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二十八話:共有事項

 王太子妃ファルティが行っていたらしい、何かの儀式めいたもの。これにより、ルピアは一年もの間、自分の思考回路を奪われ、行動も奪われ、自由を奪われた。

 結果、王太子妃となる未来も奪われた。


 ではファルティはどうやって、ルピアを『そう』したのか。

 魔術の類ではない。暗示でもない。催眠術でもない。

 それこそが、ルピアが言っていた『システム』と呼ばれる存在。

 これがファルティに力を貸し、人を操り、ファルティは王太子妃候補になっていなかったのにも関わらず、全ての手続きをすっ飛ばして王太子妃になった。


「まず、ここまでは皆、分かっていること」


 ミリエールが言うと、双子とヴェルネラ、ジェラルドが頷いた。


「そして、ヴェルネラには馬車の中で簡単に話したけれど…おじさまもいらっしゃるので、もう少し詳しく話します」


 次に、ルピアが移動中の馬車の中で見た、夢。

 その夢の中でファルティは大泣きしていたという。


『どうして大団円ではないのか』

『どうしてルピアが自分に力を貸してくれないのか』


 ただひたすら、どうして、を繰り返してもいた。


『どうして』

『どうして』

『どうして』


 いつも、ファルティは自分が間違っていないという自信に満ち溢れていた。そんな彼女がぶち当たった初めての壁が今回のことなのだろう。

 伯爵令嬢として抱いていた野心を、決して悪いとは言わない。しかしそれが得体の知れないものからの協力であるというならば話は別だ。


 ルピアが見た夢の中では、聞いたことのないような単語が飛び交っていた。


 まず、聞き慣れない『大団円』という単語。ファルティが一体何をどうして、それを成し得ようとしたのか。成し遂げることで何があったのか、ということは分からないままだったのだが、会話の中で聞こえてきた『システム』と、それと慣れた様子で話していたファルティ。

 ファルティを唆したのはその『システム』で、何かを達成したかったらしい彼女は今のこの現実に大層落胆しているとか何とか。

 落胆、というよりはその『大団円』になるはずだったのに、出来なかったことに対して時を戻せだのなんだの、かなりの無茶を通そうとしていたらしい。


「…気持ち、悪い…」


 話を聞いている最中に、ヴェルネラは心底嫌そうに呟いた。


「お義姉様のことを…いいえ、お義姉様だけでなく…人のことを何だと思っているのかしら…」


 ルパートはヴェルネラの背に手をあて、優しく撫でてやる。ほんの少し落ち着いたのか、ヴェルネラはルパートに視線をやって大丈夫だ、と告げた。

 頷いてルパートは背から手を離すが、代わりにヴェルネラの手を優しく握る。そのまま口を開いた。


「そのシステム、っていうのに操られてる間、姉さんは王太子妃の友達でいさせられた、ってこと?」

「そうなるわね」

「だから…受け答えがおかしかったんだな。操られ…ているというか、王太子妃の望むような役割を果たさせるために、ルピア個人の思考が邪魔だった」


 ジェラルドも続け、全員が神妙な顔になる。

 それほどまでに人を操りきれる存在が、いるということが恐怖でしかない。だが、ルピアは何かをきっかけに解放された。


「けれど、ファルティが何かの目的を達成したから、わたくしは用済みと判断されて解放されたのよね」

「胸糞悪いが、そういうことだろう」

「…わたくしは用済みなのに、何故わたくしに力を貸してほしいのかしら…」

「王太子妃教育や、諸外国の賓客への対応が関係していると思うわ。ルピアに教育係をしてもらうことで、『交代はしたがかつて親交のある王太子妃候補のお墨付きだ』と言わせたかったんでしょう」


 母の言葉にそうか、とルピアは納得する。

 将来の王太子妃として、数か国語話せなければいけない。国ごとの作法も覚えなさい。失礼があってはいけないのだから、と何度も言い聞かせられた。しかし、それがどういうものなのかは最早無い。消していて良かった…と安堵する一方で、考えれば考えるほど、ファルティへの不信感しか生まれてこない。


「王太子妃様が仰っている『大団円』?が何かは理解できませんが、まだ取り返せる何かがあると思っているのかしら…」

「それはないと思うわ。『システム』にきっぱりと無理だ、と言われていたから」


 そのシステムが一体何なのか。

 どこかの神たる存在なのか?それとも、神などではなく別の存在で、こちらが知らない魔術やらが特出して発達しているのか?…と、色々考えても分からない。


 ルピア達がもっている情報だけでは、何がなにやらさっぱりではあるが、この場にいる全員には共有できた。


「旦那様にはいつ伝えるの?」

「そのことなんですが、お母様。クア王国に移住してからでよろしいかと」

「え?」

「今色々とこちらが言って、国全体が混乱しても良くありませんが…それ以前に、わたくし達は不要とされた存在。そしてファルティは選ばれた存在」


 ならば、とルピアは続けた。


「自分たちが選んだ者、選んだ未来を進んでいただきましょう」

「頭のおかしな女が王妃になる未来なんだぞ?!」

「それが何か?」


 ルピアは冷たく、短く問うた。

 思わずジェラルドはポカンとしてしまったが、ミリエールも神妙な顔になっている。

 しかし、ルパートがルピアの言葉に続けるようにして問いかけた。


「その通りじゃない?選んだのはアイツらだし、捨てるものを無理に拾おうとしたら王家の威信なんて崩れ去るよ?」

「けれど、旦那様には今の時点で伝えてあげたら…」

「お母様、お父様の性格をお考えくださいませ。伝えたら間違いなくファルティを排除にかかりますわ」

「…そうよねぇ…」


 ミリエールとジェラルドは、アリステリオスの性格をしみじみと思い返していた。

 特に今回の一件は、可愛い娘の将来もこれまでの努力も踏みにじられたのだから、怒るという表現で済めば良いが…というレベルでキレるだろう。

 それにアリステリオスは物理的にも、強い。

 怪我人が出るだけで済めば問題無いが、死人が出かねない。


「それに、下手に動いた結果、ファルティを王太子妃から引きずり下ろしてまたわたくしが返り咲く!なんて…。見世物のように扱われるのも嫌ですわ」


 あの王家ならやりかねない。

 今回の件が全て何もかも、先程話していたシステムの仕業だとして、ルピアのように意識も何もかも乗っ取りのようになっていたとは考えにくい。

 少なからず己の意思で動いているのだろうから、責任はキッチリ取らせる。それが、ルピアの思いだった。


「とはいえ、あの『システム』とやら…。わたくしも接触できないのかしら」

「は?!」

「お義姉様!」

「ちょっとルピア!」

「待て待て待て冷静になれ!」


 怒涛の勢いで周りから止められるが、ルピアはただ一人不満そうな顔になっていた。

 自分を操っていたであろう、下手をすれば人間よりも上位の存在に接触して、万が一の事があれば…と周りが考えていたのだが、不満そうな顔を崩すことなくルピアは言う。


「人を好き勝手操って何がしたかったのか聞きたい、ということともう一つ」

「姉さん?」


 問いかけてくるルパートに、ニッコリと微笑みかけて更にルピアは言った。


「ファルティにも物申したいけれど、『システム』とやらにも物申したいの。……()()()、ね」


 うふふ、と笑うルピアの目は完全に据わっている。


「やだ、久しぶりに見たわ」

「俺も」


 家族であるルパートとミリエールは苦笑いを浮かべ、気持ちを落ち着けるためにお茶を口に含んだ。


「姉さん、本気で怒ってる」

「怒るな、という方が無理だけど」


 まだ見ぬ『システム』に対して何を言いたいのかは、やられた側でないと分からない。どうやって接触するのかも分からない、が。


「…やられたことは、きっちりやり返させていただきますわ。そのためにも、あちら側に対してのダメージが一番高い方法を考えなければいけませんわね…」


 お茶を飲み終わり、手ずからお代わりをティーカップに注いでいくルピア。

 先程までの怒りのオーラはいつの間にか霧散していた。


 そして、別に仲間はずれなどではないもののルパートとミリエールはこっそりと心の中でアリステリオスに謝罪をしたのだった。『ちゃんと話すから!』と心の中で二人とも付け加えて。

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