第8話 ~ 発芽 ~
「うっし、もう大丈夫だぜ!」
騎士のような格好をし、オレンジ色の髪が輝く。
「よかった~治って!もうほんとに大丈夫なんですね?」
「おうよ!この通りだぜ!」
ナーハの問いかけにテレは腕をブンブンと振り回してみせる。
「ははっ、安心しました。もう一時はどうなるかと。」
「おまえら、何を遊んでいる。」
ナーハたちが話していると白く綺麗な髪をなびかせ、ミレイユがやってきた。
「あっ、ミレイユさん!」
「少女よ、無事肉体が回復したようでなによりだ。」
「これも全部ミレイユさんたちのおかげっす!ありがとうございます!」
テレは深く頭をさげる。
「よい。些末なことだ。それより今日の予定は分かっているのだろうな。」
「はい!ナーハと一緒にミレイユさんと戦闘訓練をするんですよね?」
「そうだ。おまえたちにはこれから開拓隊員として領域で活動していけるよう強くなってもらう。今のままでは犬死にするだけだ。」
「ぼくは家族のためならなんだってします、ぜひビシバシと鍛えてください!」
「最初からそのつもりだ。加減はせぬ。覚悟して望むよう。」
「はい!!」
「よい返事だ。ではついてこい。」
そう言ってミレイユは廊下を進んでいく。
「ついたぞ。ここだ。」
ミレイユに案内されたふたりはそこで驚くべきものをみる。
「なんですか……これは……!?」
ミレイユに案内されるとそこには巨大な機械でできた扉があった。
「めっちゃ大きいんですけど!?」
「すごい、ぼくが10人分くらいある……。」
「これは開拓隊が使う特殊な訓練場だ。おまえたちにはこれから基本的にここで訓練してもらう。」
ミレイユはそういいながら備え付けられた機械を操作していく。
「おまえたちにはこれから戦闘訓練、魔法訓練、領域に関する座学をしてもらう。開拓隊員として活動していけるようしっかり取り組むよう。」
「うへぇがんばります。」
「やることが多そうですね……。」
「当たり前だ。本来領域には特級以上の隊員でないと来るのを許可されない。おまえたちにはここでの訓練を経て特級以上の力を身に付けてもらう。」
「よっしゃ!いっぱい頑張ってさっさと領域調査に行くぞ!ナーハ!」
「はい、頑張りましょう!」
「おまえたちが領域調査にいくなど一体何年先になるやら……。」
「えっ、年……?」
「当然だ。力はすぐには手に入らぬ。ミルにて数年に及ぶ訓練の末、特級以上の力を持っていると判断できればそのとき正式に隊員として登録してやる。」
「えっ……じゃあしばらくずっとここで訓練するんですか!?」
「そうだ。」
「えぇっ!?」
「なんだ。不満か?ならば帰っても良いのだぞ。おまえたちの覚悟はそんな些末なものだったということになるがな。」
ミレイユの言葉にナーハが動く。
「むっ……わかりました、やってやりますよ!」
「やってやるもなにもやらなければ何も成せぬ。ただそれだけの話だ。」
「あーっ!ぼくの覚悟はそんなんじゃないんですからね!?」
「ま、まぁまぁ落ち着いて。」
「ふん……。」
興奮するナーハをよそにミレイユは機械を操作していく。そうしているうちに、巨大な扉はゴウという音とともに動き出す。
「うぉあっ!?」
地面が揺れ動き、ガチャガチャと機械音をあげながら扉が開く。
数分に及ぶ開扉ののち、ナーハたちは驚くべきものを目にする。
「えっ……。」
「えぇっ……!?」
隊舎の中にあるはずの訓練場は、どこまでも続くような空と広大な大地が広がっていた。
「ええええ!!!!?」
「ついてこい。」
「一体どうなっているんだ……。」
ナーハたちはミレイユにつれられ訓練場の中を歩く。見渡すと、多種多様な形の建物や地形、遠くのほうには山のようなものも視認できた。
「ここ……どこですか?あの扉はどこか他のところと繋がってる転送装置なのですか??」
「違う。ここは開拓隊隊舎の中だ。」
「えっ……一体どうなってるんだ……。」
ミレイユは静かに目を閉じ思案する。やがて割りきったような顔で話し始める。
「少女よ、おまえは確か下級隊員だったな。ならば中等教育を受けているはずだ。開拓隊の隊訓はなんだ。」
「うえっ!?」
虚をつかれたテレ。わなわなと焦る。
「え、え、え~っと……。」
「はやく言え。」
「わわっ!えっとたしか、『未知を拓き、因果に抗い、脅威を挫く』だったと思います。」
「その通りだ。これは開拓隊に入って最初に受ける教育である初等教育で教わるものだ。そして中等教育ではこれに追加し開拓隊の理念を教わる。」
「理念……?」
「理念を元に隊訓はできている。『如何なる脅威にも屈せず、如何に於いても人道を尊び、決して希望を失うことなかれ。』開拓隊はこの理念に基づいて行動している。今後受ける授業で教わるとは思うが、開拓隊の一員である以上これだけは念頭においておけ。」
「はい、わかりました!」
「ところで授業っていうのは……?」
「ナーハは開拓隊のシステムについてしらないのか?いいぜ、あたしが教えてやるよ!」
「ふん……まぁいいだろう。」
「まず、開拓隊は最初に年に一回行われる実技試験と筆記試験を受けて両方に合格したやつが入れるんだ。合格して開拓隊員としての登録が済んだら開拓隊の偉い人たちがスケジュールを組んでそれに沿って訓練を受けていくんだ。技能•知識•魔法の3つを軸に組まれてて規定の訓練を受けたら昇進試験への挑戦権が獲得できるんだ。昇進試験も年に1回あって、落ちたらもう1年訓練を受けることになる。こうして何度も挑戦していくことで階級が上がっていくんだぜ!」
「なるほど、1年に1回昇進できるなんていいですね!」
「そうとは限らないぞ。」
「えっ。」
「いやぁ……はは……。」
「大概の者は一つの階級をあげるのに数年かかる。下級、中級、上級は3年、特級に上がるのには10年、極級は人数が少ないから明確には示せぬが、1年であがる者もいれば数百年という歳月がかかる者もいる。」
「百年!?」
「それほど極級というのは求められる技量が多いのだ。なにせ、なにかを極めた者が成れる階級だからな。」
「え、いやだって百年って……へたしたら一生かけてもなれないってことじゃないですか!」
「……?何を言っている、訓練の過程で死ぬわけではなかろうに。」
「え……?」
「あ、ミレイユさん、ノープでは魂質階級についてあまり知られてないんですよ。」
「ふむ……なるほど。あちらではその程度の認識なのか……。ノープに最後に行ったのは528年前だからな。」
「ご……え……?」
「ナーハ、人間の寿命は共振魂になることでほぼなくなるんだぜ?」
「えっ……一体どういうことですか……??」
「えっと……なんて言えばいいんだろうな……。」
「それは生命の構造に因るものだ。凡魂は魂が心の外側にある構造をとる。魂は内側に力を及ぼす性質を持ち、凡魂では魂が心を圧迫する。そのため心の摩耗が早い。それに対し共振魂では逆に心が魂の外側になる。心は魂を圧迫する性質は持たないため時間による生命の摩耗はほとんどない。ゆえに共振魂では寿命というものがほとんどない。」
「寿命ってそういう感じだったんですね……。」
「まぁ、難しいことはまだ先の話だからな。」
「話を戻す。開拓隊はそれらの理念に基づき行動している。そのため、この訓練場は開拓隊にとって必要不可欠なものだ。」
ミレイユが話をしているとある荒野の中で立ち止まる。
「領域は、色々な環境がある。統治領域では神の脅威が、非統治領域では自然の脅威が。それらに情けや手加減などありはしない。理不尽に圧されるだけだ。故に、開拓隊はあまねく理不尽に抗わねばならぬ。この訓練場は様々な理不尽に対抗するためにはるか昔に用意された開拓隊の叡知の結晶だ。」
「すごいんですね……。」
「この訓練場が見かけより大きく違った構造なのは時空間の調律によるものだ。そとの時空間とは密度と量が違う。故に見かけより大きな空間が存在する。」
「調律……?権能かなにかですか……?」
「これは超位魔法や科学など様々な分野の技術が……まぁいいだろう。」
荒野に風が吹き、絹のように美しいミレイユの髪がなびく。
「『メナッツ』」
ミレイユが呟く。
次の瞬間、周囲の地形が目まぐるしく変化する。
「うわぁ!えっ、どうなってるんですか!?」
「うおお!!」
地面から岩柱が生え、壁が形成され、ふたりの周囲を取り囲んでいく。
「ど、どうなっているんですか!?」
「これは訓練だ。領域で活動できるようお前たちを厳しく教育していく。覚悟しろ。これがお前たちが選んだ未来だ。」
「そんな……!」
「いきなりだなんて……。」
「まずはこの迷路から脱出し、私のもとへこい。時間制限はないが食糧や水などはないゆえ早くしないと餓死するやもしれぬな。」
「なっ!?」
「では頑張るよう。」
上空から見下ろしていたミレイユの姿が消える。
「そんな!」
「クソ!いきなりすぎるぜまったく……。」
「でもこういうのをしっかりこなさないと領域では生きていけない……。」
「……そうだな。」
「あのとき、セレスさんを打ち倒し次元の裂け目に入ったときに覚悟はしていたはずです。テレさん、協力して脱出しましょう……!」
「ふん……おうよ!」
「安心したまえ。この私が責任をもってお前たちを鍛え上げてやる。神の器にふさわしい魂魄にな……。」