今日は色々あり過ぎて疲れた。
異世界に魔法とか、普通に考えれば有り得ない話だが、和田さんが言うんだから本当何だろう。
とりあえず、無垢郎から貰ったドリンクを飲んで、早めに今日は寝るか……。
そして、翌日俺は朝起きると、何故か美少女になっていたー!?
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